第76巻
第86章 大晦日からお正月 [2]
山門の家では、年越しそばを食べながら年越しをしようとしていた。
「あとで初詣に行きましょうか」
山門の母親が、兄妹に話しかける。
山門の横には、鈴も座っている。
軽自動車で来てそのまま座っているのだ。
山門の家から歩いて10分ほどした所にお寺があり、毎年近所の人たちが初詣に来ている。
鈴はお寺から直接家に帰ることになっていた。
ズズーッとそばをすすっている華音よりも先に食べ終えていた山門が答える。
「母さんと父さんだけで行ってきたらどう?」
「外は寒いし、家の中がいいな~」
華音も山門に同調して言っていた。
「…おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に来てくれるって言っていたわね」
その言葉に、二人ともピクンと耳が向く。
「お年玉もくれるって言っていたな、だけど、二人ともいかないって言うんだったら、仕方がない。二人で行ってこようか」
「そうよね」
明らかに息子と娘を行かそうとしているのが見え見えだったが、お年玉と聞いては二人ともいかなければならなかった。
お金はだれもがほしいものの一つだからだ。
12時になる10分前に、5人は服を着替えて外の寒さに耐えれるような服装になった。
「大丈夫かな?」
「外に出てみたらどう?」
華音に言われて、山門は分厚い上着を着たまま外へ出る。
息が白くなっているが、それよりも空からふわりふわり落ちてくるかけらが気になった。
「雪だ…」
両手を空に向かって伸ばすが、雪は器用に山門の手を避けて下へと落ちてくる。
「あら、今晩は晴れだったはずなんだけどね」
「そんな日もあるだろう」
父親が山門と華音を見ながら言った。
「それよりも、華音は外に出ないのか」
「今からだよ」
懐炉を一つ、右側のポケットに入れてから外へと出てきた。
「積もるかな?」
「この雪質じゃ無理だろうな」
華音が山門のすぐそばに立って聞いた。
家が面している車道は街灯の明かりに照らされて濡れているのがはっきり分かるほどだった。
二人とも、真っ白い息を空へと流しながら雪がはらりはらりと彼らのもとへ落ちてくるのを見つめ続けていた。
華音のすぐ後ろから鈴が出てくる。
「雪ね…」
「なんだか、ロマンティックな夜だな」
「あれ、私が邪魔かしら?」
笑い合っている山門と鈴の間に挟まれた格好で立っている、頭一つ小さな華音がすこしふてくされたように言った。
「そんなことないさ」
それでも、鈴と山門は優しい笑みを浮かべていた。
12時の5分前になり、父親も携帯ラジオを肩から下げ、イヤホンを肩耳に突っ込んでから出てきた。
すでに、母親はしっかりと重装備で外で待っていた。
「全員出てきたな」
「うん」
父親が最後に扉に鍵をしっかりと掛けると、4人は初詣に出かけた。