1762話 存外の幸運
「まずはうちの先制攻撃からだよ~!
えーい!」
【マキ】の十八番……巨大蛇腹剣による横なぎ払いが繰り出され、【怠惰なる妖蛇女】へと叩きつけられていった。
先制攻撃ということもありきっちり決まっていったのは幸先がいいな!
巨大蛇腹剣による一撃はその質量からしてダメージ量はそこそこ大きいし、俺の包丁による一撃よりは決定打となることが多い。
流石にレイドボスをこれだけで倒すのは難しいが、これを積み重ねていけばそのミチは拓けるだろうよ。
だが、向こうも無抵抗で攻撃を受け入れたわけじゃない。
胴から下の大蛇のような尻尾を使って先程の意趣返しかのように【マキ】が仕掛けた攻撃のカウンターを仕掛けてきたのだ!
【マキ】、あの攻撃を受けきれるか?
「もちろんだよ~!
全く知らない攻撃なら無理だけど、あれはうちの攻撃とほぼ同じだからいけるよ~!」
それは頼もしい!
それなら攻撃へと対処は【マキ】に任せるとしよう。
その隙に俺は……
スキル発動!【阻鴉邪眼】!
俺は目を怪しく輝かせていき、【怠惰なる妖蛇女】の真下にデバフサークルを生み出していった。
これで【怠惰なる妖蛇女】と【マキ】のスペックの差は多少なりとも縮まっただろう。
その程度は軽度であってもないよりはマシな支援にはなったはずだ。
「変態お姉さん、あれって【牛乳パフェ】のザコザコお兄さんがよく使ってきてたステータスが下がる魔眼だよね~!?
変態お姉さんが使いこなせるの~?」
使いこなす……と言われるとそんなに使い方は上手くないかもしれないが、一定水準以上には扱えると思うぞ!
魔眼としての使い方なら【牛乳パフェ】の方が圧倒的に上手いだろうが、深淵の力としての使い方は俺の方が上手いはずだ。
この辺りはスキルをどのように認識していて、どう運用するかでガラリと変わってくる部分だろうよ。
「ふーん、よく分かんないや。
うちはそのスキル使わないし、あんまり関係ないよね~」
そりゃそうだが……
一応お前から聞いてきたんだからな?
もう少し興味を持ってくれてもいいじゃないか。
「え~、だって【怠惰なる妖蛇女】の攻撃を防ぐのに忙しいし~!
大変だよ~」
まあ、それもそうか。
いくらデバフサークルで能力低下させたとはいえレイドボスとプレイヤーの格差がそれで埋まりきるわけじゃないからな!
【マキ】が大変なのも仕方ないだろう。
俺も自前の包丁で参戦するか!
そう決意して腰から提げていた包丁を手で握り、駆け出していく。
正面から【怠惰なる妖蛇女】の気を引いてくれている【マキ】を横目に背後へと回り込み【怠惰なる妖蛇女】の背中へ斬撃を繰り出していった。
……んお?
思ったより包丁が通るな!?
これは僥倖かもしれないぞ!
これまで戦ってきたレイドボスには包丁が通らないくらい固い身体のやつもいたからな。
この包丁で戦えることが分かっただけでも幸先がいいと言える。
……【怠惰なる妖蛇女】の反応的にダメージの通りは可もなく不可もなくって感じだな!
「ここで追撃するよ~!
スキル発動!【潜蛇影手】だよ~!」
俺が攻撃をヒットさせたのを確認した【マキ】が右手を前に伸ばしながらクネクネさせていく。
その動きと連動しているのが地面を這う影蛇だ。
前回は【マキ】が押し負けていたのだが、今回は俺の包丁攻撃に気を取られて【怠惰なる妖蛇女】は反撃の一手を打ち出せないまま直撃していた。
そして……スタンしてるな!?
これは俺が【マキ】に与えた【失伝秘具】の【スネークスタン】による付与効果だな!
蛇系スキルにスタン効果を付与するというコンタクトレンズをさっそく有効活用してきたか!
この隙に……
スキル発動!【海底撈月】!
そのまま【怠惰なる妖蛇女】の背後で俺が銀光を輝かせてビームを放っていく。
深海スキルだが、チャージ時間があったりするので普段使いは難しい。
だが、相手がスタンしてるならこの隙に使うことで他のスキルをクールタイムに入らせずに回すことが出来るというわけだ。
……まあ、威力がランダムだからあんまり期待はしてないが。
そんな俺の思惑とは裏腹に、銀光は特大の輝きを秘めたまま放たれ【怠惰なる妖蛇女】をぶっ飛ばしていった。
壁に激突するくらいの派手な威力になったのに俺と【マキ】は一瞬目が点になってしまったぞ!
おいおい……これは最大威力しゃないのか!?
これは完全に予想外だったが、完全に運が俺たちに向いているって証拠だろう。
「変態お姉さん、今の凄かったね~!
今まで変態お姉さんが使ったスキル攻撃で一番威力が高かった気がするよ~」
いや、流石に【夢幻深淵】や【天王君臨】を使った状態のスキルの方が威力はあると思うが、それに肉薄するくらいの派手さはあったな。
深海スキルが役立ってるみたいで嬉しいカニよ!
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】