140話 種族転生の転生
道中に現れる羽の生えた豚……通称ファンシーな豚や、天使を【菜刀天子】の【花上楼閣】による棘ミサイルで打ち落としながら進んでいく。
【菜刀天子】の背後に浮かび上がっている花弁が一枚ずつ敵モンスターに向かって飛んでいき、その花弁の枚数が一枚ずつ減っていっていた。
そして、花弁が無くなったあとスキルが終了したようだ。
「このスキルが私の元に来てくれたのは大きいですね……
威力はそれほどでもないですが、使うエネルギーと迎撃性能の高さが使い勝手を良くしていますね」
そりゃ、自立型の遠隔攻撃をしてくれる物体を生み出すスキルなら使い勝手がいいだろうよ!
不意打ちにも対抗できるし、遠距離攻撃だから相手に近づく必要もないからな。
だけど、苦労して手に入れた俺たちがそのスキルを使うとただのセーブポイントにしかならないんだよなぁ……
不公平じゃない?
俺だって棘ミサイルびゅんびゅん撃ちたいんだけど!!!!
「ぎゃんぎゃんとうるさい底辺種族【包丁戦士】ですね……
プレイヤーが私や【ミューン】のようにスキルを使うのは今のままでは無理です。
諦めた方がいいですよ……と今までの私なら言っていたでしょう」
おっ、【菜刀天子】さんよぉ?
もしかして、俺がその特別仕様のスキルを使える可能性があったりするってことか?
俺への態度が軟化した【菜刀天子】の言葉に希望が見えてきたのでテンションが上がる。
そんな俺の様子を見て、ニヤリという笑みを浮かべた【菜刀天子】はさらに言葉を紡ぐ。
「その通りです、この形式のスキルを【包丁戦士】でも使える可能性は数少ないですが道筋としてはありますよ。
それは……」
それは……?
期待のあまりごくりと喉を鳴らせながら次の言葉を待つ。
「聖獣に連なる種族か、天子に連なる種族へと種族転生することです!
聖獣に連なる種族へと種族転生するにはまず始めに、獣人へと種族転生をする必要があります。
そこからの転生派生系統で、聖獣があります。
そこまで転生を繰り返していくのが一番堅実なルートでしょう」
へー、種族転生ってそんな仕様だったのか。
転生を繰り返して種族を進化、変化させていくのが醍醐味のゲームは今までやってきたことはあるからなんとなくどんな風かイメージはついている。
ツリーシステムみたいなものだよな。
種族転生の条件を満たしながら、次の種族へ切り替えていく形式が今までやったゲームにはあった。
位階の低い種族から少しずつ上の位階の種族へ上げていきながらステータスを上げていくのだ。
「なんとなく近いですが、そこまで厳密ではないですよ。
基となる種族さえ抑えてしまえば、あと条件を満たすだけで……底辺種族【包丁戦士】が考えているような位階の高い種族へ一気にステップアップすることが可能ですからね」
なるほどな。
それで、聖獣についての成り方は聞いたが、そもそも俺は獣人に種族転生するための条件を全く満たせないからなぁ。
望み薄なんだよ。
それならもうひとつの天子系統の種族についても聞きたい。
【次元天子】になるには、【次元天子】である【菜刀天子】をレイドボスとして扱って倒せばいいって前に聞いたが、その基となる種族ならワンチャンイケる可能性があったりするんじゃないだろうか。
「その通りです。
【次元天子】については譲り渡す気はないですが、別の【天子】系列についてなら情報を渡せます。
天子になるためには、【次元天子】に認められる、20以上の種族パラメーターが存在する、フレンドに聖獣系統の種族がいる、2つ以上の聖獣スキルを使用可能にした、聖獣結界の起動に関与する、聖獣のヒトガタを2柱以上確認する、八卦深淵板を個人所有する……という前提条件があります。
フレンドに聖獣種族を要求してきたりしているので、本来は種族転生がプレイヤー全体へ浸透した後になることができる特別な種族ですが……
底辺種族【包丁戦士】はなんの因果か、ほとんどの条件を満たしていますからね。
それが幸運なのか、悪運が強いのかはわかりませんが」
……そんな複雑な条件があるのかよ。
だけど、【次元天子】に認められるは……一心同体になってるくらいだし満たせているだろう。
20以上の種族パラメーターが存在するのは……深度が20を越えているな!
フレンドに聖獣系統の種族がいるこれはさっきから黙り込んでいる【ミューン】が当てはまっている。
2つ以上の聖獣スキルを使用可能にしたのは……【渡月伝心】と【花上楼閣】があるからオーケー!
聖獣結界の起動に関与するのは……【聖獣結界 υ(ウプシロン)】を起動させたときにその場にいたから大丈夫だろう。
聖獣のヒトガタを2柱以上確認するのは……【ミューン】と、渓谷エリアの竜人ロリババアギルドマスターがこれに当てはまると思う。
ヒトガタっていうのが人間形態のことならだけどな。
八卦深淵板を個人所有するのは……なんだこれ?
八卦深淵板とかいうものをこの次元で見たということは聞いたことない。
というか実績で【八卦深淵板を観測する failed】ってなっている時点で、誰にも見られたことがないものなんだろう。
おい、【菜刀天子】さんよぉ?
この八卦深淵板ってやつを持ってないんだが?
どこで手に入るんだ?
どうせ鬼畜な条件で手に入るとかいうあれなんだろぉ?
ダンジョンを進む足を止めることなく会話をしていたが、ここで先頭の【菜刀天子】がピタリと足を止めたので、俺もそれに従って足を止める。
……俺の後ろを歩いていた【ミューン】も巻き添えで足を止めることになった、すまんな。
足を止めた【菜刀天子】は、腰に下げていた中華包丁を上空に掲げて勝ち誇ったような笑みを俺に向けてきた。
そして、その笑みを崩さぬまま口を開いた。
「このダンジョンです!」
……えっ、それマジ?
はじめから言っていたでしょう。
明確な言葉にはしてませんでしたが。
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