174話 勝利!完!
光の粒子へと変わっていった【ケイトリー=ホウセ】を眺めていると、いつもの無機質な声が脳内に響き渡りはじめた。
【ワールドアナウンス】
【レイドクエスト【炎上屋敷の怪主人(糸人)】がレイドチーム【包蛇の交わり】によってクリアされました】
……あれっ、これだけ!?
あまりにもあっさりしたアナウンスに俺は肩透かしを喰らってしまった。
今まで倒してきたレイドボスはもうちょっと勝利後のアナウンスが長かったぞ?
討伐称号とか、新スキルの獲得とかそういうのはないのかよ!?
俺と同じようなことをおそらくここにいるメンバー全員が思っていることだろう。
「……おかしいですね?」
そりゃこんだけ短い討伐アナウンスならそう思うよな?
【釣竿剣士】が呟いた言葉に同意である。
「いえ、違うんですよ。
レイドボスを討伐したら次元戦争は終了するのではなかったですか?」
「たしかに、一番はじめのアナウンスでそんな条件だって流れてたよね~」
あんまり覚えてないが、そんなようなことを言っていた気がする。
……で、それがなんなんだ?
「ここまで言って分からないのは鈍すぎますよ……
生産プレイヤーとしてのひらめきが欠如してます」
「えっ、変態お姉さんって生産プレイヤーだったの~!?
たしかに包丁は料理に使うけど……そんなイメージなかったよ~」
ええい!
うるさいぞパジャマロリと【釣竿剣士】!
二人とも俺に対して失礼すぎるだろ!
たまにしか見せてないけど、俺はちゃんと料理したりしてるからな!
ほれ、さっき作った溶岩魚のお造り……の余りだ。
食べてみろよ!
……まあ、今回は材料を持ち込んだりしてないから、骨抜きとかしただけだが。
「ふおおおお!!
たしかにこれは綺麗だよ~
はむはむ……しかも美味しいよ~!」
パジャマロリも満足してくれたようだ。
溶岩魚の素材としての元々のスペックの高さに助けられた感は否めないが、そこをあえて指摘して水を差すのはやめておこう。
俺にデメリットしかないからな。
「……料理を振る舞うのはいいですが、私の話の続きもしていいですか?」
あっ、そうだったそうだった。
「このイベントの終了条件であるレイドボスを討伐したのにイベントが終わっていないのは、つまりあのレイドボスが外れ……もしくはあれだけでは不十分だったということでしょう」
ああ……なるほどな。
【釣竿剣士】が言いたかったことがなんとなく読めてきた。
俺たちがさっき倒したレイドボスは【炎上屋敷の怪主人(糸人)】とアナウンスでは流れていた。
だが、レイドバトルが始まった時には【糸人】【鳳仙火料理人】【屋敷主人】という三つのジョブ、もしくは種族が羅列されていた。
つまり、【釣竿剣士】が言うにはこの【糸人】の【ケイトリー=ホウセ】だけではなくて、残りの【鳳仙火料理人】【屋敷主人】の力を持った【ケイトリー=ホウセ】を倒さないといけないんだろう。
「そういうことです。
生産プレイヤーなら当然の閃きですよ。
今回は、少し閃くのがおそかったようですが……」
ということは、俺とパジャマロリが遭遇した炎の扉の向こうにいた……おそらく【鳳仙火料理人】の力を持った【ケイトリー=ホウセ】も倒さないといけないのか……
なおさら蛇腹剣次元のマックスが装備を整えてくれるのを待つしかないな。
「まかせてよね~!
マックスはこういうとき凄いんだからっ!」
マックスのことで薄い胸を力一杯張っているパジャマロリ。
「さて、次の目的地に行きま……しょ……う?」
だが、次の瞬間【釣竿剣士】がバタンと倒れた。
そして光の粒子へと変換されていっている……
死に戻りしたってことか……
つまり、これをやった犯人がいるはず……
何者だっ!?
「クックックッ、油断したなぁチビ女集団!
実力派プレイヤーのオレがこのエリアにいるということを忘れてもらったら困るぜ!」
【釣竿剣士】を突き刺した凶器と思われる巨大な削岩気のような見た目をした武器を地面に下ろしながら、凶行に及んだ犯人がそう叫んだ。
お前は……
「そう、オレは実力派プレイヤーのギアフリィだ!
前はお前たちに負けたが、今回はレイドバトルの直後だろ?
いくら二人が相手とはいえ、そんなに消耗したお前たちならオレひとりでも充分お釣りが返ってくること間違いなしだぜ!」
こいつ……また性懲りもなく……
【ギアフリィは自らの名称を公開した】
【【名称公開】ギアフリィに知名度に応じたステータス低下効果付与】
【【ギアフリィ】の【名勝宣言】】
【ギアフリィのオブザーバーの数に応じて攻撃力が伸長した】
「ああっ、忘れてた!?
実力派プレイヤーのオレがこんな初歩的な罠に引っ掛かるとは……
さてはお前策士だな?」
いや、お前が勝手に引っ掛かっただけなんだが……?
はっきり言うけどさ、お前アホだろ?
なんでそんなに時間が経ってないのに同じミスをするんだよ。
それに、今回は初対面のときと違って、俺何も誘導すらしてないのに……
「やーい、お間抜けお兄さんだ~!
うちも負ける気はないからね?
蛇腹剣次元の底力を見せちゃうよ~!」
こんな締まりのない始まり方でプレイヤーキラーのパイルバンカー使いギアフリィとの二度目の戦いが幕を開けた。
……本当に戦わないとだめ?
正直今は戦いたくないんだが……
……そんなことを言っても、身体は闘争を求めてますよ?
【Bottom Down-Online Now loading……】




