135話 考察会議は踊る!~【花上楼閣】編~
「聖獣結界についてはこれくらいにしておきましょうか。
それで、【釣竿剣士】さんは他に何か情報とかありますか?」
貪欲にも【検証班長】は更なる情報を【釣竿剣士】が引き出そうとしている。
まあ、それが【検証班長】に求められている役割だから今さら文句を言うプレイヤーはこの次元にはいないだろう。
「……そうですね……
あるにはありますが……私もどういうことなのかよく分かっていないんですよね」
ん?
【釣竿剣士】にしてはなんだか歯切れが悪いな。
どうしたんだ、珍しいぞ?
「個人アナウンスで来た内容なんですけど、【聖獣【ウプシロン=ウーグウイ】の力の一部を配下に治めました】というよくわからないものが来ましたね……」
【聖獣を配下に加える clear】とかいう実績があったが、これは【釣竿剣士】が解除した実績だったのか……
だが、この実績を解除した本人がどんな条件で、どんなものを配下にしたのかよく分かっていないみたいだ。
「非常に興味深い内容ですが、一旦保留にしておきましょう。
なにせ、どんなことなのかボクを含めたこの場にいる全員が分からないですからね。
【釣竿剣士】さんが口淀ませたのも納得です」
正直めっちゃ気になるが、【検証班長】がそう言うなら仕方ない。
「代わりにと言っては何ですが、さっき【渡月伝心】で呼んだ【ペグ忍者】が到着しました。
スキル【花上楼閣】の現状での性能調査の報告をこの場でしてもらいます!」
その言葉を呼び鈴としたかのごとく、天井から【ペグ忍者】が【検証班長】の横に飛び降りてきた。
「どうも【ペグ忍者】なのら~!」
……っ!?
そんなところから登場するなんて、この淫乱ペドは忍者か!?
いや、忍者だったな。
気が動転していたようだ。
【ペグ忍者】は天井から降りてくるなり、【検証班長】によって椅子に座らせられ、縄でぐるぐる巻きにされた。
おいおい、長身の男が幼女を縄で縛るって光景は犯罪臭がプンプンするぞ!?
大丈夫なのか!?
「【検証班長】しゃん!?
何をするのら!?
こんなに近くに【釣竿剣士】ちゃんがいるのに、こんなことされたら身体をこねくりまわしにいけないのら!!
どうしてくれるのら~?」
【ペグ忍者】が非難するような目で【検証班長】を見るが、それをスルーして【検証班長】が言葉を紡ぐ。
「【釣竿剣士】さんを守るためです、【ペグ忍者】は諦めて【花上楼閣】の報告をしてください」
冷静だな~
縄で縛られた【ペグ忍者】はそんな【検証班長】の態度を見て諦めたのか、スキルについて解説をはじめた。
「【ペグ忍者】はスキル【花上楼閣】の実地実験と、新緑都市アネイブルにいたプレイヤーの使用した感想とかの聞き込みをやってきたのら~!」
おっ、前回の【魚尾砲撃】と【渡月伝心】のときも同じことをやっていたが、こんなちんちくりんな幼女みたいな見た目をして、ちゃっかりまともなことやってるよな。
「ちんちくりんは余計なのら!
【ペグ忍者】が【花上楼閣】を使ってみた感想は……あると便利なスキルと言っても過言ではないのら!」
ほう、第一声がその一言なら使い勝手も良さそうなスキルなんだろうな!
これは期待が持てそうだ。
「スキルの効果を簡単に言うと【仮のログインスポットを何処でも作れるスキル】なのら!
【セーブスポット】っていったほうが伝わりやすい人もいるのら?」
おおっ!
おおっ?
えっ、あの棘ミサイルと同じ名前のスキルだよな?
攻撃スキルじゃないのかよ!?
