1804話 異世界交流
「それで、これからどこに向かうんですか?
いや~、楽しみなんですけど不安もありますね」
まあ、異世界の土地を再現した場所だからな。
どんなものがあるのか興味半分、怖さ半分といったところだろう。
「ではまずは森の中へと向かいますか。
基本的に海辺では全体的に【師匠】と遭遇する可能性が高まりますからね」
「えっ、なんでですか?
いや~、この無人島の外側はほぼ海じゃないですか!
行動範囲が一気に狭くなりますよ!?」
「……それは【師匠】のチュートリアル武器からすれば予想できませんか?
【師匠】の趣味は釣りです。
なので海釣りをしている可能性があります。
それはこの次元戦争中であっても同じだと思います」
それは【師匠】の中では戦いよりも趣味が優先されるからか?
俺がそう尋ねてみたが、【釣竿剣士】がゆっくりと首を横に振って否定してきた。
「いえ、むしろその逆です。
【師匠】の心構えとしては常在戦場……常に戦いの中にあるという考え方です。
だからこそ、趣味の釣りを通してこの戦場が本当に自分の知っている場所なのかを確認してから本格的に動き出すことでしょう。
水辺があればそこに釣糸を垂らすだけで五感を研ぎ澄ますことによって、周囲のマッピングが出来ます。
【師匠】はそういう人です」
それはヤバいな……
俺は気配察知が上手い自信はあるが、【師匠】は動かずしてマッピングが出来てしまうのか……
それが本当なら俺の本業のトレジャーハンター活動をする時に、【師匠】がマッピングして、俺が気配察知すれば遺跡の踏破が滅茶苦茶簡単になってしまいそうだ。
というか、それが本当なら慣れ親しんだ土地じゃなくても水辺の次元戦争ならどこでだって優位に立てるじゃないか!
「そうですよ。
だからこそ【師匠】は最強なのです。
極論水溜まりさえあればその能力は使えますからね。
だからこそ、戦うとしても荒野のような枯れた大地だとある程度力を削げるわけですが……」
ただ、そんな開けた場所で戦ってしまうと今度は【師匠】の大規模広範囲遠距離攻撃に遠方から仕留められてしまうだろうな。
まるで天変地異のような攻撃ばかり繰り出せるから、敵がいると一目瞭然の状態にしてしまったら不味いだろうよ。
それに、俺が得意なのはヒット&アウェイが可能なゲリラ戦向きの地形だ。
それこそ【釣竿剣士】が提案したような森の中や入りくんだ地形で戦えるとありがたい。
「でしょうね。
だからこそ、まずは安全策でそこを提案しました。
森に逃げながらアンカー次元と蛇腹剣次元を見つけましょう」
流石は【釣竿剣士】、ここまで織り込み済みでの提案だったというわけか。
「ええっ、そうだったんですか!?
いや~、【釣竿剣士】さんって本当に戦いが得意なんですね!
強いのは知ってましたけど、戦術まで凄いなんて……
生産プレイヤーのクランを纏めてるので、そういうところには疎いと思ってました!」
随分と率直に伝えたな……
中々面を向かってそれは言えないぞ?
「ですが悪い気はしませんね。
誉められている内容ですから。
生産プレイヤーとして受け取るべき称賛は可能な限り受け取るようにしていますからね」
生産プレイヤー(?)な【釣竿剣士】の発言は置いておき、とりあえず俺たち三人は森へ向かうべく足を動かすことにした。
道中では見覚えの無い種類の木や石が落ちているのに気がついたが、異世界ならそういうこともあるだろう。
【ワタシ商人】がここにいたならこれを全部採取させていたが……
今はそれほど時間に余力があるわけじゃないし置いておくか。
「それにしても見たことがない木の実がいっぱいなってますね!
いや~、どんな味か気になりますよ!」
「一応、【師匠】が食用に植えた木ばかりなのでここにある木の実は基本的に食べることが出来ますよ。
ただ、【包丁戦士】さんたちが知っている種類の木の実は少ないかもしれませんね。
ボトムダウンオンライン内にあるものだと逆に私が知っているものに似ている木の実が少ないですから」
あぁ、ボトムダウンオンラインにある食べ物は基本的に俺たちの世界のものに準拠していることが多いからな。
異世界人の【釣竿剣士】の視点から見てみると見慣れないものが多くなってしまっていたのか、これは盲点だったな……
だからこそ、今回この場においては俺たちよりも【釣竿剣士】の方が色々と詳しいというわけだ。
まさか木の実にまで適応されているとは思わなかったが……
まさに異世界交流ですね。
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】