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呪剣のパラドクス  作者: 赤月
第2話 受け継がれる力
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1、なるようになるさ

今回と次回で2話です!! よろしくお願いします!!

 朝起きて、顔を洗って、制服に着替えて、朝食を食べて、まだ馴れない通学路を歩く。平々凡々とした一日の始まりのお約束みたいな朝だ。

 夢みたいなことがあった。

 突然、不思議な力を持った奴が現れて、俺にも突然不思議な力が手にはいって……。

 夢なら覚めてほしいし、ありえない、と思う。なのに――全部現実に起こったことなんだと、なぜか俺の中には確信があった。


「ま、たぶんなるようになるだろ」


 悠然と伸びをしながら、呟く。不安も恐怖も、もちろん疑問もある。だけど、先のことは先になってみないとわからないことのほうが大半だ。

 考えたって今の俺には何が起こってるかなんてわからないし、具体的に今目の前に困難があるわけでもない。


「明日は明日の風が吹く」

「まだ一日も始まったばかりなのに、もう明日の話かよ? 気が早いな翼は」


 後ろから、アルトが声をかけてきた。


「ああ、そっか。そういう見方もありか」

「明日のことを考えるより前に、今日のことから考えたらどうだ?」

「今日、なんかあったっけか?」

「別に。特には何もないんだけどさ。だけど、今日って日を無事に終えなきゃ明日は来ないんだぜ?」

「ま、それもそうか。オリエンテーションとか、よくわかんないけど色々と大変そうだしな」


 中学生に成り立ての俺たちには、まだ授業はないが代わりに、授業についてや学校の施設に関することについての説明をひたすら受けなければならない。


「アルトはさ、不安とかないの?」

「不安って何についてだよ? さすがに質問が漠然としてて、それだけじゃ何とも言えないぜ」

「う~ん、うまく言えないけどさ、クラスにうまく馴染めるかな? とか、友達出来るかな? とか、そんな感じ。ほら、俺たちまだ中学生になったばかりじゃん。今までと違うことをしなきゃならないのって、楽しみなこともあるけど、同じくらい不安になったりもしないか?」

「お前、そんなのに悩むような柄か? そういう繊細なタイプにはとても見えないけどな」

「あー、まあな。正直、俺はあんまないけど、アルトはどうなのかなって話だよ」

「じゃあ俺も、答えはお前と同じだ。次に何が起こるかなんて、誰にもわからないだろ? こんなこと、起こるはずがない。あり得ない、なんて――言い切ってしまえることなんてこの世に一つもないさ」


 昨日、あんなことを経験したからか、アルトの言葉はすんなりと俺の中にはいってきた。

 そして同時に、一抹の不安をもたらした。

 あり得ないと言い切れることなんてない。その言葉が今の俺には、ネガティブな意味に聞こえてしまった。


「ほら。ちょっと急がないと遅刻するぜ、翼」

「あ、あぁ……」


 アルトに急かされて教室まで駆け足で向かう中でも、その不安は消えなかった。


 ■■


「おう、馬子にも衣装だな、翼」

「棟梁。それ、昨日奏さんにも言われたんすけど、褒めてるんですか?」


 学校帰り。中学の近くの建築現場で、翼はガタイのいい、いかにも土方の職人といった見た目の男性に頭をわしゃわしゃと撫でられていた。日々の作業で硬くなった手のひらに捕まれながら、しかし翼はどことなく嬉しそうだった。


「まだ服に着られてるな、翼」

「褒めてないじゃないっすか。全く親子揃って……」

「新しい服なんてそんなもんだ。これから、似合う男になれ」


 翼が棟梁と呼んでいる男性の名は、弓月(こう)。この建築現場の責任者であり、奏の父親である。

 身長180cm、体重85kgの巨漢だが、豪放磊落で誰からも慕われる性格であり、趣味は部下に飯を奢ること、という世話焼きの鬼のような人物である。


「ま、うちの親父がいたら、やっぱ同じこと言われたような気はしますけどね」

「ああ、確かにリュウなら言いそうだな。ただし、アイツの場合はもっとガキっぽい笑い声が一緒についてくるだろうがな」


 そうっすね、と翼が頷く。翼の父、光城(りゅう)に関する二人の評価は、「子供っぽい奴」で一致していた。


「棟梁にはずっと迷惑かけてましたよね、親父は」

「ああ。ある日突然、焼き肉を食いたいと言っては仕事帰りを待ち伏せて焼き肉に行って、そのまま三軒ハシゴしたあげく先につぶれたり」

「母さんが一回、ガチでキレて「もう離婚する!!」って言い出したとき、泣いて棟梁に仲介してもらったり、ってのもありましたね」

「きっと、あっちでも色んな人間に迷惑をかけてるんだろうな」

「容易に想像つきます」


 翼と鋼に限らず、鉄也を偲ぶ話となればたいていがこのように、あいつにはこんな迷惑をかけられた、といった話となる。

 しかし、それは疎ましさや恨みからくるものではない。破天荒で周囲を巻き込む人間であったことは確かだが、しかし光城鉄也という人間は生前、「基本的には」誰からも好かれている男だった。

