107話 解禁!宝物庫
さて、【天子の心得書】を使って【菜刀天子】の気を引いて休憩をとることができたし、王宮探索の続きと行こうか!
トイレは……開かないな。
トイレくらい初期開放しておいてくれよ。
まあ、たしかにゲーム中にトイレに行く必要は全くないけどさ……
だからこそ、初めから開放しておいてくれてもいいんじゃないかとは思った。
「次が最後の部屋のようですね。
また最後まで見つけられないとは、底辺種族【包丁戦士】も中々運がないですね。
精々、私のラックを見習ってください」
余計なお世話だ。
上から目線で俺に突っかかってくるが、運だけはどうしようもないだろ。
運が上がるスキルとか種族とかabilityがあるならともかく。
「……一応、あるにはありますが」
あるのか。
だが、このプレイヤーに人権のないゲームのことだ、運が上がるといってもどうせ、ろくでもないデメリットがついているに違いない。
そこまでして運を上げたいかと言われると、そこまででもないしな。
「その通りです。
よほど突き詰めない限り、多少運を上げたとしても補助レベルでしかないですからね……
最終的にものを言うのは攻撃力です!」
いや、防御力とか俊敏性とか他にもあるだろ……
この【菜刀天子】、攻撃するところしか見たこと無かったが、もしかして脳筋タイプの天子なのかもしれない。
そんなんだから【蛇腹剣次元】の天子にぼろ雑巾にされるんだ。
まあ、この辺触れると俺の死に戻りが目に見えているから今はスルーしておこう。
さて、最後に残ったのは宝物庫だ。
俺は手に持った鍵を鍵穴に挿し込むと、それをぐるりと回す。
おっ、回るじゃん!
鍵が最後まで回りきるとカチッという音と共に扉が開き始める。
長年開ける機会が無かったからか、軋むような音を立てながら開いていく扉。
それを見つめる俺だったが、宝物庫の中を見て唖然とした。
えっ、なにこれは……
「宝物庫です」
いや、宝物庫って言ってもさ……
ないじゃん!
何もないじゃん!
ガッカリだよ、この王宮には。
そう、扉の向こうにはガランとした空間が広がっているだけだった。
壁の黄金装飾や、天井のきらびやかな照明、大理石の床など部屋自体がとても豪華で文句なしという空間だけで見ると良い場所だが、肝心な宝物が何一つ無かった。
これはいったいどういうことなんだ、【菜刀天子】さんよぉ!
「この宝物庫は、プレイヤーが自由にものを送ることができるスペースですね。
遠くからでも物をここに送ることができるので便利ですよ。
ウィンドウを出してみると項目が追加されているはずですよ?」
【ワールドアナウンス】
【【包丁戦士】により宝物庫が開放されました】
【【次元天子】のスキル威力が上がりました】
【【包丁次元】のプレイヤー全員のメニュー画面に宝物庫機能が追加されました】
どれどれ……?
おっ、本当だ。
宝物庫という項目をタッチすると、今俺が持っている物の名前が羅列されていく。
ポケットの中身も含めた、装備しているものだけだがな。
実際にやってみるか……
とりあえず、この拡散スイカの種瓶を選択!
すると、広々とした宝物庫の端にポツンと瓶が現れた。
おおっ!!
これはめっちゃ便利じゃないか!?
つまりインベントリってことだろ?
なら、この宝物庫ってウィンドウ画面からアイテムを呼び出せたりするわけ?
「いえ、インベントリではないです、送るだけですね……
あくまで、この機能は王宮へ、天子への貢ぎ物を奉納するための機能なので。
それを簡単に放出されたら困ります」
あーはいはい、そういうことね。
完全に理解したわ。
これ、多分だけど送ったアイテム放置しておくとこの【菜刀天子】に勝手に使われるやつだ。
「その通りです。
私のために送られてくるものを私が使うのは当然でしょう。
何か問題でも?」
まあ、そういうことなら仕組み的に問題ないだろうな……
だけど、なんか釈然としない。
これって、全く知らないプレイヤーのやつもここに送られてくるってわけだろ……凄まじいことになるぞ……
あっ、ここに送られてきたものって俺とかが持ち出してもいいのか?
俺出入りできるし、流石に使ってよくない?
「……それならいいでしょう。
ここをあなたが使うのなら倉庫のような役割になるでしょうね」
やったぜ。
ここに来てようやくアイテム収納問題を解決できたな。
今まで作ったアイテムの置き場とか無かったから、持ち歩ける分しか作れなかったし、持ち運ぶとしてもポケットに入れるだけだったからな。
危険料理をポケットに入れて歩くのは正直怖かったし、本当に助かる。
とりあえず、置き場ができただけでも万々歳だろ!
だけど、料理とか置いておいたら流石に【菜刀天子】が食べそうだし、置いておく種類には気をつけないとな。
とりあえずポケットに入れてある魚肉ハンバーグのケムリダケ詰め、拡散スイカの種瓶、紫毒茄子の麻婆茄子、それと優勝祝いに野菜屋のおっちゃんからもらった酩酊状態になるレアものの葡萄を置いていく。
そのまま地面に置いても良かったかもしれないが、せっかくなのでウィンドウの宝物庫機能で送っておいた。
こうすると、一応綺麗に並んでくれるから整理の手間が少しだけ省けるぞ。
そうしてポケットの中を整理していると、微妙そうな表情をした【菜刀天子】に声をかけられた。
「このままこの宝物庫をイロモノ料理部屋にでもする気ですか?
まったく、これだから底辺種族【包丁戦士】は……
もう少し有意義なものを送ってください、本当に送ってほしいのは貢ぎ物ですよ」
なんかめっちゃガッカリされてるが、無視無視!
これからどんどん危険物送ってやるから覚悟しておけよ!
いや、止めてください。
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