夜と朝が交わる中で
俺の日常に当たり前にある何かが変わる日は、いつも晴れだった。
これだけ言えばいいように聞こえるけれど、俺の場合のこれは大体ロクでもないことだ。だって、俺は今、太陽が昇りかけた、夜と朝が混じったような澄んだ東雲の光の中で、親友と――少なくとも俺は親友だと思っている相手と、殺し合いをしているんだ。
「うわぁぁぁぁッッッッ!!」
「うぉぉぉぉぉッッッッ!!」
身の丈を超える黒い剣が俺の脳天めがけて振り下ろされる。身をよじって躱しつつ、「敵」の心臓めがけて手に持った剣を突き出す。
殺すつもりはない。少なくとも、俺は殺したくはない。
だけどこれは、紛れもない「殺し合い」だ。
少なくとも「敵」は俺を殺すつもりで来ているし、そうなると俺も身を守るために全力でやらなければならない。俺と「敵」の実力は伯仲している。そんな相手を前に、殺さないように倒す、なんてのはかなり厳しい。
「どうした? もっと、殺す気で来いよ」
「うっせぇぇぇぇ!!」
そうだ。実際どうなるかわからない。俺は殺したくなんかない。それでも、殺すつもりで戦わなければ、俺は殺される。こいつの心臓を、脳天を、手に持ったこの剣で貫く。それくらいの覚悟がなければ勝てないのはわかってる。
「お前に言われなくても、んなこたぁわかってるんだよ!!」
わかってる。頭では。
まだ死にたくない。やりたいこともいっぱいあるし、俺が死んだら悲しんでくれる人もいる。だから、ここで死んでやるなんてことはできない。ならば、俺が生きるためにやるべきことは――俺の「敵」を殺すことだ。
だけど、だけど……。
俺は、ここで殺されるのか? それとも、こいつを殺すのか?
いったい、どうしてこうなったんだろう。それとも最初から、こうなる運命だったんだろうか。全部は、あの日に――。
■■
はじめまして、この物語を手に取ってくれた諸君。
ボクは、そうだね。この物語の語り部のようなものだと思ってくれ。名前? それは勿論あるけれど、名乗ったところで意味がない。
何せボクはこの物語の登場人物ではないからね。だから名乗ったところで、誰だよ? と再び訊き返されてしまうのが目に見えている。
ボクが「彼ら」と関わる時はいずれくるかもしれないけれど、それはまだずっと先の話なんだよ。
だから今のボクは本当にただの語り部さ。道化師でもかまわない。好きに呼んでくれ。
ボクはこの、どうしようもなく救いが無くて、切ないくらいに破滅的な物語を、時に解説をまじえながら面白おかしく滔々と語る。そのための存在だからね。
え、何故そんなに辛そうな物語を楽しく語るのかって? それはもちろん、楽しいからに決まっているじゃないか。
では始めようか。
二振りの剣という運命に、あるいは呪いに見込まれ囚われた「彼ら」の物語を。
これは「彼ら」が苦しむ物語で。
そして「彼ら」が足掻きながら光を求める物語で。
そしては、最後の最後に必ず絶望で終わると決められた物語で。
そして――おっと、この先は実際にボクがこれから語って聞かせることだね。
長くなるけれど、まあ気長に聞いていってくれたまえ。