160話 お茶目な唐三彩
死に戻りした俺が目を覚ますと、何やら見覚えの有る光景が広がっていた。
……どうやら一番はじめにいた部屋からのスタートのようだ。
この部屋が包丁次元の控え室のようなものなんだろう。
それにしても、まさか部屋に入るだけで死ぬとはな。
このイベントが始まる前はそんな過酷なイベントだとは思ってなかっただけに、さっそく疲労感がたまってきている。
まあ、あの突入方法は正規の方法じゃないし、そんな方法で侵入したプレイヤーを排除する仕組みがあるのも納得だ。
ちゃんと用意されたギミックを解除してレイドボスに挑んで欲しいということなのだろう。
そんなことを考えながらぼーっと中央の廊下を進んでいくと、小さい人影が見えてきた。
おっ、パジャマロリ早かったな!
「うちも今着いたところだけどね~」
なんかデートの待ち合わせみたいな掛け合いだな、そんなことを内心思いながらもパジャマロリに部屋に炎の扉に突入した後のことを聞いてみる。
こいつは何か見えたかも知れないからな。
「えっ、包丁戦士お姉さんも何も見えなかったんだね~?
うちも熱気で歪んだ景色しか見えなかったよ~」
俺よりは見えてたな。
俺はその歪んだ景色すら見えてないし。
これが【堕枝深淵】取得による炎耐性低下の影響だろう。
このイベント限定エリアだと俺と【検証班長】はやっぱり死にやすいっぽい。
どっちにしても、この炎の扉を乗り越えるには更なる探索が必要そうだ。
一回この扉を無視して先に進むのがいいと思うが、パジャマロリはそこんところどう考える?
「うちもそれに賛成だね~
とりあえず熱気を止めるか、耐えられる何かを用意しないとだめだって分かっただけでも収穫だったねっ!
これからそのための手段を探せばいいんだしっ!」
そうだな。
では、先にレッツゴー!
「お~!」
彫刻や絵画が立ち並ぶ中央の廊下をさらに先へと進んでいく。
パジャマロリは歩く度に手に持っている蛇腹剣をじゃらじゃらと遊ぶように鳴らせながらるんるん気分で歩いている。
漫画とかでぬいぐるみを片手で持って、地面に引きずりながら歩く幼女とかを見たことがあったりするのだが、このパジャマロリはその要領で蛇腹剣を持っているから可愛いというより物騒だな。
だけど、小柄な女にでっかいハンマーを持たせてロマンの塊!とかやってるのに近いくらいのギャップがあって、見ごたえはある。
そもそも、蛇腹剣自体現実だと耐久性とかの問題で実運用がとても難しいので半分空想上の武器として扱われているが、このゲームのチュートリアル武器は耐久性は無限だから壊れやすい蛇腹剣との相性は抜群ってわけだ。
そういう意味でも、パジャマロリはロマンの塊と言える幼女だな。
「ふふん!
いいでしょこの蛇腹剣~!
くるくる回すと楽しいんだよね~!」
こらっ、危ないから振り回すのやめろ!
おいっ!
あっ、俺の頬にちょっとかすったじゃんか……
「あっ、壺壊しちゃった~!
どうしよう……」
ほら言わんこっちゃない。
蛇腹剣によって粉砕された壺の破片が廊下に飛び散った。
壊された壺は唐三彩っていう唐代の鉛釉を施した陶器だな。
当時、副葬用として作られることが多かった手法の陶器だ。
今回は壺の形だが、人の形だったり動物の形だったりすることもある。
壊れた壺は鳳凰のような鳥が描かれており、鳥の周りの色鮮やかな炎の装飾が中央の鳳凰をより引き立てていて至上の逸品と言っても過言じゃないものだったのに……
あーあ、これどうするんだよ……
俺とパジャマロリは壊れた唐三彩を見て悲嘆にくれている。
こいつをどうしようか考えていると、唐三彩が飾られていた台座が床下へと沈みはじめた。
おっ、なんだなんだ!?
急に何が起きはじめたんだ。
「もしかして怒られちゃうのっ?
お母さんに怒られるのも嫌なのに、ゲームの中でも怒られたくないよ~」
パジャマロリはメンタルクソザコのようで、半泣きになりながら俺の服の端を掴んで半分隠れている。
お前は子供か!
……そういえば、幼女だったな。
台座が完全に沈みこむと、今度は壁の一部が横にスライドしはじめた。
おっ、おい……
これって……
そして、壁のスライドが完全に終わると人1人くらい通れるくらいの間が空くことになった。
そして、空いたスペースから壁の奥を覗き込むとその先には階段が下へと伸びていた。
この屋敷は暑いだけの酷い仕様のイベント限定エリアだと思っていたが、こんなカラクリ要素もあるのか……
まるで忍者屋敷だな、おい!
忍者というワードで淫乱ピンク髪ペド忍者が脳裏に浮かびかけたが、首を左右に振ってそのイメージを振り切った。
で、この先どうするよ……
俺とパジャマロリは途方にくれていた。
カラクリといえば、【荒野の自由】を思い出しますね……
最近解き放たれようとしているのみたいですが、あまり会いたくはないですね。
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