1764話 三槓子
俺がスキル【機蒸幽解】によって生み出した蒸気によって【怠惰なる妖蛇女】の発生させた沼地と沼蛇のスキル挙動が怪しくなっているが、【機蒸幽解】の制御が上手く出来ないのであまり時間の猶予は残されていない。
さっさと沼蛇を片付けるぞ!
……というわけで、えいっ!
俺は沼が消えた場所を這っていた沼蛇に向かって包丁を投げていった。
包丁の投擲による曲芸は俺の特技だ、よほどの事情がない限り外さない自信がある!
……ただ、このボトムダウンオンラインというゲームにおいてアイテムボックスという機能がないので投擲武器は複数持つと重くなるから推奨されてないし、チュートリアル武器を投げるということは身を守る武器を失うということにもなる。
その後の回収が容易な場合か、これで決着がつく場合のどちらかじゃないと使いにくい手段だ!
そして今回の場合は……前者だな!
「変態お姉さん、投げるの上手だね~!?
一回で当てちゃったよ~!
しかもクリーンヒットだ~!」
まあ、任せろと言ったからには相応の働きをしたまでだ。
俺の包丁の投擲で沼蛇を少し離れたところから倒せたわけだが、なぜ包丁の投擲を選んだのかというと【機蒸幽解】のせいでスキルでの砲撃や射撃みたいなものの挙動が怪しくなるから仕留められない可能性が高いと睨んだのだ。
威力はスキル攻撃の方が高くて、当たったときのダメージが大きいとしてもその選択肢を取れなかったわけだな。
「【ギアフリィ】お兄さんはそんな面倒なスキルをよく使ってたんだね~
うちは使われる側だったからそんなこと考えたこともなかったよ~」
そりゃそうだろうな。
俺だって考えたこともなかったからな!
だが、このタイミングで考えてみてこの思考の取捨選択が必要になったというわけだ。
それで上手くいったので問題ないはずだろう。
「沼蛇を倒してくれたお陰で沼地も一緒に無くなってくれたよ~
これでまた動きやすくなったからラッキーだね~!」
【マキ】は平然とそう言っているが、何で沼地も一緒に消えているんだ!?
さっきは邪魔な沼蛇を倒しただけなんだが……
俺が困惑しながらも【マキ】の方へと向かっていると【マキ】がご丁寧に教えてくれようとしていた。
「あのスキルは沼地に沼蛇がセットでいると効果を発揮するんだよ~
どっちかが無くなっちゃったらもう片方も無くなっちゃうんだよ~!」
なるほどな……というか先に教えておいてくれ!
それならそれでももう少しやりようがあったんだが!?
「え~ん、怒られちゃった!」
【マキ】はそんな泣き真似をしながらも、巨大蛇腹剣を振り回して向こうからのムチ打ち攻撃と相殺していっている。
あの質量同士でぶつかり合うだけでもかなりの衝撃と騒音が鳴り響くので耳と身体に悪い戦場だな……
おっと、さっきまで中断していたスキルをもう一回使い直さないと【マキ】がまた押し込まれていってるな。
よしよし待ってろ。
スキル発動!【阻鴉邪眼】!
俺は再びデバフサークルを生み出して、向こう側だけステータスダウンをさせていく。
やはり敵地ではこれが効く。
このステータスダウンによって向こうは一回警戒を強めるという意味での行動なのかとぐろを巻いてきた。
防御姿勢なのだろうか?
「変態お姉さんが近寄ってくる前にこれを使っておくよ~!
スキル発動!【蛇眼閃光】だよ~」
【マキ】は俺が駆け寄っていることを横目で確認すると、合流を邪魔させないために目からビームを放って牽制攻撃をしていった。
だが……
「あれっ?
全く効いてないよ~!?
なんでなんで~!?」
さっきまでそこそこ効いていたはずのスキル攻撃が全くの無傷で耐えられてしまったのだ。
相手はレイドボスとはいえ、ここまで通用しないのは深淵のデカブツムカデや聖獣の【ウプシロン】くらいの防御力の高さがないと考えられないんだが、コイツはさっきまで普通に攻撃が通っていたからな……
となると、向こうが何かスキルを使って妨害してきたと考えるべきか?
【マキ】って防御力を上げるスキルって持ってたっけ?
「いやいや、あんなに防御力が上がるスキルなんて持ってないよ~!
あったらうちが真っ先に使ってるよ~!」
本人にも覚えがないのか……
これは非常に悩ましい。
向こう側からの攻撃が仕掛けられてきていない今なら猛攻をするチャンスなんだが、防御力アップのカラクリが分からないと効果的な攻撃が出来ないし、何なら効かない可能性すらありそうな予感がする。
こういう時の俺の勘は大体当たるからな……
つまり、やみくもに攻めるのは避けた方がいいだろう。
さてはて、どうしたものか……
おや、劣化天子ならすぐに思い当たると思っていましたがこれは意外でしたね。
私の勘は外れたようです。
全く、これだから劣化天子は……
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】