1811話 生足舐め舐め、血舐め舐め
「さらに押し通りますよ。
釣竿一刀流【抜刀斬】!」
【釣竿剣士】は釣竿一刀流【怪力】を放った余韻に浸らせないようにさらなる追撃を【東雲あすか】へ向けてしかけていった。
神速の居合い攻撃だが……
「はんっ!
オメーのその攻撃はさっきも見たっつー話だな。
舐め舞わせっ、【『妖血残骸』ー血舐】」
【東雲あすか】がそう呟くと、釣竿一刀流【抜刀斬】を放っている最中だった【釣竿剣士】の足元から舌のような形をした血が纏わりつき足を雁字搦めにしていった。
それを見た俺は包丁を投げ出して【釣竿剣士】の方へと駆け寄っていく。
大丈夫かっ!?
「うひゃっ!?
これはヌメヌメベトベトで気持ち悪いですね……
足全体を舐められているみたいです……」
「だろーな。
文字通り舐めてんだからな。
だが、ただ足を舐めてるだけじゃねーぞ」
そう言った直後、【釣竿剣士】は釣竿一刀流【抜刀斬】を【『妖血残骸』ー血舐】に向けて拘束を振り払ったようだがその代わりに力を失ったかのように地面へ突っ伏していた。
あの【『妖血残骸』ー血舐】はそんなにダメージを一気に与えられる攻撃だったのか!?
だが、見た目からするとそんなにダメージを与えられるようなものには思えなかったんだが、俺の勘違いだったのだろうか……?
「い、いえ……
外傷は全く無いですね……
ですが急に身体に力が入らなくなったんです」
身体の自由を奪われた……というよりはスタミナ的なものを奪い取ったのか?
物理的な攻撃だけじゃなくてこんな搦め手まで使ってくるとはな。
「【『妖血残骸』ー血舐】は文字通り相手の血の要素の一部を舐めとる技だ。
ヘモグロビンが足りなくなって貧血になる……そんな現象を再現したっつー話だな。
【山伏権現】もこんなところまでVRMMOで再現しようなんざ随分と変態チックな拘りしてんなとは思うぞ」
【東雲あすか】は【山伏権現】にケチをつけていた。
まぁ、妙なところに拘っているなと思ったが、一方で【山伏権現】はアイツの視点で無駄と思うことはしないだろう。
この場合の無駄なことということは、効率がいい……ということではなく『面白い』かどうかだけどな。
とはいえ、【ブレイブダストオンライン】の挙動をそのまま【ボトムダウンオンライン】で再現できるように移植したのもその功績なのだろうから、【東雲あすか】はそれに感謝するべきなのでは?
「感謝するにはなんか釈然としねーんだよな……
まぁ、いいか。
そろそろトドメを……」
【東雲あすか】は不服そうな顔をしながらも、地面へ突っ伏している【釣竿剣士】にトドメを刺そうと血刀を振り上げ、それを地面に向けて振り下ろ……
……せなかった。
「んだとっ……!?
攻撃したような素振りなんて無かったぞ……」
【釣竿剣士】を見下ろす体勢で【東雲あすか】は止まっており、血刀はその手から溢れ落ちて地面へとカランと転がっていった。
そして、【東雲あすか】の胸からは俺の包丁が生えていた。
そう、俺が【東雲あすか】にトドメをさせたってことだ。
……ふー、間一髪というところだったな!
【釣竿剣士】が死ぬ直前に防げて良かったぞ……
俺は額の冷や汗を拭いながら、薄い胸を撫で下ろして安堵していた。
「【包丁戦士】さん、いつからそんな仕込みを考えていたんですか?
それにどのタイミングで仕掛けたんですか……?
私は完全に地面へ突っ伏していたので全く見れていませんでしたが」
考えたのは【東雲あすか】が最大の隙を見せてくれそうだったタイミングからだな。
つまり、【釣竿剣士】が無防備になりかけたところからだ!
あと、仕掛けたのも同じタイミングだ。
つまり、ほぼアドリブっていうわけだな。
【釣竿剣士】に駆け寄る時に宙に包丁を投げておいたのが、さっき【東雲あすか】のところに……ちょうど胸のところに落ちてきたわけだ。
本当は首を狙ったんだが、しれっと逸らされて胸になってしまったんだけど結果的にどちらも致命傷で死に戻り確実なのは変わらないのでオッケーだ!
「モデルとしては首から上は守らねーといけねーからな!
にしても、土壇場でして、やられた、ぞ……」
悪いな、お前のその【鮮血魔刀ー紅雨】に真っ正面から付き合っていたらこの後に控えているであろう【師匠】と【夢魔たこす】とまともに戦えなくなるくらい疲弊してしまうからな。
不意討ちで倒さざるを得なかったとも言える。
「今度は、容赦しねー、から、な……」
【東雲あすか】はそう言い残すと光の粒子となり死に戻りしていった。
……これで、とりあえずは安心だな!
「私は全く動けなくなりましたけどね……」
これ、【釣竿剣士】は実質戦闘不能状態なのか!?
あまりよくない展開ですね……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】