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女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
冬休み 大みそか~正月編
77/688

第77巻

第87章 大晦日からお正月 [3]


氷ノ山亜紀留が実家に帰ったのは12月29日だった。

その日には、残っていた生徒もごく僅かになっており、氷ノ山を含めて15人程度しかいなかった。

ただ、星井出もこの日に帰ることになっているらしく、同じ時間の新幹線に乗るために、同じ電車に乗り込んでいた。

「それで、星井出の実家ってどこだっけ」

「ここから遠いところさ」

『JR環状線』の電車に揺られている二人は、結構人が乗り込んでいる中で立ちながら話をしていた。

「そっかー。私も結構遠いんだ。だからこそ、新幹線とか飛行機とかに乗らないといけないんだけどね」

「そういや、冬休みの宿題終わらせたか?」

「あんなの、サクッと終わるよ」

星井出が宿題の話を振ると、急に自信無さげな話し方になった。

「終わってないんだな」

「いいもん、ちょっとだけだからすぐに終わるから」

「確かにさ、女子のほうが宿題の量は少ないけどさ…」

「それよりも実家に帰ったら、いろいろと忙しくなるから、宿題どころじゃないんだよ」

そのことを思い出して疲れ気味になっている氷ノ山に、不思議な表情を浮かべている星井出が聞いた。

「なにがあるんだ?」

だが、氷ノ山は何も話したくないようで、それきりそのことを話題にしようとはしなかった。


新大阪駅で星井出と別れた氷ノ山は、それから新幹線で2時間半強かかって、『熱海駅』へとたどり着くと、すぐに出迎えの車が待ち構えていた。

「お母さん、ただいま」

「お帰り」

10人乗りのボックスカーの中には、弟たちが座っていた。

「姉ちゃん、おひさ~」

手を振る同じような顔の3人の弟は、今はそれぞれ中2、小6、小4となっていた。

遊び盛りの彼らにとって、姉は格好の遊び相手になっていたが、逃げ出した格好でいなくなったため、どうしようもなくなっていたのだ。

速やかに空いていた助手席に座ると、すぐに母親が乗り込み、発車した。

「それで、学校はどうなの?」

「楽しんでやってるよ」

「そりゃよかった」

だが、そんな変哲のない会話は、後ろからの声にかき消された。

「姉ちゃん、帰ってくるんだったら何かお土産とかは?」

長男の麻乃(まの)が聞く。

「そうだよ、姉さんが帰ってくるって聞いてたら、何かしたのに」

二男で姉が一番気に入ってる佐見がつづけて言う。

「でも、お姉ちゃんに何を出すつもりだったの」

三男の久那が佐見に突っ込む。

「化粧品とか?」

「高いじゃない」

家に着くまで、そんな調子で口論をしていた。

「…もしかして、全く変わってない?」

亜紀留は運転している母親に聞くと、ため息交じりで答えが返ってきた。

「そのもしかしてよ」

二人は、そろってもう一度ため息をついた。


懐かしの我が家へ着くと、荷物を私室へ上げて、そのまま敷きっぱなしになっているベッドに倒れこむ。

「懐かしー…」

なぜか、ホコリ一つ立たないが、気にしなかった。

「お姉ちゃん、入るよ」

ノックをして中へ入ってくるのは、二男だ。

「どうしたの?」

「ちょうどいいから、宿題教えてもらおうと思って」

「いーわよ~。どこ?」

プリントの束の一枚を見せると、問題を指差した。

分数の足し算だった。

「3/4+3/7=?ね。はいはい、じゃあ、通分してみましょうか。通分は知ってるよね」

「うん」

その時、再びドアが開かれ、三男と長男もノートやプリントを持ってきていた。

「あーっ、先に教えてもらってるー」

「兄ちゃんだけずるいー」

二人は指さして二男を非難した。

「じゃあ、通分してみて」

そんな二人を無視して、亜紀留は二男に続けて教えていた。

「姉ちゃんもー」

「ハイハイ、後でね。先に言ってきた方が勝ちよ」

仕方ないのでそう言って、二人を強制的に廊下へ追い出した。


それからため息をつく暇もなく、めまぐるしく月日は流れ、大みそかになった。

「結局、宿題は終わらせることができたけど……」

亜紀留はこたつの中で足を伸ばしながら、テレビをぼんやりとみていた。

テレビでは、弟3人がゲームをして遊んでいた。

こたつの上には、『デコポン』がなぜかかごに盛られていた。

「こたつといえばミカンなのに、なぜにデコポン?」

「お隣さんから頂いたものよ。食べたいならどうぞ」

母親が厨房に立ちながら亜紀留に言った。

亜紀留からみて祖父の代から続いている民宿の女将をしている母親は、泊ってるお客さまの朝と晩ご飯を作ることになっている。

「で、ことしは何人泊ってるの?」

建物自体は別棟、廊下で続いているが扉で区切られている、となっているためこちらからは何人泊っているかはわからない。

「10人ぐらいかしら。ただ、予約客はもう少しいるから、正午ぐらいに来る予定よ。あの人が接客をしてくれるから、こちらは大丈夫」

あの人とは、亜紀留の父親だ。

「じゃあ、私が手伝わなくてもいいよね」

そういって、さらにこたつの中へもぐろうとする亜紀留を、母親は無理やり引きずり出した。

「あら、宿題が終わってるんでしょ。だったら手伝えるわよね」

「あいつらに頼んでよ。私はまったりムードでこたつに入ってるんだからー」

そう言って、弟たちを指さす。

「俺らは姉ちゃんがいない間、ずっと手伝ってたんだ。たまには姉ちゃんがやればいいんだよ」

そう言って、そっけない態度をとっていた。

結局、亜紀留は母親の手伝いで、別棟のほうへ行く羽目になった。


「お小遣い、頂戴よね」

「十分あげてるから、これ以上はいらないでしょ」

ただ働きさせられることになった。

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