第92巻
第102章 部の総括[1]
料理部へ行った幌は、なぜか情報部の星井出と一緒にいた。
「なんでお前が料理部に来るんだよ」
幌が聞くと、星井出は一言だけ言った。
「部長がここでやるってさ」
狙いは一つだけだとわかっているが、幌は何も言わなかった。
「こんにちはー」
幌は部室のドアを開けると、すでに何人か部屋の中にいた。
「先に来とるよー」
手を上げて幌を手招きしているのは、琴子だった。
だが、思っていたよりも人数が少なかったようで、幌に聞いてきた。
「あれ?雅は?」
「雅だったら、アニ研の方に行ってからこっちに来るってさ。それで、今日の食材は?」
「鈴から提供を受けたヒレ肉やで。先輩らは幌を作るのを見たいってゆうてて…」
「別にかまわないよ。準備するからちょっと待ってて」
そう言って、カバンを星井出に預けてからエプロンをつけ、銀色のトレイに載せられた300gの豚のヒレ肉に、常時置いてある塩や胡椒などで下味をつけ始めた。
「それで、いつからここは情報部と公安部の部室になったんですか?」
幌は、その場にいたそれぞれの部員に聞く。
「ここは部室じゃなくて、"部活動をするうえで必要な部屋"の一つ。料理部の視察のついでに居させてもらってるだけだから、問題はない」
堂々とした態度で、情報部部長が言い返した。
幌が作っている間、公安部と情報部は一年間の総括をしていた。
どこの部活でもしていることであり、報告書を作成し情報部へ提出することになっている。
「さて、この1年間どうだった?」
公安部部長が2つの部活の部員に聞いた。
「4月に立てこもりがあって…ケンカも数件あったね」
「夏休みには鍵がかけられていた地下通路に金塊が眠っていたし…」
「体育大会のころには、夏バテで何人か病院に運ばれてったっけ」
「文化祭もなかなか盛況だったね」
何人かがそれに応じるようにうなづく。
「ほかに何かあったっけ」
「カップルになったのは15組で、そのうち他校の人と成立したのは3組。別れたのは4組で、他校の人とカップルになっていた人は2組だね」
「別れるのもひっつくのも勝手だけど、数字を書き換える必要があるから、面倒なのよねー」
持ってきていた報告書を見ながら、それぞれが思い思いに話す。
「別れたり、ひっついたり。なんでこんなものまで統計を取る必要があるんですか」
「さあ」
公安部部長は、氷ノ山にさらっと言った。
「ほら、そんなことよりも、出来たぞ」
幌が、一口大に切ったヒレ肉を、近くに適当に積まれていた皿の一つに盛って持ってきた。
「ご飯は無しな、炊いてないみたいだから」
「そりゃ残念」
そう言いながらも、一人1切れしかなかったが、部屋の中にいた全員がゆっくりと食べていた。