111話 開戦!底無し沼の棘亀
俺や【検証班長】たちが作戦会議を進めていくなか、【釣竿剣士】が沼地に釣糸を垂らし、釣りをし始めた。
だが、これは遊んでいるわけではない。
【無限湖沼ルルラシア】のレイドボス【ウプシロン=ウーグウイ】は、常に沼地に潜っているためそのまま討伐するの至難の技だ。
だがしかし、こちらには【釣竿剣士】がいる。
釣り上げることによって攻撃を簡単に当てることが出来るようになるのだ。
……釣り上げるまで俺たちはやることがないので、とりあえず作戦会議の延長などで間を稼いでいる。
そうやって時間を潰していると、何匹か沼魚を釣り上げたあとに、【釣竿剣士】が声を張り上げはじめた。
「あっ、引いてる引いてる!
大きいの来ました!
これはレイドボス級の引きです!!」
どうやら釣竿が引っ張られはじめたようだ。
その釣竿150度くらい曲がってない??
めっちゃ釣竿がしなっている。
耐久力無限のチュートリアル装備じゃなかったら100%壊れているであろうその曲がり方を見ると不安しかない。
「いえ、ここからが私の見せどころです。
刮目してください、釣竿一刀流【怪力】!」
少女は足を少し上げ、大きく踏み込んだ。
そしてその勢いで一気に釣竿を振り上げ切った。
【レイドボスをつりあげた!▼】
【レイドボスのヘイトが釣り上げたプレイヤーに集中します】
釣り上げたのは10メートルもあろうかという鈍重そうな亀だ。
ただ、普通の亀と違うのはサイズだけではなく、甲羅にところ余すことなく生えている鋭利な棘という点だ。
釣り上げられ姿を現した棘亀が、出現と同時に足を持ち上げている。
普段全く動かない棘亀が動いたことに警戒している【釣竿剣士】が、レイド攻略メンバーへ通達する。
「このパターンは今までに無かったパターンですが、おそらく攻撃です。
総員退避してください!」
その言葉を聞いたプレイヤーたちが各々散りながら、【ウプシロン=ウーグウイ】から距離を取る。
その鈍重そうな見た目通りゆっくりとした動作だったので全員が距離を取り終わった頃に、その足がようやく地面へと振り下ろされた。
その方向はヘイトが集中している【釣竿剣士】へと向いていたが、【ウプシロン=ウーグウイ】も様子見ってことなのか、あくまで牽制レベルでの照準だった……が……!?
「!?」
「おいおいおい、これは迫力ありすぎでしょ!」
「いや~、こんなの当たりたくないですね……」
「気合いで回避するのみだ!!!」
「ほうストンプ攻撃ですか、大したものですね」
「地震みたいになってるよねっ!?
私倒れるかと思ったよ……」
プレイヤーたちがその振り下ろされた足による反応をしているが、これらは別に大袈裟な反応ではなかった。
【ウプシロン=ウーグウイ】が振り下ろした足が地面に到達すると、そこから衝撃波のようなものがエリア全体に伝わり、立つことが困難なほど地面が揺れたのだ。
この荒々しく地面を叩きつけ衝撃を与える攻撃はストンプと呼ばれるものだろう。
狩猟系のVRMMOゲームで、登場と共に咆哮などでプレイヤーを一定時間行動不能にするモンスターが現れるゲームをプレイしたことがあるが、この行動もそれに類するもの……なのかなぁ……
この俺の呟きに対して【釣竿剣士】が反応する。
「なるほどです。
私たちが今まで戦っていたと思っていたのは、実は戦闘すら始まって無かったということになりますね……
今までヘイトが集中しているはずなのに、一切私の方を見てなかったのはおかしいと思っていたんですよ」
さらに【検証班長】が続く。
「ボクが思うに、【釣竿剣士】さんと【包丁戦士】さんがユニーククエストで特殊防御権限をいくつか外した影響でしょうね。
ここまでやってようやく最低限、ボクたちが脅威として認識するレベルになったということなのだろうね?
攻撃してこない前のほうが楽だったかもしれないけど、それだと今度は攻撃が全く通らなかったという点が大きな問題でしたからこれは仕方ないです。
だけど、足踏みだけでこの威力……動きが遅いにしても流石はレイドボスってことだろうね」
「いや~、これただの足踏みってレベルじゃないですよね!?」
【検証班長】による動きの変化の考察が繰り広げられたが、やっぱりそうなのか……
レイドバトルが始まっているアナウンスが散々今まで流れていたけど、あれは仮のやつだったってことか……
渓谷エリアの【這竜渓谷の大盟主】もアナウンスがかなり詳細になってたし、やはり新緑都市アネイブルのレイドボスのジェーは最終決戦の途中まで……具体的には自ら【名称公開】するまで……完全に遊びモードだった可能性はあるな。
ルル様が新緑都市アネイブルのレイドボスのことを戦闘狂っていってたし、遊びであそこまでの戦闘をしていた可能性は高い。
「その仮説は面白いですね。
そうなると、他の聖獣レイドボスも同じように様子見モードと、情報を暴かれた後の2パターンある可能性はあるだろうね。
つまり、岩山エリアの鳥のレイドボスも今は様子見モードということですか……」
【検証班長】と俺がレイドボスの戦闘パターンについて語っていると、背後からヌッと現れたのは【釣竿剣士】に諌められた。
「考察もいいですが、今は目の前の【ウプシロン=ウーグウイ】に集中してください。
目の前のことを疎かにするのは生産プレイヤーとして失格ですよ?」
「「はい……」」
普通に落ち込んだ二人だった。
ようやく開戦といったところでしょうか。
じっくり見させてもらいますよ。
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