第88巻
第98章 遠足[4]
午後3時、円山公園の桜の周りには、高校生が集まっていた。
「全員居るかー?」
「いまーす」
学年主任が点呼を済ませた各学級委員長に聞くと、すぐに返事が返ってきた。
「じゃあ、これからの予定を軽く。今日の予定はこれで終了だ。先生としては、すぐに帰ってもらいたいところなんだが、まあ、そのあたりは個々で判断してくれ。それと、再来週から3学期の定期試験が始まる。そのための勉強もしておくように」
「えぇーー」
かなりの買うの生徒が一斉にブーイングのような残念そうな声を出した。
「そうか、そんなに嬉しいのか。それはさておき、時間割は次の授業の日に配布することになる。その日は休まないように。では、解散!」
先生たちは一か所に集まり、何かを話し合っていた。
だが生徒たちはそんなこと気にするはずもなく、そのまま近くのバスに乗り込み帰る者、神社仏閣へ行く者、友人と付近を散策する者などなど、いろいろなことを楽しんでいるようだった。
その中でも、琴子は幌と一緒に、お土産屋を見に行こうと誘っていた。
「ええか?」
「別に俺は構わないけど…」
人ごみにまぎれてちらちらと見える雅と桜の表情をうかがうように見ているが、彼らは別にかまわないような顔をしていた。
「近くにお土産屋がいくつかあったけど…」
「そこにいこか」
朗らかな笑顔で、意気揚々と歩きだした。
後ろの方で、桜達がそんな幌と琴子を見ながら話しをしていた。
「やれやれ、あの子たちも楽じゃないわね」
「で、どうする。こっちも幌たちの後を追うか?」
「幌はそんなことをしてほしくないでしょうね。だから、私たちは先に帰らせてもらうわ。私へのお土産も買ってあるし」
桜が肩から掛けているパンパンになったカバンの中には、お菓子類がぎっしりと詰まっている。
雅はため息をつきながら、鈴が用意してくれた車に便乗して家へと帰った。
「これ、かわええな」
「そうだね」
二人以外が先に帰るというメールを受け取っていながら、幌と琴子は散策をしながらいろいろとウィンドウショッピングを楽しんでいた。
とあるジュエリー店で、ネックレスを首につけてみたりしている。
「値札…高すぎてこんなの買えないよ」
幌が値札を確認すると驚いたように声を出す。
「えー、なんぼなん?」
「3万6千円」
幌が思うに高校生の3万6千円は漫画本を一シリーズ大人買いするのに匹敵すると考えていた。
「そら、あかんわ」
残念そうに溜息をつき、ネックレスを元の場所へと戻す。
ぶらぶらと歩いていると、どこからか鈴の音が聞こえてきた。
「どこや…」
足元を見ると、一匹の黒ネコが琴子の足にすり寄っていた。
「どこかの飼い猫だろうね」
首輪をしてるから買われている猫だろうと幌は判断したが、琴子はそんなことを気にせずに猫の頭をなでた。
「かわえーなー。こんなやつ飼いたいわ」
ゴロゴロとのどを鳴らしながら琴子の手に頭をこすりつけている。
だが、幌のそばには決して寄ろうとしない。
「一方の俺は嫌われてるようだがな」
「ええやんか、たまにはそんなこともあるって」
しゃがんでいる琴子と立ちっぱなしの幌は、そんな会話をしていた。
猫が気まぐれにそのままどこかの塀へ飛び乗り、尻尾をピンとたたせたまま歩いていくと、
琴子は再び歩き出した。
「…次どこいこか」
「帰ってもかまわないが?」
どこかのお寺の境内で、二人は話していた。
幌も琴子も何処のお寺にいるのかわかっていなかったが、あまり気にしていないようだった。
「今日は雨が降るとか言ってないから、もうちょっと二人でいれるけど……」
「まあええか。ぼちぼち帰るとするか」
お寺から出ると『京都駅』目指して歩き出した。
だが、途中で空を見るとどこからともなく黒い雲がだんだん張り出してきた。
「雨が降りそうだな」
「急ごか」
二人は足を速めたが、途中で雨が降り出してしまった。
偶然入ったお土産屋の中で、適当に見て行くことにした。
外は本降りになりつつあり、一層黒くなっていっていた。
幌たちと同じような目にあった人たちも何人かいて、一緒にお土産を見ていた。
「これいいかも」
琴子が幌にブレスレットを見せる。
青色単色だったが、その青色が不思議な深さがあった。
「同じのって無いのかな」
「なさそうやね」
ブレスレットが入っていた木の箱の中を探してみるが、同じモノは一つもなかった。
「これだけやな」
琴子は残念がったが、幌はあまり気にしてないようだ。
「いいんじゃないか?琴子だけでも気に入ってるんだからさ」
「まあ、そうやね」
そういって、琴子は他に何かあるかを探すために、店の中を歩き回った。
10分ほどすると、さっきのブレスレットだけをレジに持って行った。
「これください」
「はい、えっと350円ですね」
琴子が財布を開くと、そのまま凍り付いた。
「どうした?」
「お金足りない……」
「え゛」
幌がため息をつきながら、財布を取り出した。
「お釣りください」
「わかりました。150円のお返しです」
ブレスレットを紙袋に入れてもらい、おつりとレシートを受け取って、幌と琴子は店を出た。
ちょうど雨は上がっていて、夕日が差し込んでいた。
「きれいやな」
「そうだね」
琴子が先に店から出た。
店の軒先からはまだ雨粒がぽたりぽたりと落ちているが、それをうまく交わしながら道へ出た。
「そうだ、これ」
紙袋を琴子へ渡す。
「貸しだからな。ちゃんと返してくれよ」
「わかっとるって」
琴子はそういいながらも、夕日のせいかわからないが紅くなってる幌に笑いかけた。