 一通り、お約束のような昔話をしたところで、翼は本題を切り出した。


「そういや棟梁。これについて、なんか親父から聞いてることないですか?」


 翼はそう言いながら、形見のペンダントを出した。形見として肌身放さずもってはいたが、翼も実のところ、これが何であるのかを知らない。

 まさかこのペンダントが剣に変わる、などということを鋼が知っているとは思えないが、何かしら手掛かりのようなものが掴めるのではないかと翼は考えていた。


「あぁ、それか。確か一度、リュウが無くしたっていって大騒ぎしてたな」

「なんか、ほんとすいません……」


 リュウは前に一度無くしたことがあるらしい。


(しかし、ほんと今さらだけど、親父に関わるもの見せただけで親父が迷惑かけたエピソードがでてくるってどういうことだよ)


 リュウは生前、誰からも基本的に好かれていた。しかし一方で、本当に洒落にならないようなこともいくつかやらかしている。

 このペンダントの本質を知っている翼は、これをなくしたことは間違いなくそのうちの一つに数えて問題ない、と思った。


「で、そのペンダントについて、だったな。確か、親父さん――お前のおじいさんだな。その形見だった、って聞いたが」

「あの親父、最終的に見つかったといえ、じいちゃんの形見なくしてんのかよ」

「あぁ、まああのときはたしか、単に直枝なおえさんが間違っていつもと違う場所に戻してた、ってだけだったからな」

「ん、あぁ、そうなんですか。まあ母さんならやりそうではありますが」

「ああ。それがどうかしたか?」

「いえ。他に、何か聞いてることはありませんか?」

「他は、特にないな。リュウ自身もよくわからないまま、親父さんの遺言だとかで持ってたらしいからな。ま、もし何か思い出したらまた連絡するさ」

「そっすか。ありがとうございます」


 結局、このペンダントの正体が何なのかについては、ほとんど新しいことはわからなかった。


麗香(れいか)さんに聞けば何かわかるかもしんないけど……ちょっと聞きづらいな)


 麗香、とは鋼の妻であり、龍の妹である。

 手がかりが翼の祖父にあるとなれば、翼が思いつく限り、事情を知っていそうな人は麗香しかいなかったが、翼には少し事情があって麗香に話を聞きにくかった。

 というよりも、龍の話を聞きにくい、といったほうが正しい。

 麗香は龍が生前、「本当に洒落にならないこと」をやらかした結果、かなりつらい思いをした一人である。その息子である翼や妻である直枝には、龍が死んだ今でも親交があるし、翼自身も甥としてかわいがってもらっている。

