1805話 ボ包
「とある~日、森林の中~、【包丁戦士】さんに~、出会っ~た♪」
まるでハイキングに来たかのようなテンションで歌いながら進んでいるボマードちゃんだがネットアイドルのようなことをやっているだけあって歌唱力が高いな。
【ジェーライト=ミューン】を倒す前はまだ少し上手いかな?くらいの実力だった記憶があるんだが、プレイしながら研鑽を積んでいったのだろう。
「ボマードさんは本当に歌が上手ですね。
アイドルイベントとかありましたけど、結局ダントツでボマードさんが優勝していましたし包丁次元で越えられる人はもう出てこないかもしれませんね」
まあ、そうなんだが……
ツバタとクロユリのペアもいい感じじゃなかった?
確かユニット名はユニフラワーだったか?
俺はしれっと【黒杖魔導師】と俺が変装してきた時のユニットの感想を流れで聞いてみることにした。
あんまり聞いて回る機会も無かったし、ちょうどいいはずだ。
「そういえばあの時活躍していたのに今はあまり名前を聞きませんね?
いや~、たまに目撃情報が掲示板で流れてますけど他のゲームと兼任なんでしょうか?
歌も上手くて可愛い人たちでしたよね!
何だか胸がトキメキましたよ~、【包丁戦士】さん以外にトキメキを感じたのはツバタさんがはじめてかもしれません……」
そりゃ同一人物だからな。
ただ、動きとか発言を意図的に変えていたのにそこに直感で当ててきているのはボマードちゃんの鋭さなのだろう。
まぁ、気づいてはいないみたいだけど。
「演出も派手でしたし、動きについても可愛らしい動作とは裏腹にかなりキレのあるものでした。
もし戦闘をしたとしてもかなりの実力者になれるほどのものでした。
もちろん、ステージ外での動きを見てみなければ正確には分かりませんが……」
【釣竿剣士】の視点はあくまでも戦闘に関するものだった。
その視点は怖いわ!
もっと誉めるところは無かったのか……?
いや、動きのキレは一応アイドル要素の範囲内といえばそうなんだがちょっと釈然としないよな。
「私自身アイドル活動について詳しいわけではないですからね。
生産プレイヤーとしての視点で評価してみました」
それは本当に生産プレイヤーとしての視点だったのだろうか。
まぁ、いいけどさ。
「そういえばボマードさんの衣装はどのように用意されているんですか?
私は知らないんですけど、ステージ衣装が毎回凝っていると私のクランの中でも話題になることが多いです」
「クラン【釣り堀連盟】は生産プレイヤーの集まりですもんね!
いや~、服飾系生産プレイヤーの皆さんからすれば気になるのかもしれないですね!
私の衣装はクラン【検証班】の有志の方が作ってくださるのが大半ですね。
その分、ライブ収益の何割かは【検証班】にお渡ししています。
とはいえここまで手伝って下さっている理由はお金じゃなくて熱意だと思ってますよ~!
昔は無償でしたからね」
あっ、今は収益とか渡してるんだな。
それは知らなかった。
それだけボマードちゃんの地位が確立されてきたということなんだろう。
俺としても鼻が高いというものだ!
「後方腕組み先輩面というやつですね」
まぁ、一応ボマードちゃんも俺のクランメンバーだしな。
クラン単位での活動ってそんなにしてないから俺の貢献度は大したこと無いけど。
「そんなことないですよ!
いや~、【包丁戦士】さんはいつも私が成長するきっかけをくれますからね!
アイドルをやるきっかけをくれたのも【包丁戦士】さんですし、行き詰まった時も【包丁戦士】さんと行動するとすーっと解決しちゃうんですよ~!
だから私の中では【包丁戦士】さんの貢献度はダントツで高いですね!」
その認識なのか!
そう言ってもらえると嬉しいが、真っ正面から言われると流石に照れ臭いな……
「【包丁戦士】さんは本当にボマードさんから慕われているんですね。
そういう関係はなろうと思ってもなれるものではないですし、今回の親密度によって助っ人として呼ばれる次元戦争へボマードさんが招待されたのも頷けるというものです」
そういう流れか。
まあ、ボマードちゃんが来る可能性が高いということはそれもあって予想はしていた。
ただ、思っていたよりも想いが強かったっぽいけど。
「【包丁戦士】さん側としても予想はしていたんですね。
それなら間違いないですね。
私もそれくらい仲がいいプレイヤーがいればいいんですけど、そこまで相思相愛になっている相手には心当たりがないです」
まあ、【釣竿剣士】は超人ポジションとして他のプレイヤーを距離を詰めにくいだろうしな。
俺もプレイヤーキラーで忌避されている立場だが、身内からはわりと慕ってくれているやつもいるからな。
悪のカリスマの一種でしょう。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】