122話 純粋な一体と一人
「オィ、こっちだゼェ!
イャ~、鈍いったらありゃしないナァ!」
ボマードちゃん……に憑依して意識を乗っ取っているジェーがレイドボスの【ウプシロン=ウーグウイ】を言葉で煽っていっている。
ただでさえ深淵種族の気配を漂わせているボマードちゃんの身体でそんなことを言われたら、よりヘイトを集めること間違いなしだ。
実際、棘ミサイルがさらに飛んできているから成功だろう。
ボマードちゃん(ジェー)は華麗な身のこなしで、棘ミサイルを回避しながらヘイト管理をしている。
流石は意識だけとはいえレイドボス。
ボマードちゃんの身体はただでさえ底辺種族仕様+【名称公開】によるデバフがかかっている病弱ボディーなのに、レイドボスとしての戦闘経験と戦闘センスだけでそれを補う以上のことをしている。
基本的に動きとしては回避型タンクだが、お尻に生えているウナギ尻尾で棘ミサイルを弾いたりしている。
もちろん相手は正真正銘のレイドボス【ウプシロン=ウーグウイ】だ。
完全に弾き返すことはできていないが、真っ正面から尻尾で受け止めるのではなく、最低限の接触で攻撃を受け流して軌道を変えている感じだな。
っていうか、これ俺のメイン防御手段として使っている包丁での受け流しとまんま同じじゃないか!?
「イャー、その通りだゼェ俺様の半身!
俺様と戦っていた時、お前のよく使っていた動きを参考にさせてもらってるナァ!
なにせ、底辺種族の動きなんてどれが凄いのか知らないからナァ!
それなら俺様が認めたお前の動きを模倣するのは、当然だロォ?」
そう応えながらも、ヘイト集中による攻撃の苛烈さをものともせず、回避タンクとしての役割を全うしているのは流石だ。
棘ミサイルは全方向から狙ってきているが、ダンスゲームでもやっているかのように身体の軸がぶれていない。
……ぶれているのはデカイ胸くらいだ、くそっ。
たしかに、理にかなってるな。
最適解が分からないなら真似すればいいっていうのは手っ取り早いからな。
どんなゲームとかでも攻略サイトにあるテンプレートに従って動いたりするのは経験したことがあるはずだ。
でも、これはそんな簡単な話じゃないだろ。
今までと種族が違うわけだし、身体の動かし方もかなり違うはずだ。
1日ですぐできるっていう芸当じゃない。
「アァん?
モチロン、すぐできるようになったわけじゃないゾォ?
闘技場イベントで宿主様に慣らさせてもらったヨォ。
底辺種族の身体の使い方は難しいし、スペックの低さに驚いたが、別に使えないことは無かったナァ!
それに、尻尾だけなら元々俺様の一部みたいなものだからナァ!
これくらい軽~くやってやるサァ!」
流石だな。
「イャー、それでもこのデカイ脂肪は邪魔だけどナァ!」
ボマードちゃん(ジェー)は胸についた2つの大きな脂肪を両手で持ち上げながら俺に見せてくる。
その動作に後方の検証班男性陣の目は釘付けだ。
イヤミか!?と言いたくなったが、ジェーの場合は本当に邪魔だとおもっているんだろうな。
仕方ない……羨ましくなんかない……そう俺は自分に言い聞かせた。
というかボマードちゃんの顔で、その口調だと違和感バリバリだな。
ボマードちゃん(ジェー)が、回避タンクでヘイト管理をしている間、【ブーメラン冒険者】と【短剣探険者】が攻撃を仕掛けている。
「【短剣探険者】お姉ちゃん、狙い目は鱗の間だよっ!
後、鱗の向き的に下からの斬擊が有効みたいだよっ!」
「了解ダヨ!
前衛は私に任せてネ!
代わりに私を狙う棘ミサイルは任せたヨ?」
「任せてっ!
私のブーメランとability【天地逆転】があれば問題なしだよっ!」
双子の【ブーメラン冒険者】と【短剣探険者】はそれぞれ息ピッタリで、自分の武器だと対処しにくいものをもう片方が対応しているみたいだ。
というか双子なのに、【ブーメラン冒険者】は【短剣探険者】のことをお姉ちゃんと呼んでるのはなんでだろうか?
「あ~!!
それは私のせいダネ……
私のことをお姉ちゃんって呼ぶようにずっと言い続けてたから、そう呼んでくれるようになったんダヨ!」
ほう、なんでそんなことをしたんだ?
双子なんだから生まれた時間がそう変わるわけでもあるまい。
「……女としての意地……カナ?
だってさ見た目がほぼ同じで、女子力が男の【ブーメラン冒険者】に負けてるのって自分が女子なのか分からなくなるカラ……
せめてそれを忘れないようにお姉ちゃんって呼んでもらっているンダ……」
気持ちは……分からなくないが……本当にそれでいいのか【短剣探険者】お姉ちゃん。
そんな消極的な対策で満足できるのか?ん?
俺だって蛮族とか狂人とか好き放題言われてるが、口調とか行動以外の技術……料理とかは割りと女子力高めだからな?
そんな俺が今度、女子力高そうな料理とか教えてやるから、少しでも女子力高めていこうな……
「アリガトウ……アリガトウ……」
泣きながら短剣を振るい俺に感謝している。
そんなに女子力高めたかったのかよ……
「うんうんっ、なんだかよくわからないけど良かったねお姉ちゃんっ!」
無垢って怖い、そう思いました。
純粋なのはいいことです。
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