116話 片翼と双翼
レイドボスである棘亀【ウプシロン=ウーグウイ】と愛の逃避行……いやデッドチェイス?を繰り広げながら飛翔を続けてる俺。
制限時間の一分間をどうやって凌いでいくかが、【ユニーククエスト 底無し沼の棘亀を誘導せよ】をクリアする鍵になるだろう。
俺以外のプレイヤーは【ウプシロン=ウーグウイ】がクランリーダー権限で召集した小亀たちの対処に追われていて、大元のレイドボスに意識を割けるプレイヤーは俺しかいない。
ならば、俺がこいつを深淵奈落まで導かないとな!
幸い、ゴールは見えているんだ。
ここさえ乗り切れば……
っって、あっぶな!?
急に首伸ばしてくるのは反則じゃない?
【ウプシロン=ウーグウイ】は、甲羅のなかに仕舞い込んでいた首を、矢でも飛んできたんじゃないかと思ってしまうくらいの勢いで俺に向かって伸ばしてきた。
こんにゃろ……、俺のこいつに対しての戦闘実績が無さすぎてどんな攻撃方法を隠しているのかさっぱりわからんぞ!
こいつの攻撃方法は分からないが、俺が攻撃をかわし続けるだけで、メリットは生まれてたりする。
一歩、また一歩と確実に俺の方へ迫ってきているおかげで、小亀たちと戦っているメンバーに衝撃波が伝わらず間接的にサポートする形になっているから、そっちに参加出来ないのは許してくれよな~
さて、30秒。
【深淵顕現権限】のタイムリミットもあと三十秒か。
どんどんとルル様のいる場所に近づいていっているからか、どことなく翼の調子が良くなってきている気がするぞ。
翼をはためかせ、くるくると横回転しながら【ウプシロン=ウーグウイ】の噛みつき攻撃を回避する。
おー、やっぱりさっきまでよりも余裕をもって回避できてるな。
むしろ調子が良すぎて回りすぎてしまった……目が回るなぁ、おい!
50秒。
【深淵奈落】はもう目と鼻の先!
これはもう勝ったな、がはは!
そう慢心していると、唐突に眼前にカットインが飛んできた。
【υ::≠^υ>∠υ^「†>υ!!!!】
この叫び声のような文字のカットインと同時に流れてきたのは棘亀の顔のカットイン演出だ。
ジェーも同じようなことやってきてたし、見慣れてはいるが、流石にこの場面でやられると背筋が凍るような恐怖感しか感じないぞ!?
ってことは……
俺は翼をはためかせるのは止めずに、恐る恐る棘亀の方を見る。
そこには甲羅に生えていた棘をミサイルのように射出させて、俺を狙ってきている【ウプシロン=ウーグウイ】がいた。
やばいぞ……っ!?
棘亀が放ってきた棘ミサイル攻撃は、棘の根本に脈のようなものが繋がっていてそれで棘ミサイルの進行方向を操作しているようだ。
いくら俺が高速で回避しても、その動きに対応してホーミングされるとどうしようもない。
そして、間の悪いことは連続して起こるようだ。
あああああ!!!
【深淵顕現権限】が切れちゃった……
俺の背中に生えていた片骨翼が霧散していくのと同時に俺は、その勢いのまま前方へ自然落下していっている。
勢いが残っていたおかげか、棘ミサイル攻撃を辛うじて回避することができたが、空中で身動きが取れない俺にホーミングしている棘ミサイル攻撃が当たるのは時間の問題だろう。
あっ、やっぱりすぐ軌道修正してきたみたいだな。
移動方向を俺に再度修正した棘ミサイルが、勢いよく向かってきて目の前まで迫ってきた。
万事休す!
俺の【無限湖沼ルルラシア】レイドボス攻略戦、完!
俺、オツカレ!
そんなことを思いながら、迫ってくる棘ミサイルを見ないように目を閉じて死に戻りを待った。
……が、その時は待てども待てども訪れない。
何事かと思い目を見開くと、俺の身体が急上昇して棘ミサイルを間一髪回避していたのだ。
この浮遊感、よーく覚えている。
何度も望んで経験したからな。
そう、【深淵奈落】の大穴の無限ループだ!
どうやら、俺はギリギリスレスレで間に合ったようだ。
【よくぞ、我の領域までこの憎き聖獣を連れてきてくれた!】
【その苦労に我も報いようぞ】
【【聖獣 ウプシロン=ウーグウイ】よ、我の奥義をその身で受けるがいい!】
【ワールドアナウンス】
【【ユニーククエスト 底無し沼の棘亀を誘導せよ】clear!】
【レイドバトルに【深淵域の管理者】が乱入します】
ワールドアナウンスと共に颯爽と現れたのは、見事な艶をした漆黒の双翼を生やした苔むした緑色のタコに酷似している異形のレイドボス。
そして、今回の作戦の要であり、俺の支援者にして一心同体。
そう、ルル様の参戦だぁ!!
この時をこの1日ずっと、待ってたぞ!!
【Raid Battle!】
【深淵域の管理者】
【エルル】
【???】【上位権限】【ボーダー】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【深淵へ誘い】
【冒険者を堕とす】
【深き真価を見極め】
【境界に流転する】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【ーーー深度不足のため未開示ーーー】
【レイドバトルを開始します】
これは胸が熱くなる展開だなぁ!
……俺の胸は厚くならないけどな……はぁ……
ボマードちゃんレベルとは言わないが、もうちょい伸び代が欲しかったぞ。
なんで深淵種族と共闘しようとしているんですかねこの底辺種族【包丁戦士】は……
しかも、気にしているのはバストのことという、緊張感の無さですよ。
【Bottom Down-Online Now loading……】




