139話 花開く豚
第1第2階層では、ときたま出てくる天使を【菜刀天子】と【ミューン】がそれぞれ【渡月伝心】と【兎月伝心】を使ってみじん切りにすることでなんなく突破できた。
「難なく……とは言ってくれますね?
底辺種族【包丁戦士】だけではあの傀儡……いえ、天使に傷ひとつつけることも一苦労でしたでしょう。
……もちろん、深淵スキルを使用するなりすれば、倒すことくらいは出来そうですが」
たしかに、疑似レイドボスになったりすればいけるかもな。
あのレイドボス状態は明らかに力の巡り方が普段と違ったから、分かりやすい身体スペック以上に別の法則が働いているんだろう。
だけど、ここで【深淵顕現権限】とか【深淵纏縛】を使うにはデメリットが少しきつい。
それに、今回は俺がでしゃばらなくても【ミューン】【菜刀天子】という特大戦力がいるからな。
俺が攻撃をするとしてもちょっかいを出すくらいだろう。
「……じゃま」
そんな思考をしていてたからか、背後から迫り来る天使に気づいていなかった俺は、【ミューン】に歪曲した道の脇へどかされた。
そして、【ミューン】は鉤爪に紫色の粒子を凝縮させるとスキルを発動した。
「我给你带来喜悦了吗?
……【兎月伝心】」
その粒子に揉まれた天使は木っ端微塵に吹き飛ばされた。
……やっぱりえげつないな円環スキル!?
あっ、円環スキルっていうのは俺が勝手に呼んでいるだけなんだが、【渡月伝心】系スキルの粒子が円環状に飛んでいくスキルの略称だ。
この円環スキル……プレイヤーが使っている【渡月伝心】と何が違うんだろうか。
【ミューン】が使っている【兎月伝心】だけなら、スキルの名前が違うからそういうのもあるんだな~って俺自身を納得させられる。
だが、ここにいる【菜刀天子】や【蛇腹剣次元】の次元天子だったジャノメが使っていた【渡月伝心】はスキルの名前もプレイヤーが使っているものと同じだ。
だからこそ、俺たちプレイヤーとのスキル仕様の差に疑問が出てくるんだよなぁ……
俺も円環スキル使いたいぞ。
「……まあ、頑張ってください。
底辺種族【包丁戦士】には無理だと思いますが」
それってYO!遠回しに諦めろって言ってるじゃん!
そこまで言われると意地でも使えるようになりたくなってくる。
これから、努力あるのみだな!
「努力でどうにかなるという問題ではないですよ。
そんな無駄なことを考えているくらいならキリキリと進んでください。
ほら、第三層からの新しい敵が出てきましたよ」
【菜刀天子】に貶された俺はしぶしぶ前方を確認すると、デフォルメされた豚に羽が生えたようなモンスターが出てきていた。
これまたファンシーな見た目なモンスターが出てきたなぁ……
そのファンシーな豚は俺たちを敵と認識すると、大きく息を吸い込みはじめた。
おっ、いったい何をするっていうんだ?
大声でも出すっていうのか?
「いえ、底辺種族【包丁戦士】には危険な攻撃が来ます!
こんなところで死に戻りされても困るだけなので、私の後ろに退避していてください」
きゃっ、【菜刀天子】さん格好いい!(?)
俺は車道側を歩いていた彼女を車から守るために引き寄せるような動きで、【菜刀天子】に引っ張られた。
謎の乙女ムーヴをしながら待避することになった俺は、【菜刀天子】の身体の陰からファンシーな豚の行動を見守る。
ファンシーな豚は息を吸い込み、身体の大きさが倍くらいになるまで膨らんだあと口を開放した!
その開放された口は、急激な熱気を帯始めファンシーな豚の体内から放出された息に着火しまるで炎が吐き出されたようになった。
……これブレス攻撃じゃん!
俺がさっきまでいた位置を炎が通過し、間一髪俺は回避することができたってわけだ。
サンキュー【菜刀天子】!
「あの炎攻撃はただのブレス攻撃ではないですからね……
かすっていたら、ブレスそのもののダメージではなくかすったことによって引き起こされる状態異常の蓄積ダメージだけで底辺種族【包丁戦士】は死に戻りしていたでしょうね。
全く、これだから底辺種族は貧弱で困りますね……」
うわっ、なに?
あのブレス攻撃って見た目以上にそんなやばい性能持ってるのかよ!?
控えめに言っても、俺たちプレイヤーが持っているスキルより高性能な攻撃じゃない?
そりゃ【菜刀天子】も思わず俺を引き寄せるわな。
流石エンドコンテンツダンジョン……第三層に来ただけでさっそく鬼畜性能の雑魚モンスターがエンカウントするようになるとはな……
気分はRPGで仲間になったばかりの村人が最終ダンジョンに連れてこられているようなものだ。
生きた心地がしないぞ!?
「そんな底辺種族【包丁戦士】のためにも、さっさとけりをつけてしまうとしましょうか!
【花上楼閣】!」
【菜刀天子】は、新スキル【花上楼閣】を発動した。
すると、【菜刀天子】の背後の宙に花のような岩が出現し、そこから花弁の形をした岩が射出された。
その花弁はファンシーな豚に突き刺さり、死に追いやった後消滅した。
えっ、なんか俺が聞いてたスキルの情報と性能が違うんだけど!?
そうでしょうね。
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