1000話 包丁が灰塵と化した日
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「はい、今日も元気にログイン!
さ~て、今日は【鍛冶士】が作るって言っていた装備が出来上がっているだろうから向かうとするか!
……なんか【鍛冶士】のところばっかり通ってる気がするが交遊関係が広いわけじゃないから仕方ないか……?
流石に将来的にはもう少しくらい広げたいけどなぁ……」
そんな元気なのか哀愁が漂っているのか曖昧なテンションのままログインしてきた霧咲朱芽。
交遊関係が狭いのはプレイヤーキラーであることが一番の要因であるのだが、本人はそれを分かった上で改めるつもりはないようである。
それが霧咲朱芽の楽しみ方だと言うのであれば諦める他ない。
「……っとか思ってたら今日は兎鰻レイドボスが近くにいるのか!
運がいいのか悪いのか判断に悩むところだが、今日も挑ませてもらうぞ!
今日こそ一矢報いてやるからなっ!」
【ЖЖЖЖЖЖЖЖμЖЖμ!】
霧咲朱芽の叫び声に反応してか兎鰻レイドボスも雄叫びを上げてお互いに敵意を向けあっていく。
そして霧咲朱芽が包丁を手に飛びかかっていき……
【#ЖЖ####【Ж】!!!】
兎鰻レイドボスの尻尾から放たれた極太レーザーによって灰塵と化していくのであった……
「案の定瞬殺だったがいつか勝てる日が来るんだろうか……
もしあの兎鰻レイドボスが倒されることがあるならその時は何としてでも俺がトドメを刺したいな!
……あと、死に戻り場所を意図的にずらせるようになってきたからこのまま続ければ好きな場所に行けそうだぞ」
レーザーによって塵となったのにも関わらずそれを深刻に捉えることなく草原エリアを闊歩し、恒例となった【鍛冶士】の鍛冶場に赴いた。
「よう【鍛冶士】元気か?
元気いっぱいの俺が来てやったぞ!」
「ガハハ!!!
いつも言っているようにワシはいつなんどきであっても元気だぞ!!!
それがワシの取り柄でもあるからな!!!
隠者であっても元気だけは隠したくないからな!!!」
(隠者……?
こいつに一番ふさわしくない言葉だろ……)
そんな何時も通りの他愛ない挨拶をしながらお互いに腰を落ち着かせて向かい合い、鍛冶場に設置してあった椅子に座った。
新たな装備への期待に薄い胸を膨らませている霧咲朱芽と、装備を早く披露したい【鍛冶士】の二人は浮き足たっていたためどちらもソワソワしている。
「まずはお前に頼まれていた装備を渡すとしよう!!!
あそこに着替え場所があるから着替えてくるといいぞ!!!
そこに依頼分だけはもう置いてあるからな!!!」
「おっ、配慮が行き届いてるな?
タスカルタスカル……」
霧咲朱芽は【鍛冶士】が指差した方へと向かっていきそこに入っていく。
簡単な青い布に囲まれた試着室があったため戸惑うことなくその中へ入っていき用意されていた服に着替えていく。
そして着替えが終わり青いカーテンを開けて【鍛冶士】へとその姿を披露した。
チュートリアル防具であるタンクトップの上に、羽織るように茶色のマントが肩から腰上までかかっていた。
まるで冒険譚に出てくる戦士や冒険者が使用しているような実用性のある堅実かつ格好良さを感じさせるものである。
そして、パンツは膝上までの長さのデニムパンツスタイルであり、裾には霧咲朱芽が狩り採ってきた狼の毛皮が取り付けられているため……モフモフなのだ。
「じゃーん!
どうよ俺の晴れ姿は!
さすらいの戦士って感じだろ?」
「おー!!!
似合っているではないか!!!
ワシの装備の作りがいいのもあるが、着る側のお前という素材がいいのもあるな!!!」
「そ、そうかっ……
流石にその褒め方をされると俺でも照れるな……」
普段手放しに誉められることの少ない霧咲朱芽にとって【鍛冶士】の真っ直ぐな賞賛は身が悶えるほど照れ臭いものだったらしく、身体をクネらせ右手で頭部を掻きながら顔を赤くしていた。
「ガハハ!!!
いい反応だな!!!
……そしてそんなお前にワシがさらに作ったのがこれだ!!!
頭につけてみろ!!!」
顔を赤くしている霧咲朱芽をさらに追撃するように【鍛冶士】はポケットに仕舞い込んでいたものを取り出し差し出してきた。
「これは……赤いリボンだな。
だが、俺に似合うか?
もっと格好いい感じのやつの方が俺のイメージには合いそうだが……」
「まあまあ文句は言わずつけてみろ!!!」
そうして霧咲朱芽は受け取ったものを頭につけてからクルリと一回回って【鍛冶士】へと見せつけるようにアピールしていく。
リボンを靡かせながら回る霧咲朱芽の姿はなにも知らない者が見れば可憐な乙女が無邪気にはしゃいでいるように見えたであろう。
「ど、どうだ……?
これが似合ってるかはあまり自信がないんだが……」
珍しく挙動不審になりながら【鍛冶士】へと尋ねていく。
おどおどしながら物言いをする霧咲朱芽の姿を見れるのは後にも先にも数少ない光景であろうことは予想に易い。
そんな小動物のようにしている霧咲朱芽に対して【鍛冶士】の反応は……
「当然似合ってるぞ!!!
百点満点だ!!!
お前は見た目は可愛いが言動が粗暴だからな!!!
そのリボンで少しでも印象が変わればお前のたすけになるだろう!!!
……実はこれを作り始めたのはもっと前からだったが、ちょうど完成したから一緒に渡したのだ!!!
ワシの力をこれでもかと詰め込んだ力作だから何があっても破損しないが大切にして欲しいぞ!!!」
「そ、そっか……
そうなんだな……
大切に……するよ!」
霧咲朱芽はリボンを指でクルクルと弄りながらその後ずっと照れた様子を隠そうともせずウキウキで【鍛冶士】を包丁で切り裂いて鍛冶場で惚けているのであった……
ここから長きに渡る冒険が始まったとか始まらなかったとか……
【Bottom Down-Online Now loading……】
とうとう念願の1000話到達です!
ここまでお付き合いしていただきましてありがとうございます!
そしてこれからもよろしくお願いします!
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