125話 ルル様の遺したもの
【ペグ忍者】による尊い犠牲により、この【包丁次元】のブレインである【検証班長】が守られた。
だが、失われた戦力はかなりでかかった。
種族転生によって猫獣人になった【ペグ忍者】が代わりにやられてしまったのだ。
闘技場イベントでは俺を真っ正面から破るくらいのスペックを持つプレイヤーだからな。
……ドがつくほどの変態だけど。
「【包丁戦士】さん、【ペグ忍者】の仇をとりましょう!
さっき手に入れた新スキルで【ウプシロン=ウーグウイ】を捕らえましょう」
了解だ!
検証をしているときの熱さとはまた違った熱が瞳に宿っている【検証班長】は珍しい。
それほど【ペグ忍者】を戦力として……いや、相棒として頼りにしていたんだろう。
あいつ、言動とかふざけてたけど、検証とか情報収集とかかなり有能ムーヴでこなしてたし気持ちはわからなくもない。
……まあ、それを含めても俺からするとただの変態という認識は変わらないんだけどな。
そんな【ペグ忍者】が残してくれたチャンス、有効に使うしかないだろう。
「いきますよ、スキル発動!
【領域を守護するものよ】
【深き業を刻み込め】
【深淵に囚われるがよい】
【これは汝を縛る鎖】
【【堕枝深淵】】!」
よし、俺もスキル発動だ!
【我が領域を侵すものよ】
【流転する境界の狭間にて、我が深き業を刻み込め】
【汝、聖なるものなれば我が深淵に染まるがよい】
【これは我が存在の証明】
【【堕枝深淵】】!
俺と【検証班長】は新しく手に入れたスキルをほぼ同時に発動させた。
【検証班長】が発動させた【堕枝深淵】は地面から一本の黒い枝が生えて、それが【ウプシロン=ウーグウイ】に向かって伸びていく。
生えてきた黒い枝はか弱そうな感じだが、それでもゆっくりと伸びていく。
動きが直線的で一定以上の動きとか反応ができるプレイヤーに当てることは難しいだろうが、今回の相手は鈍重な亀のレイドボス【ウプシロン=ウーグウイ】だ。
棘ミサイルの根本にある脈をゆっくりと押さえつけにいっている。
俺が発動させた【堕枝深淵】は【検証班長】が発動させたものと色々と違うみたいだ。
まず、スキル発動のために必要な詠唱がそもそも違う。
詠唱が必要なスキルっていうことにも驚いたが、それ以上に同じスキルなのに詠唱内容が違うのが意味不明すぎる。
俺の詠唱はルル様が使ってたやつと同じ詠唱だけど……あっ、俺今ルル様の深淵細胞……【P細胞】励起させてたわ!
だからこれにスキルが誤反応してルル様仕様の詠唱になった……可能性はあるわな。
そして、【検証班長】が発動させた【堕枝深淵】は地面から黒い枝が生えていたが、俺の【堕枝深淵】は翼が生えている側である右手から伸びた。
鞭のようにしなりながら自由に軌道を変えて【ウプシロン=ウーグウイ】へと黒い枝が伸びていく。
【検証班長】と違って、俺は【ウプシロン=ウーグウイ】のヘイトを極大に集めているからか棘ミサイルが尋常じゃなく向かってきている。
だが、万全状態の棘ミサイルをギリギリではあるが回避できていた俺が、満身創痍で棘ミサイルの数を減らしたこの状況をかわせないハズはない。
だが、攻撃をするとなるとやはり手数が足りない……
止めに1つ思いついているが、この数を抑えきるにはあと1つ決定的なものが欲しい。
このルル様が残してくれたスキルたちと……あと1つ……
ん?ルル様が残した……?
そういえば、闘技場イベントの後に【深淵奈落】でルル様がなんか言ってた気がする……
たしか……
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「そうか……
それならば、1つヒントでもやろう。
【天地逆転】だ。
このabilityを持っているものが現れたのなら、我の力を借りずとも暴飲暴食の亀を容易く倒せることだろう」
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そうだ、ability【天地逆転】!!!
これだ!
そして、偶然なのか運命なのかわからないがこのレイドバトルにこのabilityを持ったやつがいる。
おい、【ブーメラン冒険者】!
ability【天地逆転】ってやつ持ってたよな?
どんなabilityなのか詳しく知ってることを教えろ!
めっちゃ重要かもしれない!
俺の剣幕に押されて一瞬ぽかんとしていた男の娘、【ブーメラン冒険者】だったが、そこから立ち直ると口を開いた。
「ability【天地逆転】は……耐性を全て真逆にするabilityなんだよっ!
たとえば炎に強く、氷に弱いならその真逆……炎に弱くなって氷に強くなるってabilityだねっ!」
なるほどな……これまたピーキーなabilityだな……
メリットとデメリットが表裏一体ってわけか。
だけど、このabilityがどう攻略に繋がるんだ?
ルル様は何をこのabilityに見出だしたんだろう。
そう首をかしげながら棘ミサイルの猛攻をかわしている俺を見て【ブーメラン冒険者】はさらに言葉を紡ぐ。
「あと、スキル【休息万命急急如律令】を手に入れてから初めて知ったんだけど、攻撃をするとき本来与えるはずだったダメージ分他の人への回復量を増やせるよっ!
でも代わりに、その分自分がダメージを受けるっていうデメリットがあるよっ!
あと、あくまでも回復量を増やすだけだから、回復スキルじゃないとこのabilityのこの効果は発動しないらしいよっ!
これはいつも発動してるから、今もダメージが増えていってるよっ……
でも、自分で回復できるからこれはあまり気にならないかなっ!」
言い切ったように見えるが、【ブーメラン冒険者】はまだもじもじと口を動かしている。
何かいい足りないことがあるんだろ?
遠慮とかいいからはやく続きを話せ。
「あの……あと……攻撃を当てたら1日1回だけ相手がこけるよっ!
でも、相手もこけたら私も全く同じポーズでこけるっていうネタ効果だけどねっ!
しかも相手はそのあと動けるようになるのに、私は1日中そのポーズから動けなくなるっていうねっ!
恥ずかしいからあまり使いたくないよねっ……」
ネタ効果……俺のフレンドリスト全消去よりはデメリットが小さい……?
いや、耐性が永久に反転するってのが実はかなり大きなデメリットになってるのかもしれないが、中々面白いabilityだな。
耐性を反転させるから、スキル【竜鱗図冊】を使ったときに双子の姉とは違う色の鱗が出てきたってことかな?
スキル【竜鱗図冊】は【ブーメラン冒険者】や【短剣探険者】、そして【風船飛行士】が手に入れているという、見たところabilityと併用してカスタムしていくスキルのようだから、耐性反転の影響がもろに反映された可能性は高そうだ。
回復効果を増やすのも興味深い。
自傷ダメージは面倒だけどな……
さて、この中で使えそうな効果はあるだろうか……?




