161話 忍耐の底
まあ、考えたところで名案が思い浮かぶはずもなく俺とパジャマロリは隠し扉の奥へと続く階段を降りていくことにした。
階段は薄暗く、辛うじて足元が見えるくらいの明るさなのでゆっくり慎重に下っていく。
ただ下っていくのもつまらないからか、パジャマロリが雑に話を振ってきた。
「そういえば、他の次元のプレイヤーに会ったりした~?」
いや、今まさに俺の目の前にいるパジャマロリのマキが他の次元のプレイヤーなんだが?
頭大丈夫か?
一回深呼吸して鏡でも見てみるといいぞ!
そんな俺の煽りに憤慨するパジャマロリ、こんな挑発にのせられるなよ……
「そんなの知ってるよ!
うちが言いたいのはそういうことじゃなくて、包丁次元と蛇腹剣次元以外のプレイヤーってことだよ~!
うちらは前の次元戦争で対戦したから少しの面識と手の内が分かってるけど、他の2つの次元のことはさっぱり分からないし……」
あー、たしかピッケル次元とパイルバンカー次元だったか?
ピッケルとパイルバンカーってまた面白いチュートリアル武器の取り合わせだよな。
ピッケルは鉱物の採掘に使う道具でそもそも武器じゃない。
ただ、取り回しやすいサイズで、それなりに鋭利だったりするものもあるから戦えるには戦えるだろう。
ただ、チュートリアル武器の種類的に【釣竿剣士】や俺のような生産プレイヤーの可能性は高い。
岩山エリアみたいなところでせっせと働く別次元のプレイヤーの様子が目に浮かぶようだ。
パイルバンカーは蛇腹剣と似た立ち位置のロマン武器だ。
パイルバンカーというのは、先端に杭のようなものがとりついている……ハンマーに類似している見た目だが、その杭を高速で至近距離からぶつけ、敵に衝撃を与えて防御を貫通し、内部に損傷を与える近接用打撃武器だ。
その杭を電気や火薬の力を使って打ち出したりするタイプがメジャーらしい。
一言で特徴を言うのなら、一撃必殺で、防御無視の貫徹力に、最短の射程と最強の威力が同居する兵器ってことだな。
「くっ、詳しいねっ……
うちはパイルバンカーって武器がどんなのかよく知らないから想像だけど、その説明からすると強そうだよね~
うちの蛇腹剣と戦わせてみたいよ~!」
蛇腹剣と戦わせるって言い方もなかなか面白いな。
武器を飼っているテイマーみたいな感じか。
「あっ、やば……」
パジャマロリは慌てて口を両手で抑えた。
そんな分かりやすい誤魔化しかたってある?
……さっきの俺の指摘が合っていたのだろう。
多分このパジャマロリはテイマーかそれに類する【ジョブ】、もしくはそれを可能にするスキルやability……これらを持っている可能性があるってことか。
もし対峙することになったら警戒しておこう。
思いがけない情報を手に入れてホクホク気分の俺と、失言でちょっと意気消沈しているパジャマロリが階段を下り終えるとそこにはまたしても扉があった。
この扉はさっきのレイドボスの扉のように炎に包まれていないので、安心して入れそうだ。
パジャマロリは意気消沈したままなので、俺が率先して取手に手をかける。
そして、ギシギシと音を立てて扉がゆっくり開いていく。
しばらく開けられていなかったからか、扉が軋む音がするし、埃のようものも上から降ってきている。
うへっ、汚いな……
扉が開ききった先に広がっていた光景は、古めかしい書斎だった。
こんな秘密基地みたいなところに作るのが書斎かよ……
いや、有る意味王道と言えば王道だけど、俺的には謎の実験施設とか牢獄とかそういうダークなやつを想像していたから少しだけ拍子抜けした気分だ。
「でも、こういうところにあるってことは何かイベントについての情報があるかもよ~」
というかここで何もなかったら、流石に怒りを通り越して笑ってしまいそうだ。
そんな絶対に何かしらのヒントがあるだろうという、半ば確信めいた直感に従い俺とパジャマロリは書斎にガサ入れする。
古めかしい書斎には、かなりの書物が納められているため、ここにある書物を全て確認するにはイベント期間中ずっと本を読み続けるくらいの本の虫じゃないと無理だろう。
だが、俺は戦闘もしたいし、他の次元のプレイヤーってやつのスキルとかプレイスタイルってやつを見てみたい。
せっかく次元戦争とかいうレアなイベントなんだからな。
「うちも、本を読むよりは身体を動かしたいなっ!
そうすれば、後でぐっすり眠れるし~
快眠のためなら何でもやるよ~」
ん?今なんでもやるって……()
というのは置いておいて、寝るのに凄い執念だな!?
寝るという意味では、考え方を変えると生産プレイヤーなのかもしれない……
でも、だからと言ってせっかく見つけた書斎の書類を完全にスルーするのもそれはそれで勿体ない。
なので、元々机の上に置いてあった本の中からそれっぽいやつを調べてみよう。
その後は【検証班長】とかを呼んでやれば、勝手に情報が集まりそうだからその流れに任せよう……
もう少し粘りませんか……?
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