1809話 鮮血魔刀の東雲あすか
「幻像を見せるスキルですか……
こんなスキルもあったんですね。
全く気づけませんでした、しかも声まで幻像のところからしてましたよ」
【釣竿剣士】は【東雲あすか】が使用した特権スキル【ブラッドバーニア】の効果に驚いているようだった。
視覚も聴覚も騙すという優れたデコイスキルだからな……
俺だって欲しい性能だ!
……だが、俺がいる場面でそれを使ったのは失策だったなぁ!
スキル発動!【天元顕現権限】!
さらにスキル発動!【渡月伝心】!
俺は天子の黄金の左翼を生やした後【釣竿剣士】が攻撃した後の隙を狙い、【東雲あすか】の姿が見える場所から斜め45度のところへ【伝播】の円環粒子を飛ばしていった。
「【包丁戦士】さん、いったいどこを狙って……?」
【釣竿剣士】が俺の行動に困惑しているようだがこれでいいんだ。
見てればわかるさ。
そして少しすると陽炎の【東雲あすか】の姿が消えていき、代わりに片腕を失った【東雲あすか】が別のところから現れてきた。
「ちっ、なんでここまで正確な位置がわかんだよっつー話だ。
【ブラッドバーニア】の再現度は完璧なハズ……」
おあいにくさまだが、俺は視覚でも聴覚でも判断せず『気配』で判断させてもらったぞ。
【ブラッドバーニア】の幻像は姿を再現していても気配はお前のものと全く別物だったから真の居場所もわかってしまったというわけだ。
俺はプレイヤーキラーだからな、人一倍気配には敏感なのだ!
こういう姿を消したり惑わせたりする戦術にはめっぽう強いのが俺だぞ。
「そうだったな……
だが、てっきり隠れてる相手を見つけやすい程度のものだと思ってたっつー話だ!
そこまで感覚が冴えてんのはこえーよ……」
お褒めに預かり光栄だな。
まあ、お前なら知ってるだろうが現実での経験が乗って強化された感覚でもあるからな。
こういう実戦の中だと自然とより鋭くなるのだ。
「そうかよ……
それにしても片腕持ってかれちまったな……
こんな状態で勝つのはもう無理だっつー話だ。
けどよ、これなら一矢報いれるんじゃねーか?
【LINKーBRAVE DUST】っ!」
【東雲あすか】はスキルの宣言ではなく……聞き覚えのないワードを叫び始めた。
いや、待てよ……?
【東雲あすか】は【株式会社幽刻修験堂】の中でも【ブレイブダストオンライン】というVRMMOの担当プレイヤーだったか?
ということは、それにちなんだ宣言なのだろう。
ただ、既に【東雲あすか】が使ってきていた特権スキル自体も【ブレイブダストオンライン】の仕様やスキルを引っ張ってきているからな……
LINKと言っていることから何かを繋げるんだろうが、いったい何が起きるのやら……
「俺の力の根源は沸き立つような血だ!
特に人から注目を受ければ受けるほど沸き立つってもんだ。
だからこそ、モデルをやってんだがやっぱり魅せるためにどうすればいいのかはいつも考えてたりするっつー話だ。
そして、最終的に落ち着いた結論は己の身体を磨き上げるってことだった。
その過程で日本刀の扱いを極めながら身体を鍛えたっつーわけだ」
なんか急に語り始めたな。
まぁ、【東雲あすか】がここでただの雑談を仕掛けてくるわけはない。
時間稼ぎも兼ねつつ……という感じだろう。
一応【東雲あすか】の情報は気になるからこのまま聞いておくけど。
「そして、【ブレイブダストオンライン】をプレイする中で手に入れた電子の身体でも同じだ。
ボトムダウンオンラインだと種族転生で獣人や竜人になったりすることで自分の身体を強化するが、【ブレイブダストオンライン】では『残骸』を集めてそれを身体に取り込んでいくことで強化する。
俺は特に『血の残骸』を集めることで強くなっていったっつー話だ」
それはつまり、その【ブレイブダストオンライン】での強化状態をこっちに共有させたって言いたいのか?
「話が早くて説明が楽なこった。
一時的なコンバートっつーわけだ!
向こうの世界での俺の2つ名は『鮮血魔刀』……血に飢えてたわけじゃねーんだが、『血の残骸』を集め過ぎて勝手に噂になっちまったんだ。
だが、それだけ注目されていた証でもある異名だ……血が沸き立つよなっっっ!」
【東雲あすか】がそう言うと周囲一帯の地面が血の赤に染まり始めていった……
異質な戦いが始まりましたね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】