175話 涸沢之蛇(挿絵あり)
ギアフリィがパイルバンカーによる重量級の突きを繰り出す。
足元を狙い行われるそれは、放たれる度に地面を破壊する凶悪な一撃だ。
「うーん、やっぱりMVPプレイヤーは一味違うよ~
これじゃ迂闊に近寄れないよっ!」
パジャマロリは蛇腹剣でパイルバンカーによる攻撃を往なしながら回避している。
だが、先ほどのレイドバトルでの疲労からか、動きに精細がない。
しかも、一撃ごとに押しきられているからか少しずつ切り傷が出来ているようだ。
「そうだぜ!
これが実力派プレイヤーのオレの力だ!」
そう自信満々に言い張るギアフリィの背後には前の戦いでも出ていた、錆びた金属のような羽が展開されている。
しかも、今回は事前にスキルを発動させてきたからなのか、一本しか生えていなかった時計の針のような羽が右全て……6本と、左に3本というかなり状態が進行している様子だ。
そのせいもあってか、重いパイルバンカーを身体で支える必要がなくなり、一撃一撃の繰り出すスピードがかなり速くなってきている。
効果が出てくるまで時間がかかるスキルだってのはあいつ自身が言っていたから本当なんだろうが、まさか効果が出てきてからもその効果がさらに向上するタイプのスキルだったとは……
おそらくだが、レイドバトルが始まった段階で既に部屋に潜んでいたんだろう。
それで、様子を見ながら【機天顕現権限】を発動するタイミングを見計らっていたってわけだ。
効果時間が経ちすぎず、ある程度効果が高まった時間になるように。
そう考えると、こいつが実力派プレイヤーって自称するのも納得だ。
闇討ちとはいえ、自分が一番輝ける戦いかたを選べるやつが実力派……も定義するなら間違ってないからな。
「あの錆びた羽汚いし、ずっと時計の音みたいなカチカチってやつが鳴っててうるさいっ!
あの大きい武器もいっぱついっぱつ重いし、戦いにくいよ~」
パジャマロリも戦いあぐねているな。
そんなことを言うパジャマロリを横目に、俺は得意の斬擊である袈裟斬りを繰り出す。
だが、激戦の疲れからどことなく鈍い攻撃になってしまったからか、あっさり振り払われてしまった。
あの【機天顕現権限】のバフが、一時的に発動している【名称公開】のデバフデメリットを大幅に上回っているものもあるかもしれない。
……とか考えているとまた時計の針の形をした針が一つ増えた。
「おっ、また1つチビ女たちを蹴散らすためのカウントが進んだぜ!
そして、これでまた俺の全身から溢れ出るパワーもなんか凄いことになってきたぞ!」
語彙力の無さな……
「実力派プレイヤーのオレに、飾った言葉は不要ってことだぜ!
……わりと楽しませてもらったけど、ここまでパワーが溜まってきたならそろそろフィニッシュだ!
スキル発動!【イグニッション】!」
ギアフリィがスキル発動を宣言すると、右腕に装備されたパイルバンカーが紅く光始めた。
おい、パジャマロリ!
あの光は溜まるのに時間がかかるが、溜まったら地割れを起こすぐらいやばい一撃がくるぞ!
なんとかしろ!
俺は半分投げやりな気持ちでパジャマロリにギアフリィの【イグニッション】による一撃の対処を任せた。
「変態お姉さんっ!?
あれってそんなにヤバイの~!?」
ああっ、めちゃくやばい。
かわしても震動で俺たち二人とも立ってられないくらい強いやつがくる。
なんとかあの紅い光が溜まりきる前に倒したい。
「うううううーん???
……わかったよ……
インフォには使うなって言われてたけど、ここで奥の手を使うよ~
秘められた力を解放するのがうちの次元だよっ!
発動対象をうちのチュートリアル武器に!スキル発動!【真名解放】
そして、うちの蛇腹剣の真名を教えてあげる。
【修練武器上位解放】【涸沢之蛇】だよ~!」
パジャマロリは俺の脅すような言葉に怯えて、かくし球を繰り出した。
パジャマロリがスキルを発動すると、手に持っていた蛇腹剣が形を変えていく。
蛇腹剣は元々物々しい、幼女には手に余るサイズの武器だったが、姿を変えた蛇腹剣は剣の先端に蛇の頭のようなものがつき、剣のサイズも5メートルくらいの巨体になっていた。
鱗のような刀身の蛇は、うねりながら敵対する赤髪ゴーグルのギアフリィを睨んでいる。
……蛇にらみってやつか。
というか!!おいおいおい!?
これが初見だったらレイドバトルと勘違いしてもおかしくないくらいの巨体の蛇が出てくるなんて聞いてないぞ!?
……だが、レイドボスのように突然暴れだすというようなことはないみたいだ。
超巨大になった蛇腹剣……真名【涸沢之蛇】の尻尾は依然として変わっておらず、パジャマロリが柄を握っている。
完全に飼い慣らしているって感じだな、ジョブで言うならテイマーって言われてもおかしくない見た目だ。
幼女と巨大な蛇……映えるし捗るな!
「うちの蛇腹剣の一撃で倒れてよ~!!」
パジャマロリは五メートルにもなった巨大な蛇腹剣を苦もなく振るい、ギアフリィに今にも当たろうとしていた。
そして、次の瞬間ギアフリィ周辺は土煙が噴出し、強い衝撃が走った。
くっ、煙で前が見えないぞっ!?
やったのかっっっっ!?
あっ、それは……(察し)
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