第84巻
第94章 3学期始業式
3週間ほどの短い冬休みが終わると、始業式がある。
幌たちは久しぶりに会う友人と体育館へ行くまでの間、いろいろと冬休みの思い出を話し合っていた。
「それで、冬休みは何してたんだ?」
「宿題して、みかん食べて、初詣に行って……」
幌に指折り数えながら教えているのは、宮司だ。
文版と寮を出てから3が日までを一緒に過ごしているし、そのまま二人で一緒に寮にまで帰ってきていた。
そのことをいろいろな想い出と一緒に話をしている。
「面白そうだね。何の話?」
そこに出てきたのは、山門だった。
山門も鈴とともに年末年始を過ごしていた。
ニースへ旅立つ日に山門と鈴は何かをしたらしいのだが、山門はいつもはぐらかすだけだった。
「冬休みも終わっちゃったなー……」
残念がっているのは、窓側の席に座り外を眺めつつも氷ノ山に話しかけている桜だった。
「仕方ないよ。終わっちゃったものは」
「でも、後1週間とか伸ばしてくれないのかな」
「授業の関係とかもあるだろうし、冬休みが長くなっただけ夏休みが削られるかもよ」
「それはヤダな~」
桜はそんなふうに話しながら、まったりと時間を過ごしていた。
「ふぅ…」
そんなところにため息混じりに来たのは、桜と同じ天文部に所属している澤井陽菜だった。
「どうしたの?」
桜は澤井に心配そうに聞く。
「いや、ちょっと……」
周りの目を気にしているようだが、桜と氷ノ山だけしか聞いていないことを確認すると、思いきった表情で言った。
「体重が増えちゃって……」
「お正月にお餅ばかり食べてた?」
桜が聞くと、澤井はうなづく。
「でも、あまり多くなかったんだよ。1日3個ぐらいだったんだよ」
「年末年始、ずっと食べてたら太るわよ」
「う……」
氷ノ山にビシッと指摘されると、何も言い返せない。
そこに、鈴がやってきた。
「新年、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」
形式ばった言葉だが、鈴にふさわしいようにも思える。
桜がそう考えていると、その言葉に反射的に体が反応していた。
「あけましておめでとう。これからもよろしく」
桜と氷ノ山が1字ぐらい違う速さで同時に言ったから輪唱のようになっていた。
鈴に落ち込んでいる澤井の理由を話すと、不思議そうに言った。
「体重って、食べすぎたら増えるものなのかしら?」
「え?」
3人そろって聞いた。
「わたくしは、どれだけ食べたとしても、あまり体重って増えないの。わたくしの一族の者たち全員そうだったから、普通もそうだと思っておりましたの」
見下したような話し方にしか聞こえてこないのは、怒りのせいだろうか。
とにかく、澤井と氷ノ山はうらやましそうに見ていた。
「私たちは普通に増えるけど、というか、それが普通だと思うよ」
「やはりそうなんですね。わたくしにはよくわかりませんが」
「なあ、ほんまに一発ドツイテええか?」
話をどこまで聞いていたのか分からないが、琴子がすぐそばに立っていた。
「いつからいたのよ」
桜がきくと、琴子は適当にはぐらかした。
「そんなことよりも、そろそろ始業式やけんども、行かへんのか?」
琴子とが言って周りを見渡すと、クラスの半数がすでに体育館へ向かったようだ。
「うちらも行かへんと、また叱り飛ばされるで」
そういう琴子は、すでに体育館用の上履きを持っていた。
「先いくで」
あっさりと桜たちを置いて教室を出て行く。
桜たちもあわてて上履きの布袋を持って、教室から出て行った。