プロローグ
ゴンドワナ大陸、様々な諸民族諸種族がモザイク状に居住するこの大陸では過去幾つもの国家が興亡を繰り広げていた。あるいはこれとこの大陸で何千年にも渡って繰り広げられてきたそのような歴史の一つであるのかも知れない。
転移暦一八九年九月一日……この日、半年に渡る激闘の末に独立政府軍により制圧された内陸州鎮西市の総督府にて一つの宣言が為されようとしていた。
建設されてから一世紀近い歴史を有する総督府の州議会の会場は明らかに装飾過多であり、そのデザインはどこか大英帝国のヴィクトリア朝時代を思わせる。いや、実際この総督府自体かつて、『宗主国の世界』における植民地帝国のそれを非常に意識したものである事は事実だった。初代総督である帰化英国人たるサイモン・ハリファックスがこのようなデザインにするように命じたためだ。尤も所々荒れているのはこの総督府を巡る激しい戦いが行われた事の証明である。
議場に居並ぶ独立派の諸議員達は厳粛な表情を浮かべて宣言が為されるのを見守る。三分の一は宗主国からの直系である事を証明するように黒髪黒瞳の代表達が占め、残り三分の二は金髪や赤毛等その他大陸の人間種、その他獣耳と獣尾を生やした獣人種や透き通る程の白い肌に尖った耳を持つ森妖精種、小人症のように背の低い童妖精種や土妖精種に直立した蜥蜴そのものの竜人種、あるいはそれらの混血種などそのメンバーは極めて多様だ。そしてその全員が緊張していた。
当然だ、この宣言をすればもう後には戻れない。内地の本国は全力で彼らを潰しに来るだろう。この内陸州は内地の生命線だ。最早この外地の存在なく内地の経済は成り立たない。そう、外地の豊富な資源と安価な食糧、そして労働力にして消費者たる『原住民』なくしては。
過去幾度かの交渉は行われてきた。かつて未開の時代であれば兎も角既に一世紀半が経過した現在の大陸は蛮地ではない筈だ。しかし未だに大陸は内地に隷属しており、移民と名誉市民を除く選挙権はない。関税の自主権が無ければ経済的な規制も厳しい。
彼らも粘り強く本国の世論に訴えた筈だった。特に外地を代表する移民系市民は外地住民の代表として内地の同胞に呼びかけた。
だが、帰ってきたのは蔑視と嘲笑の視線だけであった。移民から一世紀半、数世代に渡る世代交代は本土の国民の大陸に対する意識を完全に変えてしまった。かつての共存共栄と相互扶助の精神は失われた。既に本国は外地を唯の経済的植民地であり対帝国戦における緩衝地帯としか見ていなかった。無論、莫大な人命と投資をしてきた本土にも持論はあろうが……少なくとも外地の者達にはそれが強者の高慢にしか見えなかった。そして再燃し、再度戦端が開いた対帝国戦争とその最中の所業を持って大陸は完全に内地に対する憧憬を捨て去り、此度の独立戦争へと至ったのだ。
そして………。
(まさか俺がこんな役割を担うとはな)
独立政府軍司令官として大統領と共に壇上に上がりながら、俺は内心で嘆息する。因果なものだった。まさか自分がこんな大それた立場として歴史を動かす事になるなんて。いや、確かに英雄になりたいとは言ったが……。
(いや、確かに神様さぁ!剣と魔法のファンタジーの世界でなろう主人公したいって言ったけど!言ってけど!)
ちょっとこれは斜め上過ぎる展開じゃあないですかねぇ……?
俺の内心なぞ誰も気づいてはいないだろう。若く英気に溢れた大統領……入植者と森妖精の混血……は壇上で力強く宣言する。
そう、独立宣言を。宗主国たる『日本』に対する独立宣言を。
この日、ゴンドワナ大陸、日本国内陸州政府州都鎮西市を制圧した独立政府軍は宗主国日本からの独立宣言を採択すると共に日本国政府に対する講和条約の締結の呼びかけ、大陸諸国に対する独立承認を呼び掛ける。
これに対して北の大国たる帝国は独立を歓迎、それ以外の諸外国は沈黙を持って答えた。そして宗主国『日本』はこの独立に対して『一部の親帝国反乱分子による騒乱』と断定、治安と市民の生命・財産の安全を乱す独立政府に対しての降伏勧告を出すと共に本土より自衛軍三個師団の派遣を国会にて承認、ここに東ゴンドワナ連邦の対日本独立戦争はその本番を迎える事になった……。