113話 包丁戦士さんチーム、出撃!
レイドボス【ウプシロン=ウーグウイ】の足踏みで生まれる衝撃波から逃げつつ、移動先を誘導するという半分地獄のようなミニゲームと化してきたレイドバトル。
動きは遅いが、ようやく足場の悪い沼地から移動させることに成功した。
「ここまで来るのに五時間……犠牲者十人ですか……
戦場を整えるという点で見ると物凄く効率が悪かったですね。
ですが、ここからが本番です。
これまでに散っていった仲間たちに胸を張って会えるよう、全力でかかりましょう!」
【釣竿剣士】による叱咤激励により、長時間戦闘でヘトヘトになっていたタンク集団の青白い顔色に少し明るい色が戻った……ような気がする。
ゲーム、遊びとはいえ五時間ぶっ続けでひたすらヒットアンドアウェイをやるのは、そうとう心身共に負担がかかっただろうからなぁ……
えっ、俺?
ずっと遠巻きで見てたぞ!
今までの足場で俺を疲弊させるより、ある程度戦場が整ってから戦力投入したほうが最高効率に近づく……という【検証班長】からの意見があったからな。
軽戦士系統のチュートリアル武器をメインにしているプレイヤーたちはたまに前線のプレイヤーと交代しながら、あくまでサポートに徹してきた。
ひとえに【検証班長】の意見を信じたプレイヤーたちの連携によるものだ。
もちろん、タンクプレイヤーたちから一部不満は上がっていた。
そりゃ、序盤から負担の比率が明らかに偏っているから同然だろう。
だけど、その意見を封殺できるほど【検証班長】の一声は大きい。
この【包丁次元】のブレインと呼ばれるほど、頭がキレるというのももちろんあるが、それ以上にカリスマ力がずば抜けているからだ。
そんなカリスマパワーのある【検証班長】の意見を意味なく無視すると、ろくなことにならないかもしれない……と思わせるほど人に慕われているからな。
実際に発言の整合性が取れていないときでも、ごり押せてしまうくらい皆信用しているってことだ。
だからこそ、俺が半分サボっているような感じになっていても特に問題は起きていない。
しかも、同じような状態なのはなにも俺だけじゃないからな。
だが、さっき【釣竿剣士】が言ったようにここからが本番だ。
これから、俺のチームに配属されたメンバーと【ウプシロン=ウーグウイ】に対して突撃をかけるぞ!
「「了解です!」」
「ここから頑張らナイトネ!」
「わかったよっ!」
「ほうようやくここまで来ましたか、大したものですね」
「ここからがワシらのみせどころだな!!!!」
「いや~、ここまで楽しちゃってたの申し訳ないですから、ここから頑張りますよ」
発言した順番で俺のチームメンバーを紹介していこう。
俺から見てどこに誰がいるかだが……
左に前回のレイドバトルでも俺の手下だった検証班の【モブ包丁1】【モブ包丁2】。
右に闘技場イベントで対戦した快活そうな女の子の【短剣探険者】と、闘技場イベント代表戦に出場していた文字通り実力は折り紙つきの男の娘【ブーメラン冒険者】。
そして、後方には検証班の【モップ清掃員】と俺の一心同体、相棒といえばこいつ……【槌鍛治士】……とおまけにボマードちゃんがついてきている。
こいつらと俺を含めた8人が今回の【包丁戦士】チームだな。
一応精鋭部隊として2つ名持ちプレイヤーをある程度固めたらしい。
自律行動をする別動隊という役割を求めている……って【検証班長】が言ってた。
【ペグ忍者】は【検証班長】の護衛ということで今回は俺のチームにはいない。
よしっ、とりあえず【モブ包丁】二人は協力して鞭で進路を固定するのに協力してやれ!
【ブーメラン冒険者】と【短剣探険者】は投擲による遠距離攻撃だ、ボマードちゃんはこいつらと後方待機!
俺と【モップ清掃員】、そして【槌鍛治士】は【ウプシロン=ウーグウイ】に接近、直接殴るぞ!
簡易的な指示を飛ばした俺は、むさ苦しいおっさん二人と棘亀の足元へ肉薄し、それぞれのチュートリアル武器で切りつけ、殴り、突きを繰り出した。
俺の初手は得意の袈裟斬り……ではなく下から切り上げる逆風だ。
【ウプシロン=ウーグウイ】の巨体には切り方もあんまり関係なさそうだが、足元の鱗のようなものを見ると、下からの切り上げに弱そうな向きで鱗が生えているから今回はこれがメインになりそうだ。
この鱗の向きも事前の検証班で観察した結果、発見されたものだから事前準備は本当に大切なんだなと思った。
俺の放った逆風は鱗の間に沿うように刺さり、腕を振り切ることができた。
……おおっ、特殊防御権限が外れる前だったら、これでも固すぎて弾かれてたのに!?
こりゃ相当ダメージが入りやすくなって、戦いやすくなった気がするぞ!
「ほうっ!!」
「食らうがよい!!!!」
俺の横では【モップ清掃員】がモップの先に仕込んでいた針山を深々と突き刺している。
さらに横では【槌鍛治士】が槌を思いっきり何度も叩きつけている。
だが、攻撃のチャンスはずっとあるわけじゃない。
それを俺たちのチームは五時間近く見てきたからよく分かっている。
「そろそろ来るよっ!」
「危ナイヨ!」
「いや~、そろそろですね」
【ウプシロン=ウーグウイ】が餌として撒かれた魚を食べるため歩みを進めようとし、足を上げた瞬間が撤退のタイミングだ。
それを察知しやすくするために【モブ包丁】たちに鞭で調整してもらったり、一旦後方で投擲に徹してもらっている【ブーメラン冒険者】と【短剣探険者】……とおまけのボマードちゃんにタイミングを知らせてもらっている。
そのタイミングで俺たちのチームは全員一気に【検証班長】のいる最後方まで退避した。
その数秒後、地面に降ろされた【ウプシロン=ウーグウイ】の足から衝撃波が広がっていき、俺たちまで届くかどうかというところで消え去った。
衝撃波の範囲も、五時間による【検証班長】をはじめとする検証班メンバーによる分析によって、ほぼほぼ絞りこむことができた。
それでも……それでも……
あいつが歩く度に俺たちが振り回されないといけないのは、気苦労が過ぎるぞぉぉぉぉぉ!!
流石はプレイヤーに人権のないゲーム、プレイヤーはレイドボスが歩くのさえ神経を尖らせて見守らないといけないとは……
そういうものです、諦めてください。
底辺種族は貧弱ですから……
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