1812話 三人四脚
「さて、【東雲あすか】さんを倒しましたがこれからどうしましょうか?
私としては体力が回復するまではここから動きたくないですが……」
それは俺も同意見だな。
今のままだと実質包丁次元の戦闘要員が一人だけになってしまっているからな!
だからこそ【釣竿剣士】が戦線復帰できる状態になってから動きたいが……
【WARNING!】
【活動可能エリアが縮小されます】
【活動不可能エリアが5分間点滅します】
【活動不可能エリアは5分後赤く染まります】
【赤く染まった活動不可能エリアにいるプレイヤーはHPを失います】
……これは最悪のタイミングだな。
「ええ、そうですね……
この森が赤く点滅し始めたということは、強制的に私たちは移動しなければ死を待つということでしょう。
急ぎましょうか……」
仕方ないな。
おーい、ボマードちゃん!
敵を倒したからこっち来い!
【釣竿剣士】を急いで運ぶから手伝ってくれ!
戦闘中後ろに下げていたボマードちゃんを呼び寄せると……
「うわっ、【釣竿剣士】さんが倒れてます!?
いや~、死んでるわけじゃないんですよね?」
あぁ、相手のスキルで強制的にスタミナ切れにさせられたってことだ。
ボマードちゃんみたいに1人でへばってるわけじゃないからな?
「とりあえず【包丁戦士】さんと二人で【釣竿剣士】さんを間に入れて肩を組む形でいいんですよね?
いや~、【釣竿剣士】さんは私や【包丁戦士】さんよりも一回り大きいですから肩を組んでも地面を引き摺っちゃいますね……」
「それはやむを得ないです。
生産プレイヤーは時として妥協しないといけない時もあります。
引き摺られるのは甘んじて受け入れますよ」
というわけでボマードちゃんの二人で【釣竿剣士】を運びながら活動不可能エリアからの脱出を目指して動き始めた。
「そういえばこれってどこに向かっているんですか?
いや~、とりあえず【包丁戦士】さんが動く方向に合わせてますけど、行き先ってあるんですか?」
いや、無いな……
どこまで活動不可能エリアになっているのか不明な以上、パッと上空から見て赤色に点滅してなかった方角に足を運んでいるだけだ。
長時間空を飛んでいると敵に見つかるかもしれなかったから、本当に一瞬見渡した時の情報を参考にしているのだ!
「最低限生き延びることを優先したわけですね。
五分間というリミットがある以上、賢明な判断とまでは言えないですが無難な選択ですね。
間に合わなければ目的地云々の話も無駄に終わってしまいますから」
そういうことだな!
まずはこの一帯から脱出してから考えよう。
【釣竿剣士】を引っ張りながらだと間に合うかもギリギリだし、ボマードちゃんも俺のペースに可能な限りついてこいよ!
「いや~、難しいですよ!?
私の身体常にデバフ状態ですからね!?
これでも全力なんですよ~」
まぁ、そうだろうな。
ボマードちゃんが非力なことは承知してるから遅れるのは当然だと思っている。
その上で急かしてるってわけだ!
俺たち三人の命がかかってるから、多少は焦ってもらわないと困るからな!
「【包丁戦士】さんが鬼畜ですよ~!
いや~、そんな【包丁戦士】さんも好きなんですけどね!」
「二人の間に挟まれながら夫婦漫才みたいなものを聞いている私の気持ちはどう表現したらいいんでしょうね……?」
「ああっ、すみませんでした!
いや~、ついついやっちゃいましたね」
これ、俺も悪いのか!?
腑に落ちないぞ……
「それにしてもこんな姿で敵に見つかってしまったら大変なことになりますね。
全員が肩を組んでいるので的が集まっている状態ですし、機動力もかなり落ちていますからね……
集中砲火なんてされた時には全員お陀仏です」
そこは俺も懸念しているところだが、流石に【釣竿剣士】を見捨てて進むなんてことは出来ないからな……
回復の可能性が全く無いならともかく、状態としてはただのスタミナ切れだから戦力として今後も期待できる以上、多少無理をしても連れていった方がリターンが大きいのだ!
「そう言ってもらえると嬉しいのですが、くれぐれも無理だけはしないようにしてください。
最悪私はこのまま死に戻りしてもいいですが、包丁次元全員が脱落してしまっては本末転倒ですからね」
まあ、その時は遠慮無く見捨てて逃げさせてもらうさ。
そこは嘘でも「お前を見捨てて逃げられない」とでも言うべき場面なのでは?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】