163話 顕現権限同士の睦まじさ
「くそう!
実力派のオレの攻撃が全く通らないぜ!
これならどうだ!」
そう宣言して巨大なパイルバンカーを槍のように突きだしてくる。
迫力はあるが、そのデカブツを槍とか鈍器みたいに使っているだけならどうとでも凌げるぞ?
俺だって包丁次元のMVPプレイヤーだ、そう甘く見られては困る。
「たしかにお前はちっこい女だが、それでも技量は実力派のオレ以上か……?
だけど、技量だけが勝負を決めるってわけじゃないぜ!
センスってのも大事だろ?
こういうのは面白いはずだぜ!
スキル発動!【イグニッション】!」
赤髪ゴーグル男、ギアフリィは大袈裟な構えでパイルバンカーを後ろに引きスキルを発動するのと同時に俺に向かって突っ込んできた。
ちっこい女ってのは一言余計だが……
というかカタカナスキルじゃん!
今までスキルと言えば、【名称公開】、【深淵顕現権限】、【渡月伝心】、【魚尾砲撃】などなど色々あったがほとんどが漢字で表記されていたスキルだった。
その中でも異色だったのは俺が一番愛用しているスキルの【フィレオ】だ。
この【フィレオ】だけがカタカナ表記のスキルで、他にカタカナ表記のスキルは今まで見たことがなかった。
だが、こいつはそのカタカナスキルを使ってきた。
まあどんなスキルか分からないし取り敢えず避けるけどさ。
そう思い、俺はサイドステップでパイルバンカーを回避する。
腕力の強さでパイルバンカーをかなり速いスピードで扱うギアフリィだったが、それでもあれだけ大きい武器を軽々と扱うのは無理がある。
だからこそ、よく見ていれば回避に失敗することはない。
俺がサイドステップで回避することで、【イグニッション】というスキルが付与されたパイルバンカーが床に炸裂した。
パイルバンカーの先端についている杭が高速振動し、パイルバンカーの内部が炎に包まれたかのように紅く染まっていき、その紅みが杭まで届いたとき俺の周辺が大きく揺れた。
何も前情報がないときにこの衝撃を感じたら地震か!?とか思っていたかもしれないほどの全体的な揺れを間近で受けることになった俺はその場に倒れこむことになった。
「隙ありだ!
実力派のオレの力を実感できただろ?
なら、一回死んで仲間に伝えてきてくれよな!」
そう言って俺に止めをさそうとしてくる。
だが、俺がそんな易々と死んでやるわけにはいかない。
カタカナスキルにはカタカナスキルで対抗だ!
スキル発動!【フィレオ】!
俺は倒れ込んだ姿勢のまま包丁による斬撃を繰り出した。
もちろん包丁そのものがギアフリィを切り裂くことはないのは距離からしても、軌道からしても明らかだが、その無理を通すのが俺のスキルだ!
包丁が振り払われた軌道から延長する形で飛翔する斬撃が飛び出し、そのままギアフリィを返り討とうとした。
それを見て急遽身体を逸らしたギアフリィだったが、右足を見事に切断されていた。
……まあ、スキルのデメリットで俺の左足も廊下の端まで見事に吹き飛んでいったが……
あの俺の足が誰かに当たっていないことを祈ろう……
【フィレオ】によって右足を失ったギアフリィは身体のバランスを崩し、体勢を立て直すために一度後方へと退いたようだ。
あれだけ大型なチュートリアル武器を使ってるんだから、身体の一部の支えがなくなっただけで動きがガタガタになるわな。
しかも、【名称公開】のデメリットでステータスも下がっているからなおのこと苦労するだろう。
そんな風にたかをくくっていた俺だったが、戦闘開始後からずっとギアフリィの背後の空間をカチカチと動いている錆びた金属のようなものが急激に形を変え始めたのを確認すると警戒の姿勢を強めた。
「おっ、とうとう本格発動か!
毎回毎回この時間差がネックだけど、実力派のオレにかかれば発動まで時間を稼ぐのなんてお茶の子さいさいだぜ!」
今まで何も干渉してこなかったあのスキル……【機天顕現権限】だったか?が本領を発揮し始めたのだろう。
金属が形を変えて、右片翼の翼となった。
これだと俺の【深淵顕現権限P】と同じように聞こえるかもしれないが、ギアフリィの背後に浮かぶ翼は直接その身体と繋がっているわけではなく、磁力か何かで身体を浮かしているらしい。
そして、翼の先からはチラチラと光輝く粒子が舞っている。
そんな翼を広げたギアフリィは、右足を失ったことによるバランスを整え俺に向かって飛翔してくる。
大型なチュートリアル武器であるパイルバンカーを装備しているからか、飛行するスピード自体はそんなに速くないんだが、何せ俺は左足を失っているからな……
この飛翔を回避するのは難しい。
回避するのはな!
行くぞ、俺の新たなる力の使い方だ!
種族転生したプレイヤーの力ってやつを見せてやるか!
スキル発動!【天元顕現権限】【渡月伝心】!
【スキルチェイン【天元顕現権限】【渡月伝心】】
【追加効果が付与されました】
【スキルクールタイムが増加しました】
スキルチェインを介して【天元顕現権限】を発動した俺の背中から勢いよく黄金色の翼が生えてきた。
目の前にいるギアフリィと対になるように左片翼が生えてきたのは因縁か?
そして、黄金色の翼から溢れる力を【渡月伝心】に乗せると、今まで思念しか送れなかったゴミのようなシステムサポートスキルが形を変えて、包丁の先に黄金色の光が集う。
そして、集った光が一度拡散し、ギアフリィへと迫っていき、赤髪ゴーグルの男を千切りにするように高速で動き回り、ギアフリィを死に戻りまで追いやった。
そう、今までみんなも見たことがあると思うが、円環スキルだ!
天子になったことによって【天元顕現権限】のアシストがあるという条件下に限り円環スキルを発動することが可能になったのだ!
スキルのクールタイムが延びるらしいがそんなの誤差だよ(確信)
何はともあれ辛勝でギアフリィを撃退することに成功したが、戦闘が終わり翼が霧散した俺は左足を失った無力な可憐な乙女だ。
そうなれば、包丁次元の控え室まで戻るのは困難だろう。
となれば、自害あるのみ!
さあ、デスワープだ!
俺は自らの首を包丁でかっきり、黒色の粒子を辺りに降り注ぎながら、死に戻ることとなった。
またそうやって、すぐ死に戻りしようとするとは……
【Bottom Down-Online Now loading……】
この小説に足りない要素ってなんだろうか……
番外編的なやつとか掲示板回?
料理回とか、日常回……?
最近悩みつつありますね……




