124話 今後のことも考えて
ボマードちゃんの貴重な犠牲(?)によって、【ウプシロン=ウーグウイ】に【名称公開】デバフをかけることができた。
急にボマードちゃんの意識が復活してジェーの意識が無くなった時には正直ヒヤッとしたが、元々ボマードちゃんがやられる想定だったのを思い出して心を落ち着かせた。
ボマードちゃん(ジェー)が俺の予想よりも遥かに技巧派な回避タンク術によるヘイト管理をしてくれてたから、本当は名残惜しかったが仕方あるまい。
というかボマードちゃんの意識とジェーの意識2つが切り替わると本当に二重人格みたいだよな。
口調とか表情とか動きとか全く違うし。
俺がジェーに意識を乗っ取られてたら外から見てもあんまり変化無さそうだが、ボマードちゃんは普段とギャップがありすぎるから余計に気になるよな。
……あれ?
これはもしかするとジェーの今の口調とか表情とか俺のを参考にしてたりするんじゃないか!?
いや、だってさ、戦いかたとか動きとかを俺のやつ参考にしてるって本人(本レイドボス?)も言ってたし。
実際あり得そうなのが怖いところだ。
このゲームのAIは無駄に高性能なところもあったりするからなぁ……
学習機能が充実していても全くおかしい話でもないだろう。
……学習機能……レイドボス……人格……んっ?なんだか閃きそう。
そんなことを真剣に考えていると、支援攻撃に徹している男の娘【ブーメラン冒険者】と、最前線でひたすら斬擊を繰り出している快活な女の子【短剣探険者】の双子たちから声がかかった。
「なにぼさっとしているの【包丁戦士】さんっ!
ボマードちゃんがやられたんだから、次は【包丁戦士】さんの出番だよっ!」
「そうだヨ!
私たちがガンガン攻撃をしている中傍観していたんだから、ここから存分に働いてネ!」
ああ、すまんすまん。
戦闘中だったのにめっちゃ真剣に考え事してたわ。
なんだか閃きそうだったが、結局そんなことなかったぜ。
とりあえずここからはこの俺、【包丁戦士】がヘイトを受け持ってやる!
いくぞ、スキル【深淵顕現権限】発動!
俺が励起させるのはP細胞。
スキルを発動すると、背中の骨が隆起し始めて皮膚を突き破り、骨の翼が生えた。
俺の背中から生えた片骨翼が完全に形成されると、【ウプシロン=ウーグウイ】の目線がギロッと俺の方へ向けられた。
それと同時に脳内に無機質な声が鳴り響く。
【Warning!】
【聖獣【ウプシロン=ウーグウイ】が深淵種族の気配を察知しました】
【聖獣であるが故に】
【深淵と敵対する】
【【包丁戦士】にヘイトが極大集中します】
ここでアナウンスが終わるかと思ったが、さらにアナウンスが続く。
【Warning!】
【志を同じくする者たちよ】
【集いて立ち上がれ!】
【【クランリーダー】権限によりクランメンバー召集!】
【【ウプシロン=ウーグウイ】のクランメンバーは召集に応じませんでした】
まあ、これはほぼ計画通り。
ちゃんと俺にヘイトが集まったようで安心だ。
だが計画通りだが、1つ気になることがある。
「やはり【包丁戦士】さんも気になりましたか。
ボクもこのアナウンスを何度か聞いて今のアナウンスで、違和感を持ちました」
おっ、【検証班長】!
流石話がわかる男~!
他のやつらとはひと味もふた味も違うな。
「【包丁戦士】さんはそうやってやけにボクを持ち上げますよね?
そんなに誉めても何も出ないですよ」
それを分かってても、誉めたくなってしまうのが【検証班長】だ。
それで?【包丁次元】のブレインは何に違和感を持ったんだ?
「それは【【クランリーダー】権限によりクランメンバー召集!】についてです」
やはり同じところに違和感を持っていたか。
「その表情からすると、【包丁戦士】さんも同じことを考えていたようだね?
はじめに【包丁戦士】さんが【深淵顕現権限】を使ったときに【クランリーダー】権限によりクランメンバー召集!】をされたときは3体のクランメンバーの亀が出てきました。
次に深淵関係の【深淵域の管理者】が出てきたときは権限時間の制限がされました。
次にボマードちゃんが【深淵顕現権限】を使ったときはヘイトの集中だけでした。
最後に【包丁戦士】さんが【深淵顕現権限】を使ったときは【クランリーダー】権限によりクランメンバー召集!】がまたされた……ということはわかるよだろうね?」
わかるわかる。
そう言いながら俺は背中に生えた骨の翼みたいなものを羽ばたかせはじめる。
「これは深淵関係の存在が現れたときに、起きる副作用みたいなものなんだろうけど……
規則性がいまいち絞れてなかったんですよね」
そりゃ判断材料が少なかったから仕方ないだろう。
実際の結果が揃わない検証はあくまでも推測の域を出ないからな。
俺は羽ばたかせた翼で浮かび上がりながらそう答える。
「それが今回【包丁戦士】さんが【深淵顕現権限】を再び使ったことで規則性があるということだけが掴めました。
ペナルティの大きさから考えると、深度数値によって副作用が変化してそうですが、これは推測の域を出ないですから今後の参考にしましょう」
そうだな。
少なくとも聖獣と思われるレイドボスが【ウプシロン=ウーグウイ】を除いても2体残っているから、そいつらを攻略する前に検証を重ねていくと今回みたいな行き当たりばったりにはならないぞ。
俺は迫り来る棘ミサイルを飛翔して回避した。
上空から狙い打つように放たれた棘ミサイルだったが、ギリギリまで引き付けたから軌道を変に弄られずに済んだな。
俺は別に【検証班長】とただおしゃべりしてたわけじゃなくて、回避すべきタイミングを待っていたってわけだ。
……本当だぞ?
だが、俺が避けた後近くにいた【検証班長】へ棘ミサイルの軌道が移り変わった。
ヘイトは俺が受け持ってたはずなのに!?
偶然近くに別のやつがいたからなのか!?
【ウプシロン=ウーグウイ】による棘ミサイルの凶弾が【検証班長】の腹のど真ん中に風穴を開ける。
……と誰もが思ったが、寸前で黒い影が検証班長の前に立ち塞がった。
この小柄な体型は……
「ゆ、油断大敵なのら【検証班長】しゃん……」
【ペグ忍者】だ。
淫乱ペド忍者が自らの身体を盾に【検証班長】を守ったのだ。
「【ペグ忍者】!?
どうしてこんなことをしたんですか!?
種族転生をした貴重な戦力のあなたが何故……」
「戦力だけならそこの【包丁戦士】しゃんでもなんとかなるのら……
でも、今回もそうでしゅが、今後のレイドボスのことを考えると【検証班長】しゃんが最後まで現場を見届けた方が【包丁次元】全体のためになるのら~
うぅ……もう限界みたいなのら……
あとは二人に託したのら……」
そう言い残して光の粒子へと変換された【ペグ忍者】。
「「ペ、ペグ忍者ぁぁああ!?!?」」
俺と【検証班長】の叫び声がレイドバトルフィールド全体に響き渡ったのだった。
ペ、ペグ忍者ぁぁああ!?!?
見せ物としては三流ですが、悪くないですね。
【Bottom Down-Online Now loading……】




