123話 ヒーラーとデバッファー
「あぐっ、私としたことが迂闊だったヨ……」
「ああっ!?【短剣探険者】お姉ちゃん大丈夫!?
でも、ちょうどいいねっ!
せっかくだから私が隠しエリアの山間部エリアで、新しく手に入れたスキルの御披露目もしちゃうよっ!
スキル【休息万命急急如律令】っ!」
【短剣探険者】に【ウプシロン=ウーグウイ】の体当たりが掠め、ダメージを受けたとき、【ブーメラン冒険者】がポーチからお札のようなものを取り出しスキルを発動した。
そして、スキルを発動しお札が発光したのを確認すると、男の娘の【ブーメラン冒険者】は丁寧に、しかし素早くブーメランにお札を巻き付けそのままブーメランを投げた。
っておい!?
投擲されたブーメランは狙いが大きく外れたのか【ウプシロン=ウーグウイ】でも、棘ミサイルでもなく【短剣探険者】の方へ回転しながら迫っていっている。
このままじゃぶつかるぞ!?
「まあまあ、見ててよっ!」
【ブーメラン冒険者】が自信満々にそういうので、ブーメランが【短剣探険者】に当たるのをじーっと見届けていると、ブーメランが身体に触れた瞬間【短剣探険者】の身体が黄色の優しい光に包まれた。
そして、その黄色の光が弱まると怪我の治った【短剣探険者】の姿があった。
これはいったい……?
「やっぱり驚くよねっ?
【風船飛行士】が使ってたファンタジーガスっていうものと同じで、このお札をつけてスキルを発動すると当てた相手を回復させられるんだよっ!」
おおっ、まともなスキルじゃないか!
あのファンタジーガスとかいう怪しさプンプンする、危険ガスを吸引したりするよりも絵面とか圧倒的にいいじゃん!
「でも、そんなにいいことばかりじゃないんだよっ……」
……と、言うと?
俺がさらに追及するように、【ブーメラン冒険者】へ問い詰める。
【ブーメラン冒険者】は困ったような顔をしながら口を開いた。
……どうでもいいけど、困った顔の男の娘を問い詰めるシチュエーションってなんかゾクゾクしてきたわ。
俺をそんな沼に引きずり込もうとするなんて、恐ろしいやつだ……
「このお札は前もって作っておかないと戦闘中に使えないんだよっ!
しかも三時間に一回しか作れなくて、三枚までしかストックできないっていう使いにくさがあったりするんだっ!
あと、今は結構治ったけど本当は擦り傷くらいしか治せないんだよっ……
ability【天地逆転】のおかげで、回復力が大幅に上がってるだけで、本当はそんなに回復しないしねっ!」
ほほう。
使い捨ての魔道具(?)みたいなものか。
使い捨てとはいえ、遠距離で味方を回復させたりできるのは単純に強い気がする。
まてよ、別にチュートリアル武器にお札を貼り付けなくても、自分にお札を貼り付けたら回復できるのでは?
「その通りだよっ!
だけど、遠距離で味方を支援できるのはチュートリアル武器が遠距離攻撃できるブーメランだった私の強みだよねっ!」
そう言いながらも、投げては弾かれ、その度に手元へ戻ってきているブーメランを【ウプシロン=ウーグウイ】の撃ち出す棘ミサイルの軌道変えるために狙いすましている。
【ブーメラン冒険者】は華奢そうな手でブーメランを刀を握るようにしっかりと握りしめ、垂直面から30度程度外に傾けて構えた。
そしてブーメランを、刀を振り下ろす前のように手首を背中側に倒してから、前方へと地平線方向に投擲した。
投げる瞬間だが、ただ漫然と腕を振るだけではなく、手から離れる瞬間に手首のスナップを利かせてブーメランに前回転を与えたのを見逃さなかった。
……なるほど、あれがブーメランを狙い通りに飛ばすためのコツってわけか。
案の定、投げられたブーメランは棘ミサイルを弾き誰にも直撃しない進路へと変わった。
女の子っぽい華奢そうな手と腕だが、こいつは男だ。
男の娘でパワーがあるってのは両取りって感じがしてお得な気がするぞ!
【ブーメラン冒険者】と【短剣探険者】の双子コンビを集中して見ていたが、なんかボマードちゃん(ジェー)の方の雲行きが怪しい。
「アァ……身体の動きと意識のズレが出てきてるナァ!
こりゃまずいゾォ?」
ボマードちゃん(ジェー)は、これまで危なげなく回避タンクとしてレイドバトル全体のヘイト管理をしていたが、さっきから動きがとてつもなくおぼつかなくなってきている。
おいジェーさんよ、なんでそんなフラッフラな動きになってるんだ?
慣れないロリ巨乳の身体をつかってバテてきたか?
煽るようにボマードちゃん(ジェー)に声を張り上げて確認する。
「宿主様の意識が戻りかけてきたナァ~
イャー、せめてこれだけでも避けたいが……」
動きがチグハグになってきたボマードちゃん(ジェー)に再度棘ミサイルが襲いかかろうとしている。
それをなんとか回避しようとした瞬間、完全に身体が止まった。
あっ……。
「ええっ、なんでこんな状況になっているんですか!?
いや~、私も完全に死ぬ直前じゃないですか……
お腹に風穴空いちゃってますよ……」
それは諦めようぜ。
とりあえずボマードちゃんが死に戻りすることは当初の予定通りだ。
つまり、おまえは何をやればいいか分かってるな?
「あっ、はい。
いや~、やっぱり私という生命の最後を飾るのはこのスキルです!
【名称公開】!」
ボマードちゃんは自らを死に追いやった【ウプシロン=ウーグウイ】に対して【名称公開】を発動した。
ボマードちゃんから散りゆく光の粒子が、【ウプシロン=ウーグウイ】の身体を包み込むように纏わりついている。
そして、ボマードちゃんが完全に消滅したとき、脳内に無機質なアナウンスが鳴り響きはじめた。
【レイドボスの能力に一部制限がかかりました】
【制限時間00:10:00】
あっ、宝物庫に何やら美味しそうなものがありますね?
【Bottom Down-Online Now loading……】




