第82巻
第92章 お正月[3]
宮司は、文版と初もうでを終えると、なんかすっきりした表情で家へ帰っていた。
「ただいま」
玄関には鏡餅が飾ってあり、扉の上には注連縄とお飾りがある。
「お帰り」
母親だけが出てきた。
父親や親せきの男衆は歳神様をお招きしている最中らしい。
靴を脱ぎ家へ入った時、携帯が鳴った。
「誰から…雅からか」
「どうしたの?」
「1月2日にこっちに来てもいいかって。いとこも連れて行っていいかっていう話だけど…」
「あと10分ほどで儀も終わるから、そしたら聞いてみたらどうかしらね」
母親にそう言われて居間でお茶を飲みながら待っていると、父親たちが帰ってきた。
「帰ってきたか」
宮司をみるとすぐに父親が聞いた。
「お祓いをしとかないといけないな…」
上から下まで見てから白い正方形をした懐紙を桐の箱から取り出すと、三角に折った。
それを2つ作り、宮司と文版の肩へ右、左、もう一度右へ触れた。
「谷折りの方から息を一回吹き掛けて」
宮司の父親は文版にそう言った。
よくわからないまま文版が息を吹きかけると、体の中から何かが出てくるような気がした。
それを包み、彼はどこかへ持って行った。
「あれって…」
「体の中にこもった"穢れ"を祓ったんだ。それだけさ」
宮司は至極当然のように言ったが、文版にはあまり理解できなかったようだった。
居間で座布団に座り、父親にさっきのメールの件を話すと、少し考えてから言った。
「みんなは別にかまわないのか?」
車座になっている親戚やいとこたちは、別にかまわないらしくうなづいていた。
「大丈夫みたいだな。部屋は…」
「空き部屋はありませんよ。どこか取りましょうか?」
「自分ところに来ればいいよ。4人まとまっても十分に寝れるだろうし」
宮司が話しあっているところに割り込んだ。
「そうだな、それがいいな」
父親もそれで納得したらしい。
それから夜が明けるまで、いろいろとしていた。
おせちの用意をし、お茶を入れ、テレビをつける。
偶然にもお茶を入れた時に茶柱が立ったから、わざわざデジカメで写真を撮ったぐらいだ。
そういう雰囲気の中、御来光が宮司の家の中に差し込んできた。