クリスマスの夜を照らして.
本当は絵本にする予定だった作品なので、口調は絵本風に書きました。
「ママ!あのロボット買って!」
ある年のクリスマスイブ。
おもちゃ屋のショーケースと母親をくるくる見返して、手を引かれながら駄々を捏ねる男の子。
この男の子の名はチャールズ・ハミエル・マーキントン。
みんなからチャーリーと呼ばれていました。
「ママ!」
チャールズはもう一度頼みました。
「じゃあ、サンタさんに頼んでみたらどう?きっとチャーリーの願いを聞いてくれるわ。」
チャールズはそれを聞くと、「うん!」と大きく頷き、薄く積もり始めた雪を踏みしめて家へ帰りました。
次の日の朝、バタバタと足音をたてながら、チャールズはリビングへ急ぎました。
するとそこには、ラッピングされた大きなクリスマスプレゼントと、チャールズ宛の手紙が置かれていました。
「ママ!サンタさんから手紙がある!」
『願いは聞いたよチャーリー。良い子でいなさい。』
チャールズは息をするのも忘れて、ラッピングを剥ぎました。
中には、チャールズが欲しがっていたロボットが入っていました。
微かな機械音とともに、ロボットの目が光りました。
「私の名前はアダム。君の名前は?」
ロボットが名乗ると、チャールズは嬉しさのあまり涙を流しながら答えました。
「僕はチャーリー。チャールズ・ハミエル・マーキントンだよ!」
「ママ!お願い叶ったよ!」
チャールズはお母さんに抱きついて、泣き始めてしまいました。
「初めまして!メリークリスマス、チャーリー。どうして泣いているの?」
言葉を返せないチャールズの代わりに、お母さんが答えました。
「嬉しいからよ、アダム。」
アダムは首を傾げました。
その日からチャールズは毎日アダムと遊びました。
追いかけっこやかくれんぼ、ボードゲーム、トランプ、何をするにも一緒でした。
数ヶ月経ったある日、チャールズが家へ帰ってアダムと遊ぼうとすると、声は返すのですが動きませんでした。
修理工のお父さんが様子を見て、「足が壊れてるよ。直してあげようか?」というので、チャールズは「僕が直すよ!」と答えました。
お父さんに教えてもらいながら、2日かけてアダムを直してあげました。
すると、すっかりアダムは元気になって、その日はチャールズが疲れて眠ってしまうまで追いかけっこをして過ごしました。
それからはアダムに何かあるたびに、チャールズは勉強をしてアダムを直していました。
そうして何年も経ち、チャールズは今まで得てきた様々な知識と技術、その勤勉さから、名門国立大学の工学部に入学しました。
「父さん母さん、アダム。寮に行くからたまにしか帰ってこれないけれど、手紙は書くから安心して過ごして欲しい。」
チャールズは父と母を抱きしめた後、アダムを撫でました。
「チャーリー、あなたは家族の誇りよ。アダムと手紙を待ってるわ。」
お母さんは笑顔で言いました。
「元気でいてねチャーリー。私も壊れないように元気でいるよ。」
アダムはそう言ってぴょこぴょこと跳ねてみせました。
「元気でいるよ。」
そう答えると、それじゃ。と言って家を出て行きました。
月に何通か、写真と共に手紙が来ました。
チャールズがほかの学生達と肩を組んでいる写真、初めてお酒を飲んだ時の感想、苦手な教授の話、色々な話を手紙でくれました。
両親とアダムはその手紙をいつも楽しみに読んでいました。
ある朝、いつもより少し厚めの封筒が届きました。
「父さん母さんアダムへ。
僕は今軍服を着ています。
そちらは田舎なのでまだ何も知らないと思いますが、戦争が始まったそうです。
こちらにはたまに軍の方々が来たり、敵国の偵察機が空を飛んだりしています。
いつ爆撃されるかもわからない状況で、教授達は講義の時も少しソワソワしています。
数学の教授は、砲撃の角度計算などの為に前線の方へ送られたそうです。
戦車や機関銃の整備・修理兵として僕らに声がかかりました。
僕はこの戦争で父さんや母さんに傷ついて欲しくない。
だから志願してしまったのです。
了承を得ずにやってしまったこと、ごめんなさい。
せっかく学費をくれていたのに軍に行くのですから、僕は家の恥です。
でも、僕は国の為、戦ってきます。
きっと、次のクリスマスには帰ります。
アダムのことはよろしく。
チャールズ・ハミエル・マーキントン」
最後まで読み上げて、お母さんは泣きながらアダムを抱きしめました。
「クリスマスには帰れるよ。」
アダムはお母さんをなだめました。
戦争は激しさを増していきました。
田舎にある家の近くにも、軍服を着た人達が通るようになりました。
チャールズはすぐに帰ってくると信じて、アダムは毎日待ちました。
次のクリスマスの日。
戦争は終わっていませんでした。
アダムは玄関でチャールズの帰りを待ち続けます。
朝が過ぎ、太陽が空を超え, あかく沈み、月が登り始めました。
アダムは家を飛び出し、とにかく音のする方へ、
銃撃や砲撃の轟音がなる方へとにかく歩きました。
チャールズを探して、ひたすらに歩きました。
すると、空高くに大きな大きな鳥が飛んできて、
黒色の卵を落としました。
アダムがそれを眺めていると、
突然、卵が割れて沢山の光が漏れてきました。
ピカピカと輝くその光は、家屋を薙ぎ払い、雲を消し去り、人々を焼き、辺りを呑み込んでいきます。
アダムの目に灯る光が、すっと消えていきました。
「メリークリスマス、チャーリー。」
その年のクリスマスは黒い雪が降りました。
戦争が終わって何年も経ったある日の夜。
修理屋として働く男の元に、大きな箱を抱えた客が来ました。
「戦争が終わってすぐの頃、爆心地の近くでこれを拾ったんだ。AIロボットのようだから直したらその時の記録が残ってるかもしれない。できるか?」
客はドンと音を立てて箱を置きながらそう言いました。
修理屋の男は箱を少し覗くと、
「君は運がいいね。こいつを直させたら僕が世界一さ。」
そう言って仕事を引き受けました。
雪が深く降り積もる夜。
修理屋のガレージには明かりが灯っています。
男は静かに作業を続け、ついに修理が完了しました。
微かな機械音と共にロボットの目に光が灯り、声を発しました。
「私の名前はアダム。君の名前は?」
修理屋の男は答えました。
「僕はチャーリー、チャールズ・ハミエル・マーキントン」
「初めまして。メリークリスマス、チャーリー。」
アダムは尋ねました。
「チャーリー、どうして泣いているの?」