これはどう反応したらいいんだろうか。
「そんなこと知らないのら……
今まで、一回でもログアウトするとそれぞれのエリアの中央から強制的に移動し直しになっていたのら」
そうだな。
俺のログインスポットは完全に王宮で固定されてしまっているが、他のプレイヤーは任意で東西南北のエリアの中で一回でも行ったことがあるエリアの中央からログインする仕様みたいだ。
逆に言ってしまえば、エリアの中央からしかログインできなかったってことだな。
「その通りなのら。
このスキルを使ったプレイヤーの話を聞くと、渓谷エリアと草原エリアの間でなんとなくこの【花上楼閣】を使って遊んでみたあと、ログインしようとしたらまた同じ場所からログインできるようになった!……ということみたいなのら」
ログイン場所を変えられるのはたしかに嬉しいといえば嬉しい。
「……【包丁戦士】さんの言いたいことはなんとなくわかります。
レイドボス討伐にかけた労力に対して、手に入れたスキルの効果がなんとも言えないもので言葉につまっているのですよね?
ボクもそうだから安心していいよ」
やっばりそうだよな。
1日かけた戦闘で手に入れたスキルが、システム補助効果だからな……
【渡月伝心】といい、【花上楼閣】といい、聖獣を倒して手に入れたスキルがことごとくシステム補助系統なのは嫌がらせなのか!?
……流石はプレイヤーに人権のないゲームだぁ!
使いやすい攻撃スキルとかくれよな!
「ですが、このスキルで新しく出来ることもあるだろうね」
【検証班長】が何やら思いついたように口を開いた。
「と、言いますと?」
「今まで、ログインし直す度に初期位置まで戻されていましたがこのスキルを使えばこれまで断念していた遠距離のエリアの調査や隠しエリアの調査が出来るようになります。
このメリットは無視できない大きいものですよ」
そうか、【深淵奈落】とかルル様との話ばかりで全く散策したことがなかったが、その理由は王宮から毎回歩いて【深淵奈落】まで行く必要があったからだ。
その移動時間を短縮できるなら新しい発見とかできるかもしれないよな。
「スキルを発動すると、地面に花びらの形をした岩が設置されるのら~
次にログインするときはその花びらの上に乗った状態でログインすることになるからファンシーな気分になれるのら!
デメリットは、その花びらがある場所からしかログインできなくなるみたいなのら……
一回使ってからクールタイムを見てみると、丸々1日経たないと二回目の【花上楼閣】は発動できないみたいなのら」
えっ、それって一回発動したら東西南北エリアの中央からのログイン場所の自由選択ができなくなるってことじゃないか?
それって不便だぞ……
「一応、二回目の【花上楼閣】を使うと新しく岩の花びらの位置を現在地に変えるか、今置いてある岩の花びら消すか選べるみたいなのら。
それに、一回死に戻りするとスポットも一緒に消えてしまうみたいなのら~!」
死に戻り前提のボトムダウンオンラインだと、死んだら場所がリセットされるのはきついわな……
でも、解除をある程度任意でできるならそれなりに使いやすそうだ。
「でも、他にもデメリットがあるのら……
なんと、岩の花びらが破壊されると破壊されてから1日間はスキルが使えなくなるみたいなのら……
岩の花びらはログアウトしていても残るらしいのら、だから目立つところに置いておくと、面白半分で花びらを壊されて大変なことになるかもしれないのら……」
つまりプレイヤーのモラルが試されるわけだな。
良識あるプレイをすることを求められているってことか。
……面白そうだな!!!!!!
プレイヤーキラーの俺としても、その辺りの花びらを片っ端から破壊しまくる新しいプレイスタイルで楽しんでみるってのも悪くない気がしてきたな!!!!
絶対爽快感すごいでしょ!
俺が破壊行為をやらないわけないよなぁ!!!
「……個人の趣味ですからあまり強くは言いませんが、半分迷惑行為に近いのでほどほどにしてほうがいいですよ。
まあ、プレイヤーキラーを自負しているあなたに言っても馬の耳に念仏かもしれませんが……」
【釣竿剣士】に釘を刺されたような気もするが、あまり気にしないでおこう!
絶対今度やってやるからな!
そう息巻いている俺を、他の三人は呆れたような目でジトーっと見ていた。
いや、別にいいだろ!?
害悪プレイヤー底辺種族【包丁戦士】ですね。
まったく、これだから底辺種族は……
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