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109話 決戦前夜

 さて、明日が【無限湖沼ルルラシア】レイドボス攻略戦ということになったわけだ。

 

 となれば、俺が確認したいことは1つだ。



 


 俺が来たのは、火花が飛び散る鉄臭い小屋だ。 

 その中を我が物顔でテクテクと進んでいき、ある程度中まで来たところで声を張り上げる。 

 おーい、生きてるか~?


 そんな俺の叫び声が鉄臭い小屋の中で山びこのように響き渡ると、奥から人影が迫ってきた。

 その大きな人影は、一見すると威圧感があるのだが、俺には馴染みのある姿だ。

 

 「もちろん生きているぞ!

 お前も元気そうで何よりだ!!」


 そう、ガチムチなおっさん【槌鍛治士】だ。

 俺がability【会者定離】を手に入れるはめになった原因は、間違いなくこのガチムチなおっさんだろう。

 そして、俺と一心同体扱いになっているというよく分からないメンバーの内の一人である。

 他に一心同体なのは、【寄聖獣 ジェーライト=ミューン】、【菜刀天子】、【エルル】さまだ。

 この【槌鍛治士】だけメンバー的に浮いてるけど、それでも俺の相棒をこの中から選ぶなら間違いなく【槌鍛治士】だな。


 このプレイヤーに人権のないゲームでモチベーションを保ち続けることが出来たのは、【槌鍛治士】が根気強くサポートしてくれたからだろう。

 レイドボス【寄聖獣 ジェーライト=ミューン】に挑み続けている時に、さりげないアドバイスをくれていたのは忘れもしない。


 「なんだかワシを急に持ち上げられると照れるぞ!!

 それに、そんなに大したことはしていないからな!

 ただ武器や装備を作っていただけだ!」


 そう謙遜するなよ?

 お前がはじめに作ってくれたこの髪飾り、結構気に入ってるんだぞ。

 俺の言動からすると似合ってない……って他のプレイヤーとかには言われるけど、それでもこのゲームではじめてもらった装備だからな。

 特に思い入れがあるし、よほどの時じゃない限りずっとつけている。


 そんな俺の発言を聞いて少し驚いた表情を見せた【槌鍛治士】が口を開く。


 「それは意外だったな!!

 そのリボンタイプの髪飾りをいつもつけてくれているのは、生産職冥利に尽きるが、お前の性格からしてワシへの嫌がらせでつけ続けていると思っていたぞ!!」


 俺への偏見が酷すぎる!?

 いや、たしかに周りからの評判が良くないことを薄々気づいている俺だが、流石に手作りでもらったものを嫌がらせでつけることなんてな……い……?


 ……いや、あるかもしれないが、少なくともこれは思い出の品として案外気に入っている。

 戦闘中に動く度にリボンがヒラヒラと動くのが実はクセになってたりするくらいには。


 「……やっぱり可能性はあったのだな!

 流石は【包丁戦士】!!

 お前の悪評を見た目でなんとか誤魔化せないかと思って作ったんだが、それはできなかったみたいだが、気に入ってもらえたようで何よりだ!!

 見た目だけは可憐な乙女なのに、言動が完全に蛮族のそれだから心配しておったが、突き抜けるくらい評判が広がってしまった今となっては、もはや問題ではないな!」


 言いたい放題だな、おい。

 まあ、【槌鍛治士】は知れた仲だしそれくらいは軽く流してやるさ。


 というか、そんなことを話に来たんじゃない。

 一応、用事があって来たんだ。


 「……だろうな!!

 なんとなくどんな用事か予想はつくが、一応聞いておいてやろう!」


 察しが良すぎる相棒も考えものだな。

 だが、礼儀としてあえて訊く。


 明日の【無限湖沼ルルラシア】のレイドボス【ウプシロン=ウーグウイ】攻略戦、お前も参加するか?


 この俺の言葉を聞いた【槌鍛治士】は、やはりかという表情をして肩を竦める。

 そして、こう切り出した。


 「当然参加するぞ!!

 【釣竿剣士】は生産プレイヤーと戦闘プレイヤー両方の面で絡みのあるプレイヤーだからな!!

 ここで1つ恩を売っておくのも悪くないと思ってな!!!

 だが、それ以上に参加する理由はある!!」


 そのこころは?


 「【包丁戦士】、お前がいるからだ!!

 システムにまで一心同体と言われたワシたちの、底力をまたレイドボスに見せつけてやろうではないか!!」


 くぅ~、カッコいいこと言ってくれるね~!!

 やっぱり最高だぜ【槌鍛治士】はよぉ!

 それでこそ俺と一心同体なだけあるな!


 【槌鍛治士】の言葉に感動して興奮した俺は、腰に提げていた包丁を取り出し、胸元に構えるとそのまま目の前にいる【槌鍛治士】に向かって振りかぶった。


 ここで放たれるのは俺が最も得意としている斬撃の袈裟斬りだ。

 代表戦のような魑魅魍魎が集まる場所にいるプレイヤーたちならともかく、俺の目の前にいるガチムチのおっさんは生粋の生産プレイヤーだ。

 包丁の軌道から逃れることが出来ず、左肩から右腰にかけて見事に切り裂くことに成功した。


 そして傷口から流れ出る光の粒子を恍惚な表情で眺める。

 あぁ……やっぱりこいつから流れ出る赤色の粒子は他と違って、熱く清涼な力があって見るだけで感動ものだなぁ……

 だから止められないんだよ、プレイヤーキル……








 なんで突然戦闘シーンになって、感動的な雰囲気になってるのでしょうか……?

 実際はただの外道行為なのでは……


 【Bottom Down-Online Now loading……】


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― 新着の感想 ―
[良い点] 槌鍛冶士がとてつもなく良い人 このゲームで一番良識ありそう [一言] 槌鍛冶士何度も殺されてきたろうに 包丁戦士を未だに信頼している優しさが目に染みるぜ
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