1810話 鮮血魔刀ー紅雨
「魔天に輝く妖しい雨の如く……
啜れっ、【鮮血魔刀ー紅雨】!」
【東雲あすか】が自分で握っている刀へと語りかけると、その血のような色に染まった刀が分裂していき一本は手元に残ったまま……そして残りはまるで翼のように【東雲あすか】の背中に生えていったのだ!
真っ赤な翼というと聞こえはいいが、刃物が生えていてそこから滴り落ちる血が組み合わさっているので不気味というか、物騒というか……そんな感じだな!
「これが俺の本来の戦闘形態っつーことだな。
ボトムダウンオンラインの中では、普段は【聖獣毛皮】でプシーナクの力を纏って戦っているっつー話だが、オメーら相手だとあれじゃ足りなさすぎるからわざわざこれを引っ張り出してきたんだ。
負けることが分かっててもこれを出すことってほとんどねーんだからな?
今回は流石にやべーから使うが……」
【東雲あすか】よ、何をそこまで焦っているんだ……?
負けるのが分かっている時でも使わないような手をわざわざ使うということは、俺の知らない情報を掴んでいるのかそれともアンカー次元での事情が絡んで来ているのか……?
大人しく負けてくれたら良かったものを……
「あと、純粋に同僚のオメーに負けたくねーのもある」
「えっ、この人【包丁戦士】さんの同僚……仕事仲間なんですか?
リア友というやつですね!」
リア友……いや、そこまでの関係性ではないかなぁ……
職場で何度か顔を合わせることはあるが、ご飯とか一緒に食べに行ったことがあるわけでもないし。
「あん?
俺と一緒に飯行きてーのか?
今度の集まりの後行くっつー話か?」
まぁ、それは任せる。
その時の事情次第だ。
「りょーかい!
ってなわけで、後腐れも無さそうだしそろそろ攻めさせてもらうぞ」
【東雲あすか】はそう言うと血刀の羽を震わせなから飛んで来て、一気に俺たちへと肉薄してきた。
【釣竿剣士】っ、何があるか分からないから取り敢えず避けておけっ!
俺もこの天子の翼で避けるぞっ!
「わかりました。
では、ご武運を!」
そう言って俺と【釣竿剣士】は左右へ別れて回避していった。
すると、【東雲あすか】が通り抜けていった後の地面には巨大な斬撃の跡があり、見た目で見えているだけではなく別のところでも攻撃に作用する概念があの姿の【東雲あすか】に付与されているようだ。
全身刃物人間とでも言ったところか……?
「そりゃ面白れー表現だっつー話だ。
血の凝固を再現した力なんだが、流体と固体を自在に変えられんのは面白れーだろ?」
つまり、瞬間的に血刀を流体に変化させて範囲を広げ、そのあと固体に戻しているということか。
擬似的な抜刀術の応用だな!
よく考えたじゃないか、めっちゃ鬱陶しい戦術だぞ……
だが、防御面はどうだろうか?
スキル発動!【渦炎炭鳥】!
俺は赤色の魔法陣を生み出し、そこから火柱を放つことで【東雲あすか】を丸焼きにしようとした。
猛火が迫るこのタイミングで【東雲あすか】はどう動くのか……
「ちっ、こりゃ切れねーな。
特権スキル発動!【インフェルノバーニア】!」
【東雲あすか】はとっておきと言わんがばかりに血の斬撃を燃料に広範囲へと爆炎を展開していった。
炎には炎で対抗してきたというわけか……
しかもご丁寧に火力はほぼ互角……向こうが範囲攻撃なことを考えると総合力ではこっちが負けていると言ってもいいな。
こっちだって天子の力を使っているはずなんだけどな……
「あっぶねーな!」
【東雲あすか】に危ない要素はあったか?
いや、もしや防御力が弱くなってる可能性が高まったと考えてもいいのかもしれない。
前に【東雲あすか】があの刀を使うときに命を削っているようやニュアンスの発言をしていた時があった。
どのように削っているのかまでは聞いていなかったが、体力とか防御力みたいな生存に必要な能力を犠牲にして攻撃力を上げているのかもしれないな!
ただ、こっちから攻撃しても向こうも攻撃で相殺してきてダメージを通せていないから実証は出来てないが……
「これではどうでしょうか?
釣竿一刀流【怪力】!」
俺と【東雲あすか】が炎攻撃同士で相殺している間に、【釣竿剣士】は釣竿のルアーを鉄球に取り替えて超腕力を発揮することで、そのまま鉄球をぶつけようと釣竿を振り回していった。
「こえー攻撃するじゃねーか!
【鮮血魔刀ー紅雨】で止められて無かったらどうなってたか想像するのも嫌になるっつー話だな!」
そう言いながらもしれっと血刀で受け止めていた辺り、アバターの防御性能が落ちていたとしてもプレイヤースキル面での防御力は健在のようだ。
それが一番厄介なんだよなぁ……
別ゲームの現象を引っ張ってきたわけですか……
これもまた歪ですね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】