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呪剣のパラドクス  作者: 赤月
第1話 剣の誘い
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2、運命を選ぶ

 翼が剣を手に取った、次の瞬間。翼の姿が変わった。

 髪の色は雪のように輝く銀の長髪となり、右耳には鳥の羽のイヤリング。服装も白を基調としたものへ変わり、左腰には剣を佩いた姿になった。翼を守っていたときにはもっと大きかったはずの剣は、物が違うのか、それとも小さくなったのか、今は刀身が1mくらいのものとなっている。

 剣は全体的にシンプルで特に装飾などはないが、鍔のところには意図的にあけたような丸い穴があるという、不思議なものだった。


「これが、俺の運命の始まりってことか」


 ありえないような現象を何度も目の当たりにして、翼は自分が落ち着いていることに驚いていた。


「ここで死ぬつもりはない。だから、詳しいことはわからないけど、ぶっ飛ばさせてもらう!!」


 剣を取り、鎧武者へと駆け出していった。


 ■■


 狭くて戦いにくい。翼はまずそう思った。


(少なくとも、塾の外か……せめて教室くらいからはでないとな)


 勉強机や本棚が並び立っている教室の中で翼は、机や椅子、時にはホワイトボードなどを駆使しながら巧く鎧武者の攻撃を躱していたが、逆に自分から攻撃を仕掛けることはできない。

 ちらりと教室の出口を確認しつつ、そちらのほうへ鎧武者を誘導していく。


(しかし……俺、冷静だな。攻撃もちゃんと見えてるし)


 過大評価でもうぬぼれでもなく、翼は思った。

 事実、鎧武者の斬撃はまだ一度も翼に当っていないし、それは決して運がいい、の一言で片付くものではない。


「さぁ、こっちだデカブツ!!」


 翼が教室の外へ転がり出る。直後、鎧武者の巨大な刃が、教室の扉を、さっきまで翼がいた場所ごと縦に切り裂き、廊下の一部に巨大な亀裂をいれる。


「さぁ、これで多少窮屈さはなくなったな」


 廊下の幅はおよそ4mほどである。翼は両手を横に広げて鎧武者を誘いつつ、後退しながら剣に手を掛ける。

 二人の刃が激しく打ち合う。重量的な面では鎧武者のほうの分があるが、翼は攻撃を真っ向から受け止めることはせず、剣で触れて自分の体に鎧武者の刃が届かないように受け流しているため、結果、二人は互角に渡り合っているように見えた。

 とはいえ、それはあくまで見た目のことだ。翼の剣は、鎧武者の攻撃を完全に受け流せてはいない。その証拠に、その両手にはじわじわと痛みが走りはじめ、やがて受け流すのがきつくなるだろうと翼にはわかっていた。

 次の一撃は受けきれないと思い、鎧武者が刃を振り上げると同時、翼は大きく右に飛び退いた。直後、ハンマーで穴を空けたように廊下が陥没する。翼の後ろには壁がある。逃げ場はなかった。

 鎧武者が横薙ぎに刃を振るう。


「これで終わりだ!!」


 叫ぶと共に、翼の体が宙に舞う。のけぞりながら体を浮かせ、低い室内の天上への激突を避けながら鎧武者の刃を躱し、そのまま中で体をねじって両手で剣を持つ。紫電一閃。翼の剣が鎧武者の鎧を斬り、全身に衝撃を与えた。

