136話 旅立ちは突然に
「そろそろ夜になってしまうみたいだから締めようか!」
【検証班長】が、窓から外を眺めながらそう呟いた。
どうやらいつの間にか時間がかなり経っていたようだな。
新情報についての衝撃だとか、場のワイワイとした雰囲気が楽しかったからか時間が過ぎるのが早かった気がする。
「それで、最後に言い残しておくことがある人はいるかな?」
あっ、次元戦争!
俺は【検証班長】を連れてくわ!
あと、【釣竿剣士】もよろしくな!
「はい!」
「えっ?
次元戦争……っ!?
なんでそんな重大なことをさらって言い残していくのだろうか……」
何やら嘆いている【検証班長】をその場に残して俺はログアウトした。
【Raid Battle!】
【包丁を冠する君主】
【菜刀天子】
【次元天子】【上位権限】【???】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【次元をさまよい】
【冒険者を導く】
【聖獣を担うが故に】
【深淵と敵対する】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【ーーー機密事項のため開示拒否ーーー】
【レイドバトルを開始します】
はい、今日も元気にログイン!
今日はお試しであれをやっていこうと思う。
「あれ……ですか?
底辺種族【包丁戦士】はこの期に及んで何をする気ですか……」
おっ、【菜刀天子】じゃん!
おっはー!
というかこの期に及んでとはなんだ、この期に及んでとは!
俺は今ログインしたばっかりなんだが!?
「底辺種族【包丁戦士】の普段の行動が常軌を逸したものばかりですからね。
今回は何をしでかすのか気になった……というところです。
良くも悪くも底辺種族【包丁戦士】の行動は、【包丁次元】全体に影響を及ぼしかねないですから。
実績の解除数も、直接的間接的なものを合わせて圧倒的に底辺種族【包丁戦士】が関わった数が多いですから」
……そう言われると頭ごなしに否定はできないなぁ……
実際、実績照会にあったやつでクリアしてたのは俺がやったやつが多い。
主に深淵関係だけど。
「その通りです。
底辺種族【包丁戦士】は深淵に近づき過ぎています。
いくらこの次元のプレイヤーが深度に傾きかけているからといって、それを加速させるのは【次元天子】としては見過ごせないです」
見過ごせないのは分かるが、勝手に深度が上がってきたり、深淵スキルが手に入るんだから仕方ないだろ?
種族転生とかも、なんか深淵種族になる条件満たしちゃったらしいし……
「!?
それは非常に不味いですね!?
これ以上堕とすのは、【包丁次元】のためになりません……
それなら強行策でも使うしか……?」
おいおい……
なんか物騒なことをブツブツと呟き始めたぞ、この天子は。
強行策ってどんなヤバいことをやらかすつもりなんだこいつ。
「別に物騒なことというわけではありませんが、私の流儀ではないことです。
ですが、これ以上底辺種族【包丁戦士】を深淵に近づけることと比べるならば……屈辱ですが流儀を曲げます!
絶対に私の陣営に引き込んでテクスチャの上書きの路線変更をしなければ!!」
おいおいおい!!
ヒートアップしてきてるなぁ!?
というかテクスチャの上書き?
ルル様も前に似たようなことを言ってたなぁ、【上位権限】持ちが気にするってことはそれなりに重要なことなのかもしれない。
……でも、そんなに興味はないぞ。
それよりも早く出発させてくれ、フィールドを駆け巡ってプレイヤーキラーとしてPK業に勤しみたいんだが?
「いえ、今日は寝かせませんよ?」
クール系黄色髪の美形にそう言われると、男女問わず思わずドキッとしてしまうだろう。
かくいう俺も不覚ながらドキッとした。
不意打ちってこわい!
だが、そんな雰囲気じゃなさそうな【菜刀天子】の表情を見て俺は察した。
あっ、なんか俺不味いことになりそう?
「そんなことはないですよ?
この時点のプレイヤー相手にこれをやるのは……正直適切じゃないかもしれません。
ですが、背に腹は代えられませんからね!」
そこまで【菜刀天子】に言わせることっていったいなんなんだ!?
俺はどうなるんだ!?
そんな不安に答えるかのように【菜刀天子】は口を開いた。
「本来グランドクエスト終盤に解放されるはずだったエンドコンテンツ、【誓言の歪曲迷宮】の攻略をこれから行います!」
いやいやいや、無理だって!
前にお前が言ってたじゃん!
「今のこの次元のプレイヤーたちではまずクリア出来ないでしょう」ってさぁ!
なんで今になってそれを俺にやらせようって言うんだ。
流石に理論として破綻してないか?
【菜刀天子】の横暴とも言える謎理論に焦る俺。
当然だ、そんな終盤に解放されるはずだったダンジョンに今の俺が行ってもぼろ雑巾にされるのが目に見えている。
……あっ、もしかしてこの【菜刀天子】は徹底的に俺をぼろ雑巾にしたいのか?
深淵種族に近づきすぎたから。
「別にクリアは狙っていないです。
ですが、このダンジョンには今のこの次元の状況を打破する特殊な宝箱があります。
それを取りに行くということです。
簡単でしょう?」
だから俺一人でクリアまで行かなくても、そもそも進むことすら無理だって!
「一人……?
もしかして勘違いしてませんか?」
何をだ?
俺を嘲笑うかのようにバカにした表情で玉座から見下してくる【菜刀天子】。
いったい俺が何を勘違いしているっていうんだ?
「この【誓言の歪曲迷宮】攻略、【次元天子】である私が!
そう、この【菜刀天子】が!底辺種族【包丁戦士】のために!共にダンジョン攻略に!行くと!言っているのですよ!
その矮小な頭でもここまでハッキリ言えばわかるでしょう?」
えっ?
マジで一緒にダンジョン行ってくれるのか!?
えええええええ!?!?!?
どうしたんだ【菜刀天子】は!?
やっぱり俺の料理を食べておかしくなったんじゃないのか!?
今回の私は【マジ】ですよ!
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