13話 壁打ち
少女が釣竿を大きく振りかぶった。
その釣竿の先には先程まで釣りに使っていたルアーではなく、巨大な鉄球が取りつけられている。
「畳み掛けます!
釣竿一刀流【石砕き】」
そして、その鉄球付き釣竿をレイドボスのトゲトゲ亀(仮)に向かって振りかざした。
重量のありそうな鉄球が甲羅に当たり、俺は思わず。
「やったか!?」
「露骨にフラグ立てるの止めてください。
まあ、この程度では全くダメージ与えられてませんけどね……」
「うっそ?
まじで?」
【釣竿剣士】の言葉の真偽を確認するために攻撃を受けたトゲトゲ亀をじっくり見てみるが、全く攻撃を受けたことを気にしてすらいない様子だ。
「本当みたいだな。
ちょっと俺も試しに攻撃してみるか!」
地面を蹴り、トゲトゲ亀に急接近。
そこからの包丁による上段切りを繰り出す。
が。
「うーん、びくともしないな……」
そんなこんなでレイドボスに対して二人で攻撃していた俺たちだったが、最後までダメージらしいダメージを与えることが出来なかった。
この言い方だといつもみたいに死に戻りをしたしたのかと思われるだろうが、今回はトゲトゲ亀の方が飽きたのか沼の奥底に戻っていった。
あっちからの攻撃も一切なかったので、レイドボスと戦っているよりは壁と戦っているような感じだった……解せぬ。
「さて、俺がここに来た本題を話そうと思うんだがいいだろうか?」
「いいですけど、私にルアーを届けに来ただけじゃないんですか?」
きょとん、と首を傾げながら俺の顔をまじまじと見てくる。
照れるなあ、おい。
「それはあくまで【槌鍛治士】の頼みだ。
俺にとってはついでの用事でしかない。
俺がここに来たのは【釣竿剣士】お前を見定めに来たんだ。
俺が挑戦し続けている新緑都市のレイドボス【Ж】を討伐するための仲間としてな」
「ほほう、そういうことでしたか。
それで?私は合格に値しますか?」
にやにやしながら聞いてくる。
結果を分かってて聞いてくるのが打ち解けた証なのかもしれないか。
「無論、合格だ。
というかお前【Ж】の極太レーザー見て生き残れるんだろ?
それだけでも正直能力面で欲しい人材だったが、心配だった性格面もまあ問題無さそうだし」
「いや、何から想像して性格面を心配していたのか気になりますね」
「そ、それは追々な……
それでこの話に乗ってくれるか?」
そう、ここが重要だ。
基準を満たしている逸材でも手伝ってくれなければ、俺からすると【モブ】も同然だ。
目の前の少女の返事を緊張しながら待っている……
緊張のあまり喉をごくりと鳴らしたとき。
「……一つ条件があります」
「なんだ?」
とんでもな噂が流れている少女が出す条件とは……?
俺が出来ることなら問題なさそうだけど。
「新緑都市のレイドボス討伐が完了したら、ここ沼地エリアのレイドボス討伐の手助けをしてください。
一番はじめにレイドボスを討伐したとなると、新緑都市トッププレイヤーと呼ばれているあなたが駒としては浮くことになり、間違いなく他のエリアからも要請がかかるはずです。
なのでなのでその予約権も約束してください!」
「そうだった。
トッププレイヤーと呼ばれているのは実力というよりも、それぞれのレイドボスにかける熱意が他より熱いからというのを【槌鍛治士】が言っていたな……
いいだろう、先に手伝ってもらうんだ。
それくらいの条件は呑んでやろう!」
【包丁釣竿同盟】の成立だ!
ようやくここもレイドボス討伐の目処がつき始めましたか……
ここが終わればようやく……
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