表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女子高と男子校  作者: 尚文産商堂
冬休み 前半編
74/688

第74巻

第84章 冬休み前半 [3]


寮にいた氷ノ山と文版は、とりあえずラジオを聞きながら宿題をしていた。

「そういえば…」

2次関数を解いているうちに、妙な答えが出てきてしまったため、いったん無視して次の問題へ取りかかっていた氷ノ山は、文版に急に話しかけられた。

「いつ帰るつもり?」

「実家に?」

「そ」

赤ボールペンで丸付けを終わらした文版は、数学から国語へうつっていた。

「大晦日ぐらいには帰る予定だけど。もしかしたらもうちょっと早く帰るかもしれない」

「そうそう、そういえば聞いた?」

「何を」

問題を解く手を休めず、氷ノ山が聞き返す。

「来年のコトよ。統合されるけど、一緒にはならないって言う話だったでしょう」

「ああ、そうだったわね」

女子校と男子校に分かれているという珍しい状況だったが、少子化の影響か、年々入学希望者が少なくなってきていた。

教職員は、そのことによって危機感を抱いていたらしい。

その結果が、男女校を合併し、名称を改めると言うことだった。

予定では、来年4月1日をもって、本校は手野町市立高等学校となり、市立の後に付けられていた男女の名称は外されることになる。

「それで、聞いた噂なんだけど、来年から同じクラスで勉強をすることになるって言う話。それって本当なの?」

「私は公安部であって情報部じゃないのよ。知りたいことがあるなら、ちゃんとした手続きをとって請求したら?」

「そうだけどね、今月ちょっと……」

懐が寂しいような、右手を胸から下げた。

「お金がないのは、私のせいじゃないって」

ノートを閉じ、机の前に置いてある時計で時間を確認すると、12時に近くなっていた。

「食堂行くか…」

寮の食堂は男女共同になっていた。

食堂自体は女子寮の中にあるが、男子も使うため逢い引きに使われていたりもする。

学校側はあまり思わしく思っていないようだが、一度しかない青春時代という生徒会側の主張が、今のところ通っている。

「じゃあ、わたしも~」

氷ノ山が出て行こうとしているのを見ると、文版もすぐについてきた。


食堂はすこしすいており、4人掛けのテーブルに座ることが出来た。

「食券買ってきてあげるよ、なにがいい?」

「カツ丼」

「ラーメン」

「中華丼」

氷ノ山が行こうとした時、ちょうど星井出と宮司が食堂へ来た。

「ちょうど良かった。オレのも買ってきてくれよ」

「…立て替えだからね」

「分かってる」

星井出と宮司は持ってきていたウェストバックを机の上におくと、文版に聞いた。

「そういや、正月はどうするんだ」

「今のところあまり考えてないや、実家に帰ってもいいけど、行ったところでこっちとあまり変わらないだろうしね」

文版は少し寂しそうな顔をしながら言った。

「だったら、俺と一緒にいてくれないかな」

文版が机の上に出した手を握りながら、宮司が言っている。

すぐ横では、ごはんを取りに行くことを装って、その場から速やかに逃げ出している星井出が、氷ノ山と一緒に帰ってきていた。

「はいはい、甘い生活は別の機会にしてね」

あきれたような顔をしながら、欲しいでと氷ノ山でカツ丼、ラーメン、うどん、中華丼をおぼんに載せて持ってきた。

「ほら、カツ丼は宮司、ラーメンは文版だったわね」

「ありがと」

二人とも、ほとんど同時にうけとる。


「お正月はどうしようって言う話か」

それぞれが昼ご飯を食べながら、さっきまで寮で話していたことを氷ノ山が話す。

「そうよ、星井出はどうするつもり?」

「家でごろごろしてようかと思ってたけど」

「つまんないなーって思ったのって、私だけかな」

氷ノ山が、そう言いながらも、楽しそうな顔を浮かべていた。

「みんなは、それぞれがいいと思う過ごし方をすればいいだけさ。本人がいいと思うんだったら、とめやしないさ」

そう言って、中華丼を勢いよくかき込み始めた。

照れ隠しをするかのように、顔を赤くしながらだった。


全員がいろいろ食べながら話していると、いつの間にか寮母が近くに来ていた。

「あ、寮母さん」

そばをすすりながらこちらを振り返ったのは、大学生にも見える、かなりきれいな女性だった。

「氷ノ山亜紀留さん、文版栄美さん、宮司宮司さんに星井出包矛さんね。お正月は帰る予定みたいになってるけど…1人を除いて」

ざるそばをいすと一緒に持ってきた。

寮生活をしている人は、長期間外出するときには申請書を出すことになっていた。

正月と夏休みぐらいしかないが、ゴールデンウィーク中も行く人がいるという話だった。

「さて、そんなことよりも、ここでのんびりしてて大丈夫なの?」

「え?」

一同はほとんど同時に食べ終わっていて、寮母が椅子を持ってきたときにはお茶を飲んでいた。

「宮司さんは、『新幹線』の時間がもうそろそろじゃなかった?」

「本当ですか?」

時間を確認すると午後1時前。

1時間近く、食堂にいることになる。

「予約は3時に『新大阪駅』だったはずだから、もうちょっと余裕はありますよ」

「ここから新大阪までだったら1時間ね」

携帯で確認しているのは、文版だった。

「余裕を入れたら後30分ぐらいだけど…どうする?来る?」

文版に最後の確認をする宮司に対して、少し考え込む。

携帯でどこかにメールを送ったり、返信をもらったりしている間に15分たった。

「そろそろタイムリミットだよ」

宮司が冷静を装って答える。

「15時09分の新大阪発『博多』行きの新幹線『のぞみ』に乗る予定だからね」

「行く!」

唐突に椅子から立ち上がったため、椅子が後ろへ倒れた。

「行きます、準備してくるから、女子寮の玄関で待ってて」

「え、ちょ」

何も聞く前に、食堂から飛び出していった。

「あら、大変ね」

寮母はそれを見て、ただ笑っているだけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