176話 蜂の巣
パジャマロリのチュートリアル武器である蛇腹剣、【涸沢之蛇】による一撃を受けたギアフリィ。
姿は煙で見えないが、流石にあれは耐えられない……
「……と、思うだろ?
だけど、実力派プレイヤーのオレはそこらの連中とは違うんだぜ!」
この赤髪ゴーグル野郎生きてたのか!?
あの一撃をどうやって凌いだんだ?
「なーに、簡単なことだぜ!
オレのスキル【イグニッション】が間に合ったってだけの話さ!
実力派なオレくらいになると、タイミングくらい合わせるのなんて簡単だからな!」
ちっ、あのスキルの発動が間に合ったのか……
パジャマロリを説得するのに時間を使いすぎたか。
というかスキルがぶつかり合ったからこそ、やけに煙が出てたのね。
そりゃ、ギアフリィの姿も隠れるわな……
「そーいうこと!
オレの実力、これで分かっただろ?」
……たしかに、こいつはスキルを使うタイミングがかなり上手い。
こいつ限定なのか、パイルバンカー次元みんななのかは知らないが、ギアフリィが使うスキルは発動してから効果が現れるまでの待機時間がやけに長い。
パジャマロリの蛇腹剣次元がデメリット控えめ、効果量低め。
俺の包丁次元が効果量を上げる代わりに、プレイヤーの一部……命とか身体の一部やステータスとかをデメリットとして捧げている傾向にある。
それに対応するように、ギアフリィのパイルバンカー次元のスキルは効果量を上げる代わりに、スキル発動までの時間を捧げている形でバランスを取っているんだろう。
どの次元のスキル傾向が優れているのかなんて比べてもきりがないから論じることはないけど、スキル発動までタイムラグがある次元なら、そのタイムラグを読んでタイミングを合わせることが上手いやつがMVPプレイヤーになるってのは自然な考えだ。
だからこそ、MVPプレイヤーとしてパイルバンカー使いのギアフリィが次元代表としてここで戦っているのだろう。
俺からしたら、スキルがすぐ出てこないなんて耐えられないから、手っ取り早く身体を売り飛ばしてスキルを発動させることができる包丁次元でちょうど良かった気がするな。
「おっと?
実力派プレイヤーのオレの前でそんな悠長に考え後ごとをしていていいのか?
時計の針がまた1つこの間に進んだぜ!」
うわっ、時間経過のバフがさらに効果を増したようだ。
「ほらほらほら!
チビ女ども、オレの攻撃を止められるか?」
ギアフリィはパイルバンカーを発泡スチロールを持つかのように軽々と扱い始めて、ぶんぶん振り回してきている。
どことなく【釣竿剣士】がやるような動きに似ている。
「ああああっ!?
うわーん、左腕が落とされちゃったよ~
うっ、今度は右足にブスッとさされちゃった……」
あっ、こいつ……
巨大な蛇腹剣を振り回すパジャマロリを厄介と判断して集中的に落としに行ってるな!?
お前の敵はこっちにもいるんだぞ?
油断していると、プレイヤーキラーとしての本能でコロッとやっちゃうぞ?
俺は完全に俺から目を離していたギアフリィの胸元から首辺りを終着点に定めて、逆風による斬擊を繰り出した。
それで、包丁の刃がギアフリィをとらえると確信できるところまでは行った、そこまでは完全に俺のペースだった。
そう……だったのだ。
ギアフリィはかなり遅れて気づいた感じだったが、バフの暴力で無理やり攻撃に追いついてきた。
目の前にいた俺でも回避スピードは目でとらえることができなかった……
端から見ても瞬間移動にしか見えないくらいだったに違いない。
……はっ?
そんなのありかよ!?
人体の限界値明らかに越えた動きしてたよな……
「おお……今のはちょっとゾクッと来たぜ!
他のやつだったらそれで倒せただろうな。
だが、実力派プレイヤーのオレがここまで時間をかけてきたんだ。
ここからの負けはあり得ないぜ!」
そう宣言したギアフリィの背後でさらに時計の針が増えた。
……これで12本の針がギアフリィの背中を覆うように一周しているわけだ。
ここから2週目がある可能性もあるが……?
「ここまでカウントを溜めないと使えない特別なスキルがある、折角だからこれを喰らって死に戻りさせてやるぜ!
オレの次元のやつらにもあまり見せたことない!正真正銘のかくし球だ!
スキル発動!【機天慟哭】!
総門解放だ!」
ギアフリィがとっておきのスキルを発動させると、背後に浮かんでいた時計の針の先端に空間の歪みが生まれ始めた。
そして、1つ1つから大砲、マスケット銃、ガトリング、ショットガン、レーザー銃、粒子砲など様々な遠距離武器が出現し空中で待機している。
それぞれ出現した武器には1から12までのナンバリングがされていて、おそろく時計に呼応しているのだろう。
「ここでチビ女どもに終止符をうってやるぜ!
全機、射撃対象は目の前のチビ女二人だ!
撃ち方用意……放て!」
ギアフリィが射撃を武器たちに命じると、空中で待機していた武器が凶弾を一斉に放ち始めた。
「あー、これはもう無理だよ~」
火薬の匂いや、眩しい光線が交わるなか……俺とパジャマロリはそれぞれのチュートリアル武器で防ごうとしたが、あまりにも多すぎる手数になすすべもなく身体中が蜂の巣状態になり、死に戻りすることになった。
くそっ……これで引き分けか……
レイドバトル後に奇襲しやがって……
次は絶対勝つから覚えてろよ!!!
プレイヤーキラーとしての誇りをかけて次はお前を殺す!
なんでそこで真剣になってしまうのでしょうか……
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