1716話 陽気な機蛇
「そこの包丁を持ってるお姉さんが【包丁戦士】でしょ?
【ギアフリィ】と同じMVPプレイヤーなんだよね?
僕と遊んでよ」
生意気ショタの【ルークス】はククリナイフを手に取り俺に切りかかってきた。
いきなり攻撃とは随分とご機嫌なショタだな!
だが、その気概は俺好みだ。
俺が直々に一人で相手をしてやるよ。
【エラ=サンドレラ】と包丁次元のモブプレイヤーたちはそっちのウンチク女【オーリス】を懲らしめてやってくれ。
俺が一人でこっちを受け持つんだからそれくらいやってくれよな。
「ステッキ次元の私を簡単に使いますね……?
でも、おじ様のためにも頑張ります!」
「君たちも【汚染】してあげよう。
実に面白い実験になりそうだ」
とりあえず、俺は目の前の敵に専念すれば良さそうなので少しだけ肩の荷が降りたな。
負傷覚悟なら両方とも仕留めてやるだが、今後の戦いのためにも無傷で帰還したいからこそ一人を別のやつに割り振ったというわけだ。
「お姉さん、よそ見はつまらないよ!」
【ルークス】は余所見していた俺の首を切りつけてきたが、それを包丁の腹を使って受け流していく。
こらこら、そんなに焦るなって。
遊ぶにも順序ってものがあるからな。
これで邪魔も入らなくなったし、存分に遊んでやれる。
「うぇっ!?
け、結構やるね……」
【ギアフリィ】が鈍重タイプのMVPプレイヤーだったからそのノリで速攻を仕掛けてきたんだろうが甘いな!
俺とお前は似たような軽戦士タイプだ。
そのスピード感だけで勝とうとするのは軽率だったぞ?
「は、反応が早いよ!?
【ギアフリィ】はこんなにはやいって言って無かったのに……」
それは【ギアフリィ】もヤれるプレイヤーだからな。
相対的に俺の反応速度は他のMVPプレイヤーたちと比べて特段早く感じなかったのだろう。
【ランゼルート】や【師匠】、【綺羅星天奈】辺りを見ていたらそうなるよな……
だが、次元戦争への参加経験が少なかったり、他の次元のMVPプレイヤーとの交戦経験が無かったりしたらそれを感じられる機会も失われているからそのギャップで驚いてしまうのだろうよ。
「ま、まずいよ……
このままだと包丁だけで押しきられちゃう!
そうなったらパイルバンカー次元に戻ったら怒られちゃうし……
スキル発動!【蛇行機怪】!」
追い詰められた【ルークス】が使ってきたのは【ギアフリィ】が使ってきたことのある機戒種族のスキル【蛇行機怪】だ。
だが、あの時は他のスキルと繋げて使ってきていたので純粋な効果が分からない……
さて、どう出てくるか?
……?
特に何も変わってないな?
何か起きたのか?
「あっ、その反応【蛇行機怪】を見たことないんだ!
これはラッキーだったかもね。
お姉さん、やばいかもよ!」
くっ、生意気なショタめ……
言わせておけばすぐ調子に乗るなぁ……!
だが気配的には身体強化とかされた様子もないし、見えるところで変化が起きた様子もない。
となれば見えないところで何かが起きているということだな?
というわけで、俺は隠し持っていた拡散スイカの種を入れた瓶を前方三方向くらいに投げてみた。
何かに引っ掛かれば御の字だが……
すると……
「うわぁっ!?
【蛇行機怪】が暴発した!?
お姉さん何をしたの!?」
暴発……なるほど。
ということは【蛇行機怪】は不可視の地雷、機雷のようなものを仕込むスキルだったわけだ。
そして今は拡散スイカの種の爆発が引き金になって誘爆したのだろう。
思ったより殺意のあるスキルだったな……
迂闊に踏み込まなくてセーフだったぞ!
「お姉さん、勘がいいね。
これ使ったら結構勝てるんだけどな~」
おあいにくさまだったな。
この辺は俺の得意戦闘分野だ。
戦い方的にお前と俺はかなり似てるっぽいが、このままだと俺が勝つぞ?
「そ、そんなことない!
お姉さんより僕が強いんだ!
お姉さんなかなかのやり手だけど、でももういいやお姉さんさっさと死んでくれる?
スキル発動!【蛇眼閃光】!」
焦った【ルークス】は新たなスキルを発動させようとしてきたが……
「ーーーな、んで...…」
そのスキルはよーく知ってるぞ!
蛇腹剣次元の【マキ】が多用してるからな!
だからこそ、弱点はこの角度だってのも知ってるってわけだ!
最期にポロッと溢してきた疑問に答えてやった。
【ルークス】は俺が背後へ回り込んだことに気づかず目からビームを出しながら首を切られてしまい、そのまま光の粒子となって消えていったようだ。
これで一丁アガリっ!
散々生意気と言っていましたが、私からみれば劣化天子も充分生意気ですよ?
【Bottom Down-Online The Abyss Now loading……】