117話 深淵の黒枝
【Warning!】
【聖獣【ウプシロン=ウーグウイ】が深淵種族の気配を察知しました】
【聖獣であるが故に】
【深淵と敵対する】
【【深淵域の管理者】にヘイトが極大集中します】
「カッカッカッ、我を脅威と認識したか。
当然よな?
聖獣と深淵種族は最大の天敵同士だからの。
まっ、深淵種族の方が相性としては不利であるがな」
【Warning!】
【深淵を押し止めるため】
【冒険者を俯瞰する】
【深淵種族の【深淵域の管理者】の地上顕現時間が制限されます】
【深淵種族の【深淵域の管理者】の顕現中【ウプシロン=ウーグウイ】によるプレイヤーへのダメージが無くなります】
【【深淵域の管理者】送還まで00:05:00】
「やはりこうなるか。
いくら我たちに親和性のある次元になったと言っても、時間制限があるようでは敵わんのお。
だが、戦闘狂の白虎が倒されたお陰か前よりも長く戦えそうだ。
感謝するぞ底辺種族たちよ!」
邪神のような見た目のタコに唐突に感謝されたプレイヤーたちは、皆戦いの手を止めてルル様を見上げている。
「このレイドボスが深淵種族のエルルという存在ですか……
ボクから見ても、明らかに格が違うね?」
「なんだか【包丁戦士】しゃんに似た気配がするのら~」
「くっ、こんなときに【モップ清掃員】が居ないなんて……
いや、ボクが代わりに言っておこう!
ほう大したものですね!」
「【検証班長】しゃん?わざとらしいのら~!
それよりも、あの深淵種族に警戒している【釣竿剣士】ちゃんもかわいいのら~!!
近寄って舐め上げたいのら!!!」
「……アカウントがBANされるのはやめてくださいね?
それにしても、情報の塊のような存在を目にすると興奮が止まらないね」
「それには同意なのら~!」
……いや、【検証班長】をはじめとした一部の検証班メンバーは目を爛々と輝かせているみたいだな。
流石は検証班って呼ばれている集団のメンバーなだけある。
未知の情報、未知の存在にワクワクが隠せないんだろうなぁ。
そこまで露骨にじゃないが、俺も気持ちは分かるぞ!
……こうやって戦場を再度確認してみると、小亀との戦闘で10人くらい既に脱落してしまっているようだ。
俺のチームでいつの間にか死に戻りをしていたのは、鞭で動きを拘束してくれていた【モブ包丁1】【モブ包丁2】、モップに仕込んでいた針山でひたすら突き刺していた「大したものですね」が口癖の【モップ清掃員】だ。
ここで頭数が減ってしまっているのは、純粋に辛いなあ。
だけど、その数々の犠牲の末にレイドバトルにルル様を味方として顕現させることができた。
費用対効果は充分にあったと思うぞ!
お前たちの尊い犠牲は……1分くらい覚えておいてやるか。
そんな検証班たちや、他のメンバーの相手をしていた小亀たちが標的を見つけたかのように、顕現したルル様に向かって突撃を開始した。
小亀と言っても俺たち底辺種族よりも大きな体長の亀が一斉に同じ方向へ向かっていく様子は、中々威圧感がある。
「ほう、こやつらは暴飲暴食のクランメンバーというやつだな?
前に一度蹴散らした記憶があるが、性懲りもなく復活しおったか……
だが、もう一度我が深淵の力の一端にて、暴飲暴食共々葬り去ってやろう」
そういうと、ルル様は触手?脚?を八本全て掲げると、その先端に黒い粒子を集中させ始めている。
そして、脳内にいつもの無機質なアナウンス……ではなくルル様の声が響き始めた。
俺だけに聞こえているアナウンスもどきなのか周りを見渡すと、俺以外にもキョロキョロしている人がいたのでレイドバトルに参加しているプレイヤー全員に聞こえているんだろう。
これは詠唱?
ルル様の声と一緒に、文字と顔のカットインが視界の脇に流れ始めてきた。
【我が領域を侵すものよ】
脚の先にあった黒色の粒子が、【ウプシロン=ウーグウイ】と小亀たちに向かって伸びはじめる。
その伸びかたは、際限なく成長を続ける木々の枝のようだ。
【流転する境界の狭間にて、我が深き業を刻み込め】
黒色の粒子でできた枝が、枝分かれをし始め、棘のようなものを所々生やしながら伸長を続ける。
その棘は、何かやばいものを刻み込んでしまうようなおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
【汝、聖なるものなれば我が深淵に染まるがよい】
これでもか、というくらい伸びた黒色の粒子でできた枝は【ウプシロン=ウーグウイ】と三体の小亀たちに棘を差し込みながら、身動きが取れないように完全に拘束している。
黒色の枝に覆われた【ウプシロン=ウーグウイ】たちは、拘束されているだけにも関わらず、ルル様によってあたかも深淵に染め上げられたかのようにさえ見えてしまう。
【これは我が存在の証明】
先ほどまで黒色の枝ばかり変化していたが、ルル様の身体が黒い極光に覆われはじめた。
そして、その極光に反応して粒子でできた枝も鈍く光始めた。
誰もが息を殺して見つめることしかできない、もはや芸術的な光景はいつまでも続くかのように思えたが……
終わりを告げるかのように漆黒の翼を生やした異形のレイドボスが、一言唱えた。
【【堕枝深淵】】
ルル様が深淵の文字が入った必殺スキルを発動した。
黒い枝に捕らわれていた【ウプシロン=ウーグウイ】のクランメンバーの小亀たちが地面に引きずりこまれるかのように沈んでいき、沈んだ部分から少しずつ身体が光の粒子へと変わり、最終的に地面の栄養になる肥料のように霧散した。
だが、レイドボスである【ウプシロン=ウーグウイ】は地面に引きずりこまれるのに抵抗し、スキル完結まで踏ん張ることで耐えきってしまったらしい。
「流石は防御を極めた聖獣と言ったところか?
しかし、自慢の甲羅はもう使い物にならないのではないかの?」
ルル様の言葉を聞いて皆が【ウプシロン=ウーグウイ】の方を見ると、そこには、先ほどまでびくともしなかった堅牢な甲羅がひび割れた状態で見るからに満身創痍な棘亀の姿があった。
前々から思ってたけどさぁ……
……ルル様強すぎない!?!?!?
俺の叫び声にしては珍しく、その場にいた全員に大きく頷かれる形で同意を得ることができた。
それほど、圧倒的だったってことだなぁ……
くっ、悔しいですが……強さはやはり本物のようですね。
私だって全ての力を回収さえすれば……
【Bottom Down-Online Now loading……】




