112話 餌やり
【釣竿剣士】が釣り上げることによって出現したレイドボスによって巻き起こされたストンプ攻撃によって始まった攻略戦。
被害こそ無かったが驚異的な威力を目の当たりにしたプレイヤーたちは萎縮してしまっている。
「とりあえず、当初の予定通りのチーム分けで移動しましょう。
前回の新緑都市アネイブルレイドボス攻略戦と違って、初見の行動で誰も沈まなかったのは運が良かったね。
あの時は初っぱなから計画が狂ったので……」
あれはチーム分けが始まる前にジェーが突撃してきたのが悪い。
決してチャンスっ!?と思ってその辺にいたプレイヤーを肉壁にした俺のせいじゃない。
俺のせいじゃない……っ!!
後方で俺のチームと【検証班長】のチームが待機しているなか、【ウプシロン=ウーグウイ】の前線へと移動したのは【釣竿剣士】のチームだ。
【釣竿剣士】のチーム編成は、常に最前線にいることを想定して盾系統のチュートリアル武器を持ったプレイヤーが多く配属されている。
王道的な西洋風の盾を持ったプレイヤーはもちろんのことながら、変わったところではタライや桶などを装備したプレイヤーがいて、こういうプレイヤーたちを見ると集団で集まった感があるなと思う。
色物装備って個性が出ていいよな。
その盾系統のチュートリアル武器を持ったプレイヤーたちは、前線で何をやっているのかと……
「鯖をまけぇぇぇ」
「こっちの魚は旨いぞ~」
「こっちの魚の方が甘いぞ!!」
「備蓄はいっぱいあります、存分に使ってください!
生産プレイヤーなら使うときに使うものを使いましょう!」
【ウプシロン=ウーグウイ】の前でひたすら魚を撒き散らしながらチクチクと攻撃を加えている。
レイドボスの前で魚を撒き散らすっていうと意味不明だが、これには意味がある。
俺と【釣竿剣士】で事前に用意した魚の切れ端を一定の方向に撒き続けることによって、【ウプシロン=ウーグウイ】の移動する方向を誘導しているのだ。
こうすることによって、レイドボスを足場の悪い沼地から少しでも動きやすい沼地へと移動させ、プレイヤーたちが戦いやすい戦場へと移行させようとしている。
流石にここは足場が悪すぎる。
具体的にどのくらい足場が悪いのかというと、走ると簡単に転んでしまうくらいだ。
あっ、はしゃいでたタライのモブがさっそく転けてるぞ笑
俺は基本的に他人の不幸が美味しいので、こういったことでも愉悦を感じることができる。
……まあ、こんなことじゃ満足感はかなり薄いけどな……
どちらにしても、こんな足場だと俺のような近距離武器で攻撃を避けながら戦うプレイヤーだとまともに戦うのは困難なので、魚で【ウプシロン=ウーグウイ】の移動を促しているわけだ。
案の定、事前の調査やルル様から得た暴飲暴食という異名(?)から食欲旺盛ということが分かっているので、餌の魚に釣られて魚の撒き散らされた方向へと移動を開始した。
よしっ、流石生産プレイヤーとして活躍している【釣竿剣士】と俺の見事な作戦だぁ……
動きこそ遅いが、俺たちの考案した作戦が見事にハマッているのを確認すると思わずガッツポーズをしてしまった。
「いや~、ここのレイドボスって食い意地はってるんですね~
私もいくら食べても太らないVRMMOならどんどん食べちゃうので、気持ちはスッゴくわかりますよ!」
旺盛なのは知識欲くらいにしておけ。
レイドボスである【ウプシロン=ウーグウイ】の食欲旺盛さに共感しているのは、タンクトップロリ巨乳のボマードちゃんだ。
お世辞にも背が高いとは言えないその低い姿勢から見上げるようにしたなめずりをしながら、俺の顔を覗き込む姿は蠱惑的な様相で見つめていると引き込まれてしまいそうだ。
こいつ……ロリっぽい見た目のキャラクタークリエイトをしているだけあって自分が魅力的に見えるポイントを分かっててやってるんじゃないかと思ってしまうときがある。
ぱっと見た感じ、天然っぽいけど実情はどうなんだろうなぁ……?
腐ってもアイドルとして人気上昇中のプレイヤーなだけあるぞ。
……こんなことを話していると油断していると思われるかもしれない。
だが、ここで油断するのは二流!
俺たちは油断していないからここで誰かやられるなんてことはない。
「あっ!!!」
「移動の衝撃波で竹槍の【モブ】がやられたぞっ!?」
「こいつ、移動する度にあのストンプ攻撃になるとは……チートか?」
「うわぁ……これはメンドーだねっ……」
……やられることはないそう思っていたが、そんなことはなかったぜ!
さっそく【ウプシロン=ウーグウイ】足踏みによって生まれるストンプ攻撃に巻き込まれたのは検証班の竹槍使いだ。
検証のために何度か【ウプシロン=ウーグウイ】へと一緒に挑んだメンバーのうちの一人だったが、まさかこんなに早くやられてしまうとは……
情けないぞ!
「おいっ、また一歩動くぞ!」
「……っ、総員、退避してください!?」
「ひぇ~、助けてくれぇ~」
「あっ、針金使いの【モブ】も死んだぞ!?」
一気に阿鼻叫喚な現場になってしまったな。
作戦自体は順調だが、こんなんで本当にクリアできるのかこれ?
精々頑張ってください。
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