173話 束縛系乙女
ちっ、どさくさに紛れて【検証班長】が死に戻りしてしまった……
ここから先は行動パターンの先読みとかいう攻略サイトを読んだかのような、最適行動が出来なくなったか。
まあ、それがいつも通りだし、ここまでお膳立てしてくれたんだから最後までやりきってやるのが【検証班長】への礼儀というものだろう。
「ここからは耐久戦であり、消耗戦になりそうですね。
私も全力で守りに行きます!
釣竿一刀流【渦潮】です!」
【釣竿剣士】は様子を見るためにも守りの要である釣竿一刀流の【渦潮】を繰り出している。
釣竿をトーチトワリングの要領でぐるぐると回していき、時おり飛んでくるワイヤーや、【ケイトリー=ホウセ】のこぶしを防いでいる。
流石はジェーの極太レーザーを受けきることができる技能だな……
レイドボスの攻撃をあそこまで往なせるとは、いつ見ても凄いな。
同じことも思っていたのか、じゃらじゃらと蛇腹剣を振り回しているパジャマロリも同じことについて言及し始めた。
「前の次元戦争にいたチャイナ服を来た無口なお姉さんもトンでもないスキルの出力してたけど、この釣竿のお姉さんも凄いよ~!
包丁次元には釣竿一刀流なんて変わったスキルもあるんだね~
しかも、種類がいっぱいあるみたいだし、羨ましいなっ!」
……やっぱりこのパジャマロリ勘違いしているようだな。
釣竿一刀流はスキルじゃない。
さっき【検証班長】とか【釣竿剣士】とかとそのことについて話していたが、パジャマロリは前線で蛇腹剣を振るっていたし聞こえていなかったんだろう。
それにミューンは元レイドボスだから高出力でも当たり前だ。
これを説明するのは面倒だし、勘違いさせておこっと!(はぁと)
俺は無尽蔵に飛んでくるワイヤーの雨を包丁で切り払いながら、そんなことを考えていた。
「……もう無理でそ……グフッ」
「ああっ、インフォも死んじゃったよ~
いくら自滅するって分かっててもこれを凌ぎきるのは結構難しいよ~!!」
蛇腹剣次元のブレインであるインフォもワイヤーによる刺突で胸を衝かれたようだ。
インフォの体が光の粒子となり霧散していった。
パジャマロリは半分涙目になりながら自分の身を必死に守っている。
仲間が1人やられて弱々メンタルが豆腐のように崩れそうになっているのが目に見えてわかる。
このパジャマロリ……MVPプレイヤーだから実力は申し分ないが、幼女メンタルだからこういうとき弱いよなぁ……
だが、生き残るためにお前の仲間をもう一人犠牲にするぞ!
戦いに犠牲はつきものだからなぉ!
「えっ!?
いったいなにするのっ!?」
パジャマロリは動揺しているが、そんなことは無視だ無視!
スキル発動!【深淵顕現権限P】!
マックスだったか?お前俺のために犠牲になってくれよぉ!
俺は本人の同意なく、生け贄を選んでスキルを起動した。
判定ゆるゆるだが、敵対状態じゃないプレイヤーなら誰でも生け贄にできるのがこの【深淵顕現権限】の特徴だ。
戦いに貢献しないプレイヤーを選別して意図的に間引くことができるからなぁ!
プレイヤーキラーの俺からすると若干拍子抜けではあるが、そういう使い方をするならこれ以上ないデメリットの活用方法だろう。
なにせ、パジャマロリは後方のマックスを守りながら蛇腹剣を扱っていたように見えたからな。
無駄な荷物は俺が排除するに限るな。
蛇腹剣次元のガチムチプレイヤーであるマックスが粒子に変わり俺の身体に取り込まれると、背中の骨が隆起し始め皮膚を突き破って外気に触れることとなった。
突き出た骨は翼の形になり勢いよく広がっている。
……まあ、右翼しかないし、骨ドラゴンみたいな、もろアンデッド系の翼なんだけどな。
今回はとあるスキルを最大限に活用したいってことでルル様の力……P細胞を励起させることにした。
ジェーはその辺で座っててね。
「うわああああ!?
マックスも死んじゃった!?
それに変態お姉さんに羽が生えた!?
しかも骨だよ~こわい~!!」
パジャマロリがなんか絶叫しているが、そんなの知ったこっちゃないな。
マックスは俺の糧になったんだぞ!
せっかく、プレイヤーの命を炉にしたスキルを発動できたんだ有効活用させてもらうからな。
この翼は伊達じゃないぞ?
【我が領域を侵すものよ】
【流転する境界の狭間にて、我が深き業を刻み込め】
【汝、聖なるものなれば我が深淵に染まるがよい】
【これは我が存在の証明】
【スキル発動!【堕枝深淵】】!
俺は今励起している深淵細胞であるP細胞の持ち主、ルル様のスキルを発動させた。
ルル様のスキルを使うなら、ルル様の細胞を活性化させるのが一番効率がいいからな。
俺の【堕枝深淵】は翼が生えている側である右手から伸びていく。
鞭のようにしなりながら自由に軌道を変えてピンボールのように跳ね回る【ケイトリー=ホウセ】と捉えようとしているのだ。
一撃で倒すのは相手がレイドボスだし、無理だろう。
だけど、相手が自滅の道を進んでいるからこそとれる手段もある。
時間の経過でダメージが蓄積するのなら、時間稼ぎをしてやればいい。
黒い枝による拘束が成され、縦横無尽に飛び回っていた【ケイトリー=ホウセ】を抑え込むことに成功した。
俺のスキルである黒い枝に動きを止められた【ケイトリー=ホウセ】は、必死にもがいているが、失われていくヒットポイントが影響してか次第に力を失っていく。
どうやら確率で発動する状態異常付与も成功したようだ。
俺の体力を下回ってくれたからきちんと発動したんだろう……
自滅タイプで助かった……
そして、15秒ほど拘束を続けると【ケイトリー=ホウセ】は光の粒子へと変わっていった。
勝った……のか……!?
まあ……
【Bottom Down-Online Now loading……】




