第83巻
第93章 お正月[4]
氷ノ山は実家の南側にある窓から御来光を見ていた。
「今年一年、平穏無事でありますように……」
思わず手を合わせてしまったが、亜紀留以外はまだ寝ていた。
「こうやって寝てる時はかわいいんだけどなー……」
弟たちが寝ている布団の横で亜紀留がつぶやいた。
それから窓を開け、ベランダへと出た。
大きく伸びをすると、徐々に太陽が昇ってくるのが感じた。
「ふぁーっ!」
自然にあくびが出てきた。
窓ではなく網戸にしていると、後ろから声が聞こえてくる。
「誰か起きてるのか?」
もそもそ出てきたのは、父親だ。
「お父さん、私よ」
「亜紀留か。いつもはもっと遅かったんじゃないのか?」
「今日は特別。お正月だし、初日の出も見たかったから」
「今年は月食だったけど、そこから見たのか?」
「お父さん、それを早く言ってくれないと~」
亜紀留はそのことを知らなかった。
「まあ、最大食分でも8%らしいが」
「…見えるかどうか微妙なラインね」
全体が100%でそのうちの10分の1以下と言うことは、見ても分からないだろうと言うことを、亜紀留は思ったのだった。
数時間ほど彼女の部屋にあるパソコンで遊んでいると、弟たちもノソノソと出てきた。
「あれ、姉ちゃんおはよう」
「おはよう」
「朝からパソコン?目が悪くなるよ?」
「いくらしても目が悪くならないからいいの」
亜紀留はそう言いながら、パソコン画面から50cmぐらい離れて操作をしていた。
「おせちを食べるらしいから、呼んでくれって言われたんだ」
麻乃の後ろから佐見が顔を出しながら言った。
「分かった。すぐ行くって言っといて」
「はーい」
二人ともすぐに顔がひっこむ。
亜紀留はパソコンを休止モードにしてから、部屋から出た。
リビングへ行くと、3重おせちが並んでいた。
「市販品だけどね」
「近所の『JUSCO』で買ってきたらしいよ」
「そういえば、新しくできたんだって言ってたね」
車で15分ほどしたところに、かなり広い土地に建てられた大型ショッピングモールがあった。
『イオンモール』の建物の3分の1を占めているのがジャスコで、この近くで一番大きなスーパーだった。
「いただきまーす」
何も言わずに皿を配り、緑茶を入れてお箸を配っていた久那が真っ先に食べ始めた。
3重のおせちには定番のものが入っていた。
それぞれが好きなものを勝手に御箸でつまみ上げ、テレビの『ニューイヤー駅伝』をみながら食べ始めた。