162話 実力派プレイヤー
「うぅ~、やっぱりうちらだけじゃこれ以上は無理だよ~」
パジャマロリが机に突っ伏してゾンビの叫び声のような呻きをあげている。
精根尽きたのだろう。
手に持っている次元球体性理論とかいう小難しそうな本は逆向きになっているから、きっとまともに読んではなかったんだろう。
俺がこの場にいる建前からか、ほぼ読んでいるフリって感じか。
俺たち二人は一時間ほど読書に励んでいたが、思ったような成果は見つかっていない。
そもそも読書が得意ではないパジャマロリと、料理がメインの生産プレイヤーである俺ではそもそも進みが悪すぎる。
ここはやはり適材適所ということで【検証班長】を呼んでくるしかないだろう。
「うちの次元にも情報とかに強いプレイヤーがいるんだよね~
インフォっいう名前なんだけど、けっこうガメツイんだよっ!」
インフォ……インフォメーションの略かな?
それで情報に強いってことは、ゲームを始める前からプレイスタイルを決めているプレイヤーの可能性は高い。
【トランポリン守兵】がやっているような、お嬢様のロールプレイングのように、蛇腹剣次元で情報屋のロールプレイをしているんだろう。
つまり、【検証班長】と【トランポリン守兵】お嬢様を足して2で割ったようなやつってことか。
「うーん、なんだか違う気もするよ~
うちはその人たちに会ったことないけど、名前的になんだか方向性が違うような……
いや、わからないけどねっ?」
まあ、お互いに会ったことのないプレイヤーを基準に考えているからその辺を擦り合わせるのは正直無理だろう。
まあ、どっちにしてもこのままここに居ても埒が明かないし、ここで別れて呼んでこよう。
「そうだね~、一回解散だよ~!」
そして、先ほど下ってきた階段を上がっていき、俺たちは2手に別れた。
カツカツ……カツ……
俺は足音を鳴らして廊下を進んでいく。
【検証班長】がどこにいるか分からないが、むやみやたらに探し回るよりも頭の回る【検証班長】ならある程度の情報を集め終わったら一度拠点のあった部屋にもどっているはずだ。
そう思い、足を鳴らして戻っているが……
カツカツ……カツ……
……止まる度に足音が一回分多く聞こえるな。
これが実は屋敷の地下の空洞に響いているだけなら何も問題ないが、どう聞いてももっと近くから聞こえる。
……これはもしかしなくてもつけられているな。
再び合流する約束をした蛇腹剣次元のマキがわざわざそんなことをする必要はない、ということは……
「おい、そこに誰かいるんだろ?
隠れてないで出てこいよ!」
よく漫画とかで見るカッコいいセリフランキングに入るやつを言ってみた。
すると、俺の背後からのそのそと現れてくるやつがいた。
……やっぱり誰かいたな。
半分かまをかけたつもりだったが、合っていてほっとしたようなしてないような。
あんなセリフをいって誰もいなかったら恥ずかしかったけど、居ないならいないで面倒ごとか無かったはずだし喜んでいいのか疑問が残るところだ。
「流石は次元戦争に出てくるだけの実力はあるようだな!
実力派のオレの気配に気づくとはいい勘してるぜ!」
現れた人影は、全身が銀色の鎧(?)に包まれ、頭にゴーグルをつけた大学生くらいの見た目の男だ。
赤髪で派手な見た目だが、その自信を持ったしゃべり方とマッチしていて違和感はない。
それくらいならファンタジーもののVRゲームならばそこら辺にいるような見た目だが、ある一点で目を引くような大きな特徴がある。
右腕に背丈の二倍ほどあるような大きな装置を装着している。
削岩機のような、杭のような見た目の鋭利なものが先端についているから武器だと推測されるが……
まてよ、そんな特徴がある武器に心当たりがある。
この次元戦争の参加次元の中にヒントはあった。
そうか、あれはパイルバンカーだ!
「オレのイカす武器を知っているようだな!
実力派のオレにピッタリなド派手なチュートリアル武器だぜ!
へへん、いいだろ!
お前みたいなちっこい女だと使いこなせないだろうし、まさにオレのための武器って感じでグッとくるよな!」
パイルバンカーがカッコいいのはまあわかる。
だけど、さらっと俺をディスるのいただけないな……
「おっ、そんな可愛い見た目してて俺っ娘かぁ?
いいじゃん、気に入ったぜ!
お前となら遠慮なく戦えそうだ!」
色々ツッコミどころがあるセリフだな。
まず、なんで俺がお前と戦わないといけないのか……無益すぎる……
そして、一人称が俺ってだけで遠慮なく戦える理由もよくわからんぞ。
「あー、細かいことはいいじゃん!
実力派のオレは相手が自信満々なら手加減なしで戦えるからな!
一人称が俺ってことは気が強そうってことだし。
それと、オレとお前が戦う理由は……」
……戦う理由は?
「実力派のオレの名前と実力を他の次元に広めるためだぜ!
いくぜ、スキル発動!【機天顕現権限】!」
唐突に迷惑な宣言をした赤髪ゴーグルがスキルを発動すると、背後の空間に錆びた金属のようなものが浮かび上がり、形を変えていく。
その形が変わっていくのを待たずに赤髪ゴーグルは俺に向かって全力疾走して突撃を仕掛けてきた。
おい、実力と名前を広めたいのはいいが、お前の名前をまだ聞いてないんだが?
その言葉に思わずハッとした表情をした赤髪ゴーグルは、右腕のパイルバンカーを振りかぶりながら口を開いた。
「うっかり名乗り忘れてたぜ!
実力派のオレの名前はギアフリィだ!
覚えておけよ!」
俺はパイルバンカーによる攻撃を腰に提げていた包丁による受け流しでいなした。
「ひゅー!
まさかそんな小さな包丁で実力派なオレのパイルバンカーを防ぐとはな!
包丁の使い手ってことは、お前が9位の包丁次元のMVPプレイヤーってことだろ?
こりゃ面白くなってきたぜ!」
俺の常套防御手段である包丁の受け流しを見て勝手にテンションが上がった赤髪ゴーグル……もといギアフリィ。
だが、軽率に名乗って良かったのか?
ここは次元の風が吹き荒れるエリアだぞ?
そんなエリアで迂闊な行動をするのは危うい、油断は禁物だ。
「は?
それはどういう……?」
【ギアフリィは自らの名称を公開した】
【【名称公開】ギアフリィに知名度に応じたステータス低下効果付与】
【【ギアフリィ】の【名勝宣言】】
【ギアフリィのオブザーバーの数に応じて攻撃力が伸長した】
はい、包丁次元の洗礼を受けるがいい!
これでお前のステータスは落ちたはずだぞ?
あっ、ちなみに俺は【包丁戦士】だ、偽名だけどよろしくぅ!
「ちっ、これが次元の違いってやつか!
実力派のオレをハメるとはなめたことしてくれたな!」
はははは!
勝手にお前が口を滑らしただけだろ?
自業自得だな!
俺はギアフリィの胸元に飛び込み包丁による刺突をしかけた。
だが、大降りなパイルバンカーによって行く手を阻まれてしまった。
あの、デカさ厄介だな……
赤髪の青年の背後で時を刻むように、カチカチと音が鳴り響き朽ちた金属が形を変えていく。
【Bottom Down-Online Now loading……】




