179話 超技術の共演
レイドボスの【ケイトリー=ホウセ】は俺たちを視認すると、挨拶代わりか指先で発生させた火の玉をこちらに向けて放ってきた。
「そんな単純な攻撃当たらないよ~!」
しかし、遠距離から直線的な軌道で放たれたからかパジャマロリは容易く回避することに成功した。
もちろん、パジャマロリ以外のメンバーも全員回避に成功している。
あの【検証班長】も当たっていないことから、本当に挨拶代わりで攻撃してきたのだろう。
「ボクを引き合いに出すの止めてもらえますかね……?
戦闘最弱有力候補みたいな言い方だよね……
いえ、事実ですが……」
自分で素直に自白する【検証班長】。
軍師タイプの生産プレイヤーなら戦闘が出来ないのは仕方がないとみんな思ってるから大丈夫だ。
流石にフラスコで戦いを強要するのは酷だからな。
「……次の攻撃が来ますり」
インフォが次の攻撃に対して備えるように伝えてくる。
その言葉で【ケイトリー=ホウセ】に目線を戻す。
……が、体勢とか変えてないぞ?
デマカセいうなよ!
「……左に避けるろ!」
それなりに必死そうな声で言われたので、嘘かもしれないがとりあえず左へステップしてみる。
すると直後にさっきまで俺がいた場所の足元から魔法陣のようなものが浮かび上がり、火柱が立ち上がったのだ。
ええっ!?
攻撃の気配すら感じなかったのに、なんでインフォはわかったんだ!?
戦闘なんて出来なさそうな見た目してるのに……
「……酷い言われようださ」
「インフォはねぇ~
魔法攻撃の発生場所が『わかっちゃう』んだよ~!
ability【現界超技術】ってやつみたいだよ~?」
他人のことなのに薄い胸を思いっきり張って自慢するパジャマロリ。
そして、その背後からパジャマロリはインフォが手に持っていた本で叩かれた。
「痛い~!!
何するの~!?」
当然受けた攻撃に涙目になりながら抗議するパジャマロリだったが、インフォはボサボサの髪を掻きながらそれに答える。
「……それは他の次元に言わない約束だったも……」
「あっ!?」
パジャマロリは口に手を当てるジェスチャーをしたが、もう遅い。
「ability【現界超技術】……なるほど……」
abilityの名前に敏感に反応しているのは【釣竿剣士】だ。
こいつも全く同じabilityを持っているから思うところがあるのだろう。
だが、abilityで持ち込んだ技術までは同じではないみたいだ。
流石に釣竿一刀流限定のabilityだったら優遇が過ぎるからなぁ……
そんな俺たちの様子を見て、これ以上隠しても無駄だと思ったのかインフォはability【現界超技術】の解説をし始めた。
「……ability【現界超技術】で出来るのは【魔力察知】でそ。
……どこで魔法が使われているのか、どういう軌道を描くのかわかる技術だり」
なるほど、かなり便利そうな技術じゃないか。
でも、そんな便利なものを無条件に持ち込めたのか?
もちろんデメリットとかあるんだろ?
「……?
……!?
……プレイヤーとモンスターに与えるダメージが激減するら……」
一瞬何かに驚いた様子を見せたインフォだったが、デメリットは一応教えてくれた。
持ち込んだ技術が違ってもデメリットは同じなんだな……
というかインフォは何に驚いたんだ?
デメリットがあるって言い当てたことか?
それとも俺が何かやらかしたか?
……蛇腹剣次元はデメリットがあるスキルとかあまり無いから、デメリットがあるって言い当てたのは意外だったのかもしれない。
「……次、左横から来るら」
左横を確認するが、今のところ何もない。
だが、さっきの話を聞いたからにはインフォのことを信用して動くのが無難か。
俺たちは全員後退して真横からの攻撃に備えた。
すると案の定、左横の壁に赤色の魔方陣が浮かび上がり、そこから火柱が放たれた。
うわっ、本当じゃん……
インフォは攻撃面で役に立たなさそうだが、こういう点で役に立つのもあるから次元戦争のメンバーに選ばれたのかもしれないな。
「なるほど……あの魔方陣は自在に現れて火柱を放つと本にかかれていましたが、まさかこんな攻略法があるとは思わなかったよ。
あくまでも魔方陣から火柱が出るので、魔方陣を見たら火柱が出てくるまでに全力回避するしかないと結論を出していましたが……いやはや、意外なものだね?」
【検証班長】は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてそう話している。
……というか、【検証班長】!攻撃パターンとか知ってるなら教えてくれよ!
「そうだったね、ボクとしたことが失念していたみたいだ。
序盤は指から発生させる火の玉の攻撃と、魔方陣を出現させて火柱を噴き出す攻撃の2パターンを組み合わせてきます」
【ケイトリー=ホウセ】はその言葉を聞いたからか、偶然か分からないが、五本の指から火の玉を出し、虫を振り払うかのように手を振るって火の玉を同時に飛ばしてきた。
5つ同時に飛んでくると面での攻撃だからかわしにくいな……
「うちに任せて~!
スキル発動!【水流万花】だよ~!」
パジャマロリがスキルを発動すると、パジャマロリの周囲三メートルくらいに水流の輪が形成され始めた。
そして、飛んでくる火の玉を水流の輪が受け止めた。
火の玉と水流がぶつかると蒸発し、共に消え去ったようだ。
炎攻撃をしてくるレイドボスに水の防御スキルを持つ蛇腹剣次元のプレイヤーはかなり有利だな。
協力関係で助かった……
「火の玉の攻撃はクールタイムも、スキル待機時間も短いので追撃に気をつけてください」
【検証班長】の言葉を聞いて身構えていると、その言葉の通り再度火の玉が指先から5つ放たれた。
さっきとは逆の手から放たれた火の玉だったが、今回は1つ1つが離れているから俺ならかわせる!
俺は火の玉をかわしながら【ケイトリー=ホウセ】に急接近していく。
「あなただけかわせても他がかわせないとダメですよ?
そういうとき生産プレイヤーはこうするんです!
釣竿一刀流【渦潮】!」
【釣竿剣士】はインフォ、マックス、【検証班長】の前に仁王立ちになってトーチトワリングの要領で釣竿を振り回し始めた。
そして、その勢いで俺がスルーした火の玉たちを軽々と打ち落としていき、非戦闘要員たちを守った。
ジェーの極太レーザーを断ち切ることができるくらいの防御だからな、こんな簡易攻撃くらいなら簡単に往なしてくれると思って利用させてもらったぞ。
「好き勝手言ってくれますね……」
【釣竿剣士】は呆れたように肩を竦めている。
俺たちは利用し、利用される関係だからな。
それが生産プレイヤーってやつだろ?
「……ごもっともです」
生産プレイヤーという言葉を使われると弱いようですね。
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