 鎧武者は、そのままどさりと床に倒れ込んだ。


「ほう、見事な剣技ですね。振り下ろした時には刃を突き立てておきながら、兜を切り裂いたと同時に剣を横に持ち替え、剣の腹で打撃を与える。なるほど、なるほど」


 ぱちぱちと乾いた拍手がその場に響く。その声は、朗らかで陽気でありながら、蛇に睨まれているような不快感を与える、翼にとっては耳障りなものだった。


「なんだよ、お前。ってか、どこから話してるんだ?」

「ここですよ、ここ。あなたの、すぐ下です」


 言われて翼が足元を見ると、自分の影の中に、口のような不自然な形の影の途切れと、赤い光が二つ。


「はじめまして、光の剣士どの。私の名はメーリィ。以後、お見知りおきを」

「できれば、はじめましてで終わりたいな」

「これはこれは、辛辣ですね。ですが、私としてはあなたに期待しているのです」

「それは、なんつうか災難だよ」

「そんなことをおっしゃらずに。どうせ、あなたはこの運命から逃れられないのですから」


 メーリィと名乗った声は、あざ笑いながら同情していた。可哀想なものが滑稽だと言わんばかりの不快な笑い声が、それだけでメーリィの性格の悪さを表している。


「ああ。そうなんだろう。俺はきっと、この運命から逃げられなかった。誰が悪いわけでもなく、これが俺の運命だったんだろう」

「ええ、物分かりのよいようで助かります。あなたには、これから何人もの敵が現れる。それを、ただ倒し続ければいい」

「だけど!!」


 翼が声を荒げる。

 その怒気に、わずかだがメーリィがひるんだ。


「俺はそれでも、この運命を自分で選んだんだ。たぶん、これから先にはきっと酷いことととか辛いことが待っているんだろう。それでも、それは俺の決断で、俺の責任だ。だから、それをお前に憐れまれるような理由はない」


 言葉と同時、剣を影めがけて勢いよく突き立てる。何かを刺した手ごたえは、ない。


「消えた……か。さて、これどうしよう?」


 怒気を吐いて啖呵をきって、メーリィの存在が消えたあと、我に返って翼は周囲を見た。

 ぼろぼろの塾の教室に、どう考えても自然現象では生まれないクレーターが生じた廊下。ついでにあちこちに着いた無数の刀の跡。そして、倒れ伏す鎧武者。


「…………通報だけして逃げるか」


 塾の人たちに申し訳ないと思ったが、翼がざっと確認した限り、特に死傷者もいないようだったので、翼は早々にこの場から立ち去ることを決めた。この状況を巧く説明する自信はないし、本当のことを言ったところで信じてもらえない可能性のほうが高い。

 翼はこの時、気づかなかった。

 先ほどまで鎧武者が振るっていた巨大な包丁のような剣だけが、その場から消えていることに。


 ■■


 翼が立ち去った後、鎧武者は赤星に戻った。


「運命を選ぶ、か……」


 赤星は、何故か頭の中に残っていたその言葉だけを呟いて、再び意識を失った。


 ■■


 かくして彼、この物語の主人公の一人である光城翼は運命の片割れたる光の剣を手にしたというわけさ。

 翼の言葉は確かに、この時の彼の視点からすれば正しかったのだろうけれど、しかしやっぱりそれは強がりでしかない。当然と言えば当然のことであはるが、彼は運命というものがどんなものなのかなんてまったくわかっていないのだからね。

 だけどそうでも思わなければ正気でいられなかったのも事実だろう。

 どうせ避けられないことならば、せめてそれを自分で選んだとでも思わなければやっていられなかったのさ。そういう風に追い込まれているだけだから、それに気づいてしまわないようにね。

 彼の行く道の先には艱難辛苦が待っている。こんなものはまだまだ序の口さ。運命は転がり出したかもしれないけれど、あるいはとっくに始まっていたかもしれないけれど、翼がそれを自覚するのはまだ先のことなんだ。


 ■■


 ピエロのような格好をして、目元のみを隠す白い仮面をした黒い羽帽子を被った青年は、巨大な剣をお手玉のように放り投げてもてあそびながら、薄暗い廊下を歩いていた。


「おい、道化師」


 道化師と呼ばれた青年、メーリィは声を掛けられたほうを見て、にやりと笑った。


「これはこれは、ハデス様」


 ハデスと呼ばれた男は、背中に巨大な、身の丈を超える剣を持った男だった。


「光の剣士はどうだった?」

「ええ、それはそれは。なかなか素晴らしい素質をお持ちでしたよ」

「そうか」


 ハデスは、それ以上は何も言わなかった。

読んでくださいありがとうございます!!

他にも自分は「運命の星のアステリズム」という作品も連載してます。

https://ncode.syosetu.com/n1199fe/

よければこちらもよろしくお願いします!!

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