138話 2つの月
というわけで、【誓言の歪曲迷宮】を攻略していくパーティーは【包丁戦士】、【菜刀天子】、【ミューン】だ。
疑似レイドボス、半分力を失っているレイドボス、元レイドボスという豪華なのか豪華じゃないのかよくわからないレイドボス擬きの集団になってしまっていることを考えるとちょっと面白い。
控えめに言っても、レイドボス集団がダンジョンアタックするっておかしいからな。
普通レイドボスはいるとしてもダンジョンの奥に待ち構えている存在だ。
それが群れをなしてダンジョンを攻略するっていう字面が、一般的感性から逸脱した行為っていうわけだぞ。
「言われてみるとそうですよね。
底辺種族【包丁戦士】にしては、ごく一般的な意見です。
少しは成長しましたか?」
いや、お前の暴走行為を咎めているんだが?
まあ……攻略を手伝ってくれているから今回は退くとしよう。
「賢明な判断です。
そもそも底辺種族が私の意見に口を挟むのが不敬ですから」
やっぱり傲慢な【菜刀天子】を横目にねじり捻れた道を進んでいくと、通路を塞ぐように何かが現れた。
……あれは、天使か?
白い羽を広げた天使が、臨戦態勢で待ち構えている。
「……ただの傀儡ですよ。
あんなもの……見ていて不快ですね」
なんか【菜刀天子】が急に機嫌が悪そうになったな。
この天使を見て思うところがあったのだろうか。
そんなことを考えていると、【菜刀天子】は腰に提げていた中華包丁……菜刀を天に掲げて口を開いた。
「空虚なる傀儡よ、永遠に眠りなさい。
【渡月伝心】!」
【菜刀天子】が掲げていた中華包丁にひとかたまりの粒子が現れ、それが円環状になったかと思うと天使の周囲を取り囲み切り裂いた。
おっ、円環バージョンの【渡月伝心】じゃん!
なんだか久しぶりに見た気がするな。
銀光の粒子が瞬き、目にも止まらぬ速さで高速移動し切り裂いていく。
切り裂いていくが……
「くっ、やはり力が二割ほどしか戻っていない私のスキルでは一撃とはいきませんか……
非力を感じますね……」
やっぱり【菜刀天子】だけじゃだめじゃないか……
たしかに天使は満身創痍で、もう一回スキルを使ったら確実に倒せるし、戦闘っていう点だけを考えるなら余裕だろう。
だけど、ダンジョンの一番浅いところの敵だろこいつ?
そんなやつをスキルを使っても一撃で突破できないのは今後のことを考えると、不安しかないぞ!!
「痛いところをついてきますね……
ですが安心してください、私たちの目的地は第一ターニングポイントの10階層です。
そこまでなら、レイドボスとしてのスペックで無理やり押していけばギリギリ通用するラインでしょう……多分。
……いや、エンドコンテンツということを考えると若干力が不足でしたかね……?」
なんか最後にものすごく不安を煽ってくるセリフを挟んでくるな!
完全に泥船運航じゃないか、このダンジョンアタック!
「……ゆだん、きんもつ。
わたしが、とどめ、さす……
刺咽喉,致命一击!【兎月伝心】!」
【ミューン】が完全に油断をしていた【菜刀天子】の尻拭いをするために動いた。
よく見ると、相対していた天使がボロボロになりながらも攻撃するために接近してきていたようだ。
そんな天使の攻撃を避けようともせず、【ミューン】は鉤爪を何処からか取り出して装着するとスキルを発動した。
爪先に紫色の粒子が集まり、その粒子が【ミューン】の意思によって拡散した。
そして、拡散した紫色の粒子が迫り来る天使の首もとに靄のように集まり始め……
次の瞬間には、俺の足元に天使の首がポロリと落ちていた。
なんだこのスプラッタ感!?
俺がプレイヤーキラーとして活躍(?)するくらい人体破壊になれていなかったら、驚いて腰を抜かしていたかもしれないな。
今回は結構特殊だが、やっぱり人型のキャラクターの首が落ちる瞬間は一種の芸術だな!
儚げな感じと、救いようのない絶望、最後に抱いていたであろう希望を無下にする感覚!
これらがミックスされて最高のテイストになるってわけだ。
う~ん、いいね!
「……あたま、おかしい?
だいじょうぶ……?」
「いえ、この底辺種族【包丁戦士】はおかしい状態が正常なので……
戦闘狂のあなたには分からないとは思いますが、戦闘以外でも快楽を得ることができるのですよ。
特にこの底辺種族【包丁戦士】は、人型の存在が破壊されていく様子を見るのに興奮するらしいです」
「……たたかうのと、ちがう?
たたかいでも、あいてはかいする……」
「この底辺種族【包丁戦士】は、自分が戦闘をしなくても破壊されていく様を見ることさえできれば満足する……らしいですよ」
「……よくわからない……」
「安心してください、私も理解はしていないので」
……なんか動物園で珍獣でも見るかのように俺の解説をされているのが、不思議な感覚だな。
というかプレイヤーキルで快楽を得られるのは当然だろっ!?
当然じゃないですよ、生産プレイヤーでも……
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