1807話 消える【包丁戦士】
「というわけですが、【東雲あすか】さん……この場で戦いますか?
私たちに有利な状況ですが、序盤なので戦いを避けたいという気持ちもあります」
【釣竿剣士】は冷静に対応するということで、向こう側に選択肢を与えたようだ。
これで様子を見たいというわけなのだが……
「わりーな、たこすに会わせる前にオメーたちの体力は少しでも削っておきたい。
もう一人が頼りねぇっつー話だからな。
改めて……俺の名前は【東雲あすか】ァ!
スキル発動!【安価名案】ー 【修練武器上位解放】!
啜れ、【妖刀紅雨】っ!」
【東雲あすか】が名前を宣言しての【修練武器上位解放】で【妖刀紅雨】を起動させたようだ。
それによって、チュートリアル武器の日本刀に赤色の水が纏わりつき始めた……まるで血だな。
そして、セーラー服に入っている赤色のラインが大雨の中の水面のように赤々と揺らぎはじめた。
……日本刀の変化は見たことあったが、セーラー服まで連動して変化するとはな!?
これが【東雲あすか】がこれまで俺に隠していた戦闘方法か?
「【包丁戦士】さんすみません、交渉決裂みたいです」
【釣竿剣士】が謝るようなことでもないだろう。
向こうはどうせ俺たちと戦う気マンマンだったみたいだし、どっちにしても避けられない戦いだったというだけだ。
「まずはコイツを受けられるか見せてみなっ!
特権スキル発動!【バーニア】!」
【東雲あすか】は刀から血の斬撃を飛ばすのと同時に炎も飛ばしていった。
水斬撃と炎魔法の二重攻撃……まるで魔法剣士だな!
だが、これなら防げるだろ?
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!
二重の攻撃だとしてもどちらも対応できるのがこの技です。
釣竿一刀流【渦潮】!」
【釣竿剣士】は釣竿をトーチトワリングの要領で振り回しはじめ、迫りくる斬撃と炎魔法を両方とも切り裂いて防いでいった。
これが【釣竿剣士】の常用している防御技だ!
レイドボスの攻撃を軽々と防いでしまうくらいには強固な守りだぞ!
「うげっ、ここまで簡単にそして無傷で凌がれるなんて思ってなかったっつー話だ。
その辺のプレイヤーならこの一撃だけでも倒せんのによぉ!
こりゃ、俺が思ってんのよりも苦戦しそうだ」
「向こうもこれで様子見をしてきただけと考えるとどれくらいの猛攻になるのか、想像しただけでも厄介ですね。
遠近両用なので、どの距離感で戦っても対応されそうな予感がしますよ」
一撃のぶつかり合いでお互いの力量がある程度測れたようだな。
……ってなわけで、こういうのはどうだろうか?
「くそっ、気配消して背後に回り込んでやがったのか!
【包丁戦士】ィィ、MVPプレイヤーの癖に随分と狡い手を使うっつー話は聞いていたが味方を囮にしてやってくるとはな!」
そんなことを言いつつも【東雲あすか】は背中の薄皮一枚切り裂かれただけで済んでしまった。
【東雲あすか】が俺の攻撃に対して急反応をしたことで、ギリギリ回避を間に合わせてきたようだ。
あのタイミングで間に合わせてくるとはな!?
少しでも気づいていたのならともかく、その口振りからして本当に気づいていない状態からかわしてきただろ?
「【師匠】相手ですら意表を突いたことがある【包丁戦士】さんのバックアタックをこうもあっさりと……」
「【包丁戦士】、オメーが遠ざかる前にこれでも食らいなっつー話だ!
特権スキル発動!【バーニアボール】!」
【東雲あすか】は血の斬撃と一緒に今度は火の玉を飛ばしてきた。
さっきよりも範囲は狭くなっているがその分威力が上がっている、つまり一点突破を狙ったもののようだが……
【釣竿剣士】、頼んだ!
「相変わらず人使いが荒いですね……
こういう技にはこれで対抗しましょうか。
釣竿一刀流【飛翔】!」
【釣竿剣士】は俺を掴み一瞬持ち上げて空へと飛び上がっていった。
そのカラクリとは……
「釣竿をプロペラみたいに振り回して空を飛びやがった!
本当にオメーは【師匠】の弟子みてーだな?
技までそっくりだ。
だが、あっちと比べると迫力が足りねーな。
つまり、オメーなら何とかなりそうっつー話だ」
「それは随分と舐められたものですね。
確かに【師匠】と私を比べたら年季も実践経験の差もかなりありますが、それでも私は安い女ではないですよ」
「生憎、俺も安い女ではねーな!
どっちが上か見せてやろうじゃねーか!」
だからすぐ熱くなるなって!
「……ちっ、【釣竿剣士】に目を奪われてんのはよくねーな。
【包丁戦士】が視界からすぐ消えちまうっつー話だ。
服を多少切られただけで今回は済んだが、知らねー間にいつかキルされてそうだな……」
これがミスディレクションというものですね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】