 しかし、麗香の前では龍の話をしてはいけない空気があることも察していた。


「ダメ元で母さんに聞いてみるか」


 ため息をつきつつ、翼は家に帰った。


 ■■


「龍のペンダント?」

「そーそー。これについて。なんか知らない?」


 リビングで夕食を食べながら、翼は母である直枝(なおえ)に一応、ペンダントについて聞いた。

 直枝は化粧っ気がなく、性格は一言でいえば大雑把、だった。眠そうな目をこすりながら、翼が夕飯のカレーを食べている前でつまみ片手に晩酌をしている。


「どーだったかな。お義父さんの形見だ、ってのは言ってたけど」

「あぁ、それは俺も棟梁に聞いた」

「あとは、どうだったかな? お義父さんはいろいろ、その手の古いものとか民族的な装飾品を集めるのが好きな人だったらしいけど、私も光城の家のことはさっぱりだからね」

「それは俺もそうだよ」

「あ、でもなんか……そういや確か、龍が引き取ったっていうお義父さんの遺品の中に、何に使うかわからないものとか古そうな本とかがあったよ」

「マジで!?」

「あー、うん。今は確か(つるぎ)の部屋に置いてあるはずだから、あとで探してみたら?」


 その話を聞いて、翼の食べるペースがあがった。

 さっさとカレーを平らげると皿を洗って、今は海外で暮らしている兄、剣の部屋へと走った。


 ■■


「翼ももう中学生か。早いもんだな」

「父さん、それ、私が中学生になったときにも同じこと言ってたよね」


 家に帰って、夕食の時にふと鋼が漏らすと、呆れたように奏が返す。


「父さん、ほんとは男の子が欲しかったんじゃないの?」

「そんなことないぞ。奏みたいな可愛い娘を持てて、俺は幸せ者だ」

「そういうのは酔っ払ってから言ってよね」


 軽く笑いながら、奏は言う。

 奏にとって、鋼がそれを本心で言っていることなど百も承知である。しかし、それはそれとして鋼が翼をかわいがるのに少し嫉妬しているのも確かであった。


「しかし、あいつも段々、リュウに似てきたな」

「見た目の話、だよね?」

「ああ。見た目の話だぞ」


 奏にとって鉄也は、優しくて少し抜けたいい伯父だが、奏の母、麗香と鉄也の不仲を知っているため、少し複雑な心境であった。

 翼自身も、父親のことは大好きであったが、一方で奏たちの前では龍のことに関して遠慮しているのが明らかだったので、


(他の人からはともかく、父さんに言われるのは複雑かもね)


 と奏は思った。


「中身に関しては、いいところはリュウに似てほしいが、悪いところは似ないでほしいな」

「それは、どんな親でもそうじゃないの?」

「あいつは、特に色々と……破天荒すぎたんだよ」

「まぁ、そうだね。前に確か、なんか似合いそうだからってだけの理由で、おじいちゃんからもらったって石をそのまま父さんに渡した、ってこともあったもんね」


 その言葉に、鋼の手がぴたりととまる。

 龍の父の遺品を整理していたときにたまたま見つけたというものを、酒の席で鉄也から、「大事なものだから大切にしてくれ」という言葉とともに譲られたことがあったのを鋼は思い出した。

 結局その時は、鋼自身に酒が入っていたこともあり、また龍の勢いに押し切られてもらってしまい、酔いがさめてから後悔した挙句、事務所に飾ることにしたのだ。


(明日、翼に返しておくか)


 そんなことを想いながら、鋼は残りの食事を平らげた。


 ■■


 そこは、薄暗く、地の底から冷気が常に吹き上がり続けているような空間だった。

 光を宿した灰色の雷雲が天を多い、周囲にはただところどころに岩石しかないという殺風景な場所で、高座に造られた大理石の玉座に、足を組みながら座っている男は、地面に傅く者に問いかける。


「メーリィよ。あの者は、こちらの世界の光の戦士か」


 傅きながら、黒い羽帽子の道化師、メーリィは恭しくも聞く者を苛立たせる声でその問いに返す。


「ご明察です、ゼール様。あの者、まだまだ覚醒したばかりなれど、いずれはそれなりの腕になりましょう。ゼール様の目的のため、“神武具”の力を高めるための砥石にちょうどよいかと……」

「殺せ」


 明瞭で、慈悲のない声が、矢のようにメーリィの耳に響く。


「遊びはいらん。“神武具”の研磨のための方法など、いくらでもある。我が目的のために、不確定要素はいらん」

「御意に。ゼール様」


 今一度、深々と頭を下げてからメーリィはその場を去った。

 ゼールと呼ばれた男の玉座から離れると、一人の男がメーリィに声を掛けた。


「おい、道化師。あの剣士、お前の手には余るだろう。俺が潰してきてやる」


 身の丈を超える大剣を背負った男、ハデスは、ゼール同様の冷徹な声でメーリィを威圧しながら言った。

 しかしメーリィは、その提案にも顔色一つ変えなかった。


「ハデス様の提案は有り難いですが、私にも次の手はあります。あなた様のお手を煩わせるほどでもありません」

「誰が、お前への好意で言っていると言った? 俺に譲れと言ったまでだ」


 言葉と同時、ハデスが背中の大剣に手を掛ける。

 貫くような視線とともに放たれる殺意が、黒く禍々しい気となってメーリィを襲う。周囲の地面は深く、数センチは沈み込み、あたりにある岩が音を立てて砕け散っていく。これは、攻撃だった。

 しかしメーリィは、それを受けても、まるでそよ風に吹かれているかのごとく涼しげな顔で受け流しながら、へらへらと絶妙に他人を苛つかせる笑顔を浮かべていた。


「おや、これは失礼。しかし私にも、ゼール様から命令を受けた手前、面子というものがあります。ここは、今一度、私に行かせていただきましょう」

「はぁぁッ!!」


 メーリィの言葉が終わると同時、ハデスが大剣を振り下ろす。

 先ほどまでメーリィがいたのと同じ空間に巨大な亀裂がはしる。しかし、そこにメーリィの死体はなかった。

 チッ、いうハデスの舌打ちが、雷鳴の中にまじった。

感想などあればどんなことでも気軽に書きに来てください。いただけると自分が飛び跳ねて歓喜します。


「エブリデイ・マジック」というタイトルでシリーズとしてまとめました。自分のもう一つの連載小説「運命の星のアステリズム」のほうもよろしくお願いします!!

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